中国、借金漬け経済に限界「1.1兆ドル流出」の危機 | 勝又壽良の経済時評

中国、借金漬け経済に限界「1.1兆ドル流出」の危機

『習近平大研究』勝又壽良著

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非効率投資を借金で賄う
「3%成長」で債務処理

「メガトン級」の情報が飛び込んできた。表記のように巨額の外資が、中国から流出する恐れが出ている。中国は4兆ドル近い外貨準備を持っている。一見、「裕福な経済」に見えるが、それは上辺だけである。巨額の債務による「厚化粧」経済であることが判明した。

1.1兆ドルの外資が流出するとなれば、昨年末の外貨準備高3兆8400億ドルに対して、28%強になる。資金流出は突然、音もなく起こるものだ。その衝撃波は「メガトン級」である。中国政府は、これまで「豪語」し「不遜」な発言で他国を見下してきた。今度は、ブーメランとして跳ね返ってくる。中国の「メンツ」丸つぶれである。何ごとも、控えめであることがいかに大切であるか。中国は、腹の底から気づく時期にきた。

外資の流出に歩調を合わせたようなことが起こっている。中国から海外駐在員の出国数が入国数の2倍になっていることだ。

「事業拡大を進める多国籍企業や製造業者にとって、中国は長年、約束の地だった。人口10億人を超える中国市場を狙い、世界の企業は現地に大量の駐在員を派遣してきた。そんな時代は過ぎ去ってしまったのだろうか。米国の引っ越し業者ユニグループ・リロケーションの最新調査によると、その答えは『イエス』のようだ。同社のデータによると、2014年に中国に着任した駐在員の数より、中国を離れた駐在員の方が2倍も多い」(米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』2月10日付け)。

この背景には、大気汚染などによる「生存不可能」という物理的条件の悪化がある。だが、ビジネスは厳しいもの。企業は、万難を排して駐在員を送り込むはずである。駐在員帰国の増加は、その必要性が薄らいできたことを示唆する。中国経済の世界に占める地位が、揺らいでいる証拠であろう。とんだところから、中国経済「弱体化」の証拠が浮かび上がってきた。情報は幅広く収集すると、こんな風に意外なところで結びつくから面白いのだ。

非効率投資を借金で賄う
韓国紙『中央日報』(2月9日付け)は、次のように伝えた。

① 「中国は2007年から14年末まで国内総生産(GDP)を7兆ドルほど増やした。その間に公共と民間の負債は21兆ドル増えた。GDPを1ドル増やすために3ドルの負債を抱えた格好だ。英紙『フィナンシャルタイムズ』が、『中国がいつかは負債のために危機を迎えかねない』と警告してきた理由だ。一方、中国の金融関係者は、『中国の負債はほとんどが国内負債。対外債務と言っても昨年末基準で9000億ドル程度だ』と話した。外貨準備高3兆8000億ドルの20%程度にしかならないと楽観してきた」。

中国は、借金まみれの経済成長であったことが判明した。2007~14年のGDPは7兆ドルふえたが、その間に公的・私的な債務は21兆ドルとなった。総債務高はGDP増加分の3倍にもなっている。後で触れる別途の試算によれば、中国の総債務高は対GDP比で282%になっている。試算のたびに、この対GDP比倍率が増えているのだ。深刻な事態に陥っている。そのことの認識が、危険なほど甘いようだ。

「GDPを1ドル増やすために3ドルの負債を抱えた格好」と、英紙『フィナンシャルタイムズ』は警告している。これは、効率の悪い投資を続けてきた後遺症である。付加価値が低くて新規投資資金を調達できず、シャドーバンキングなどの借入金で賄ってきた結果だ。中国経済の実態は、自転車操業であった。

中国政府は、「7%台成長で世界経済に貢献してきた」と嘯(うそぶ)いている。現実は、持続性のない自殺行為を続けていたに過ぎないのだ。これまでの経済成長は、将来の成長分を先取りしたものである。今後の成長率急減速が、不可避であることは疑いない。これから、GDPを1ドル増やすには借入金に依存せず、多くを「生産性向上」で達成しなければならない。中国にとって、こうした事態は不可能である。それを迫られているが、具体的な対策がないのだ。

アジア開発銀行(ADB)の魏尚進(中国人)チーフエコノミストは、その職務上の立場を忘れて、「母国愛」に満ちた発言をしている。「中国経済は今後5年、急減速することはない」と述べたほど(『日本経済新聞』2014年9月8日付け)。「成長率は当面7%を下回らない。賃金の上昇で競争力を失う『中所得国のわな』問題は、『神話のようなものだ』と言い放った。中国経済が、借金まみれの成長であることを把握していなかったのだろう。チーフエコノミストとしては失格である。

② 「ブルームバーグが最近、西側投資銀行の分析を根拠に、『中国には隠れた対外債務1兆1000億ドルがある』と報道した。昨年のGDPの約12%に達し、外貨準備高の28%余りになる巨額だ。どのようにできた負債か。米国の量的緩和が生んだ突然変異だ。ドルキャリーの一部である。海外のヘッジファンドなどが、中国に持ち込んだ資金ではない。中国の輸出企業が引き込んだ資金だ。彼らは輸出信用状を香港の金融市場で割引する方式で値段が安いドル資金を借りた。彼らは人民元に替えて上海のシャドーバンキング市場で投機をした。資金の流入と貸付過程が、すべて中国政府の統制外であった」。

ドルキャリーとは、低金利の米ドルを借り入れ、より高金利の新興国や資源国の通貨や株式、金や原油等の国際商品などに投資して利益を獲得する投資手法である。中国でも、このドルキャリー手法が広く利用されてきた。この点について、中国政府は十分な情報を把握していなかった。実は、西側の投資銀行がその実態を分析した結果、1兆1000億ドルもあることが判明した。このドルキャリーは、必ず流出する運命である。いつかは破裂する「時限爆弾」だ。

ドルキャリーの具体的な手だては、「輸出信用状を香港の金融市場で割引する方式」と指摘している。端的に言えば、輸出信用状の偽造を行って不正に入手したドル