韓国、「外貨準備」危機対応に800億ドル不足「長期不況必至」 | 勝又壽良の経済時評

韓国、「外貨準備」危機対応に800億ドル不足「長期不況必至」



*******************

能天気な韓国政府の対策
過去の危機以上の在庫増

韓国経済は、警戒警報が発せられたのも同然である。1ドル=1200ウォンの危機ラインを割り込む局面が出始めたからだ。過去、1997年と2008年にウォン暴落に見舞われて通貨危機に陥っている。次に起これば「3度目」となる、いやが上にも緊張感が高まる。

韓国政府はこれまで、外貨準備高が3600億ドル台であるから心配ない。そう言った楽観的な話しをしてきた。だが、為替危機という緊急事態では即時、米ドルに換金できる資産でなければ意味をなさない。その備えが手薄なことが判明した。外貨資産の運用益を出すため、外国債券や外国株式に投資しているからだ。これでは、万一の「ウォン投機」に即時対応が不可能である。こんなときに、日本と通貨スワップ協定を結んでいれば、難なく乗り切れる。その「神の手」である日韓通貨スワップは、昨年2月に自然消滅している。韓国社会の価値基準は、「感情8割、理性2割」という感情過多症である。物事を理性的に考えない韓国政府の脆さがストレートに現れた一件だ。

能天気な韓国政府の対策
『朝鮮日報』(1月12日付)は、「外貨準備高 危機対応には797億ドル不足」と題する記事を掲げた。

この記事は、やや専門的な内容である。理解していただきたいのは、国際決済銀行(BIS)という公的機関が算出している基準によれば、韓国の外貨準備高が797億ドル不足することだ。国際投機筋が、この事実を頭に入れて「ウォン売り」を仕掛けてきたら、韓国は3度目の通貨危機に陥るリスクと隣り合わせである。

①「韓国政府が過去最高の外貨準備高を根拠に通貨危機再来の可能性を否定する中、韓国経済研究院は1月11日、現在の韓国の外貨準備水準では危機状況への対応に十分とは言えないとの分析を明らかにした。 同院は、『韓国経済の危機可能性評価と示唆点』と題する報告書で、2014年現在の韓国の外貨準備高(3636億ドル)では、通貨危機発生時に必要な外貨準備水準に797億ドル足りないと分析した」。

②「報告書は国際決済銀行(BIS)基準で、年間収入4分の1、短期対外債務、外国人による株式・債券投資の3分の1を合計した金額が危機時に必要な外貨準備高だと規定。それを当てはめると、韓国の外貨準備高は、現在より797億ドル多い4433億ドルなければならないことになる」。

不思議なのは、韓国政府が前記のBISの基準式を承知しながら、昨年2月に日韓通貨スワップを自然消滅させたことだ。今回の中国株安に発する世界株安連鎖において、日本円は、「リスク逃避通貨」として買われて突然の円高に転じた。日本円の信頼は厚いものがあり即時、ドルと換金できる強みを持っている。韓国は、こういう利点を知り尽くしながら、当時の「反日」という感情論に支配されて、日本へ頭を下げなかった。韓国社会の通弊に支配された結果であろう。韓国に取ってみれば、惜しい事ことをしたのだ。

『朝鮮日報』(1月22日付)は、社説で「韓国の外貨準備、現水準でも安心できない」と論じた。

この社説では、韓国政府が為替投機に対して、余りにも「能天気」であることが分かる。中国経済の急減速に伴い、最も影響を受ける通貨のトップは韓国ウォンである。これは昨年から国際金融市場で噂されてきたことだ。国際投機筋は、弱い通貨を探し出し、徹底的に売り込むのが常套手段である。韓国は、過去2回も投機筋から痛めつけられている。その経験がまったく生かされていない点に驚く。韓国政府は、一体どうなっているのか。「反日」では執拗に迫ってくるのに、こと経済問題ではまったく淡泊なのだ。

③「韓国は過去にも世界の金融市場が不安定化するたびにドル資金の流出に直面してきた。1997年には10年以上の長期債権、信用度が低い開発途上国向け債権まで外貨準備高に含めた結果、必要な時に現金化できずに債務不履行(デフォルト)の危機に追い込まれた。2008年にも保有外貨の大半を株式や債券に投資した結果、韓国の外貨準備には現金が足りないと疑われた。このため、08年3月に2600億ドル以上あった外貨準備高は、8カ月で600億ドル以上減少した。結局、08年10月に米国との通貨スワップ協定に基き、200億ドル近い支援を受け、ようやく危機を脱した」。

2008年の通貨危機では08年3月、2600億ドル以上あった外貨準備高が、8カ月で600億ドル以上も減少する痛い経験をしている。為替投機の特色は、弱いと睨んだ通貨を集中的に売ってくるという特色がある。つまり、弱みを握られたら負けである。弱みを見せないとは、通貨スワップ協定を多角的に結んでおくことだ。それも弱い通貨と手を結んでも意味はない。日米との通貨スワップ協定が最強手段である。その日本へ「反日」で喧嘩を売っていた。余りにも、愚策と言うほかない。

④「昨年末現在で、韓国の外貨準備高は3679億ドルだ。韓国政府は外貨準備高が国際通貨基金(IMF)の勧告する水準を満たしており、懸念の必要はないと説明する。しかし、年初以来ウォン相場が1ドル=1200ウォンを割り込み、5年半ぶりのウォン安水準となっている。為替相場がこれ以上不安定化すれば、いつでも急激にドルが流出し得る。米日と通貨スワップ協定も結んでいないため、支援を求めることもできない状況だ」。

この社説では、はっきりと日米との通貨スワップ協定の必要性を指摘している。中国の人民元では役に立たないのだ。昨年2月の日韓通貨スワップ協定の自然消滅時、韓国政府は中国との関係強化で乗り切れると公言していた。今になって考える、とんだ間違いをしたものである。これほど経済音痴な政府も珍しい。

人民元は、すでに世界の投機筋が売りの照準を合わせている。中国の外貨準備高は、年内に3兆ドルを割る。その時、人民元相場は国際投機筋から売り浴びせられるであろう。中国の経済力は、ここまで低下してきた。私が、5年前から中国経済を警戒してきた。韓国政府は、これと逆に中国へすり寄っていたのだ。「反日」という感情論が、理性を曇らせたのであろう。

⑤「最大の問題は韓国の外貨準備高のうち、すぐに使える現金性資金が3.6%にすぎず、93.8%を債券や株式に投資している点だ。非常時に現金化できる資産に割合は1年前に比べ増えるどころか減った。韓国に危機が迫り、再びドル不足に陥りかねないという警告が海外から聞こえてくる。韓国政府は非常時に備え、外貨準備の現金部分を増やすと同時に、急激なドル流出を防ぐ対策も立てるべきだ。米日との通貨スワップ協定再締結も中長期課題として話し合う必要がある」。

韓国の外貨準備高のうち、すぐに使える現金性資金がたったの3.6%にすぎない。93.8%を債券や株式に投資している。これでは、ウォン投機が始まったらひとたまりもない。韓国の外貨準備高は3679億ドルである。この3.6%が現金資金であるというから、131億ドルしかない。ならば、昨年2月までの日韓通貨スワップ協定は100億ドル。ほぼ、韓国の現金性預金に見合うドルが、即時調達できた勘定である。韓国政府は、そのメリットを「日本憎し」で放り投げて捨てたのだ。何とも、愚かなことをしたものである。

韓国が、現預金比率を下げているには理由がある。韓国が先進国より金利が高いため、外貨準備を米政府短期証券などで運用すると、逆ザヤになることだ。そこで、93.8%を期間の長い債券や他国の株式に投資して利ザヤを稼いでいる。こういう韓国独特の事情があるならば、その穴(低い現預金比率)を、日韓通貨スワップ協定で補う「政治的な智恵が必要である。その智恵すら「日本憎し」の感情論で放り出した。事情を知れば知るほど、韓国政府の経済感覚について、呆れたものだとしか言いようがない。

韓国経済は今後、中長期の「不況入り」が予測される。それは、韓国企業が売るに売れない在庫を抱えていることだ。在庫増は、形の上で「生産増」であるから、GDPに寄与している。しかし、累増する在庫増は企業の負担を増す。限界を超えれば、企業は減産に踏み切り在庫整理に着手する。16年以降、本格的な在庫調整が始まる気配である。これが、GDPを押し下げ、「ウォン売り」に結びつく危険性を招き安いのだ。

過去の危機以上の在庫増
『朝鮮日報』(1月21日付)は、「韓国製造業の在庫率、2008年金融危機時の水準まで上昇」と伝えた。

この記事も、やや専門的である。時間のない方は、私のコメントだけ読んでいただければ、韓国経済の危機の実態がお分かりいただけると思う。韓国ウォン危機とは、韓国経済の実態悪化を衝いてくる危険性でもあるのだ。

ここでは、在庫率について扱っている。在庫率とは、月末の在庫指数を当月の出荷指数で割って算出するもの。売れずに倉庫に残っている商品の割合を表す。在庫率=月末の在庫指数÷当月の出荷指数である。出荷に比べて在庫が多いか少ないかを見るのだ。景気が良ければ在庫は減る。景気が悪ければ在庫は増える。ビジネスの指針として当たり前の指標が、在庫率で把握できる。

⑥「韓国統計庁によると、韓国製造業の在庫率指数が2010年以降急速に上昇し、昨年8月には129.6を記録。世界的な金融危機のピークだった2008年12月(129.9)以来の高水準に達した。その後、昨年9~11月も120台後半で推移している。大信経済研究所は、『昨年時点の在庫と出荷の不均衡は(アジア通貨危機当時の)1997年と並ぶほどだ。過去5年間に内需と輸出がほとんど伸びていないにもかかわらず、企業が生産を続け、在庫が増え続けた』と分析した」。

韓国製造業の在庫率指数は、過去2度にわたる通貨危機(1997年と2008年)時のものとほぼ同じ高水準に達している。これは、極めて危険な兆候である。いずれも120台の後半という危険ラインにあるのだ。過去5年間、内需と輸出がほとんど伸びていないにもかかわらず、企業が生産を続けて在庫が増え続けた結果である。韓国でゾンビ企業が増え続けているのは、この高水準な在庫率が企業財務を圧迫し続けてきた。

日本の製造業は、在庫率指数が上がればすぐに減産して調整する。その点、韓国では経営意識が鈍感と言える。過去2回の通貨危機時に匹敵する在庫率指数に上昇するまで、本格的な減産に入らずに時間を空費してきた。この反動で、減産が急ピッチで行われるであろう。

⑦「在庫増加で在庫投資(在庫の一定期間における増加分)の成長寄与度が大きく上昇した。韓国銀行によると、14年の経済成長率(3.3%)のうち、在庫による成長寄与度は0.55ポイントだった。これに対し、昨年の経済成長率予測値(2.6%)のうち、在庫による成長寄与度は0.8~0.9ポイントに達したと推定される。在庫の成長寄与度が高いことは、生産から消費へとつながる景気循環が円滑ではなく、経済が不健全な状態にあることを示している」。

14年の経済成長率3.3%のうち、在庫によるGDP押し上げ要因は、0.55ポイントであった。15年は、経済成長率(予測、注=実績値も同じ)2.6%のうち、在庫の押し上げ要因は0.8~0.9ポイントと見られている。つまり、昨年の成長率のうち約3分の1が、在庫増によるものだ。在庫率上昇が、韓国経済のGDPを支えたことを示している。表面的なGDPは、2.6%(実績)でも、中味は空っぽである。

本格的な在庫調整が始まるとすれば、今年の生産活動がそれだけ抑制される。GDPは、2%前後という厳しい局面もあり得る。為替投機筋は、ここを狙って「ウォン売り」を仕掛けて来るのだろう。状況として、いつ「ウォン投機」が始まってもおかしくないほど、マクロ経済指標は冷え切っている。

⑧「今回の在庫率上昇現象は、韓国経済が過去に経験した危機よりも長期化しているのが特徴だ。2001年のITバブル崩壊、03年のクレジットカード債務危機、08年の世界的金融危機など景気低迷期ごとに在庫と出荷は不均衡を示したが、長期化はしなかった。金融危機当時に在庫率が120を超えたのは、08年11月から3カ月だけだった。しかし、今回は14年4月に在庫率指数が121を記録して以降、これまで3カ月を除き、いずれも120を超える数値が続いている」。

今回は、14年4月に在庫率指数が120台になってから、途中の3ヶ月を除きすでに昨年11月までの17ヶ月を経過している。これは、過去にない長期間である。企業が減産余力を失い、自転車操業で無理やり生産を続けていたという最悪事態が想像できる。実は、減産するには「資金」が必要である。日本の高度成長時代、企業が減産したくても「減産資金」手当が出来ずに自転車操業を続けていた企業が多かった。そこで、日本政府が減産資金手当をして、生産調整の円滑化を図ったものだ。

韓国企業の在庫率が、すでに危機状態を17ヶ月も続けている裏に、この減産資金手当てが出来ずに立ち往生している例もあるはず。こうした状況から見ると今後、韓国経済がバタバタと倒産に至るリスクを抱えていることは間違いない。16年は苦境を余儀なくされよう。

(2016年2月2日)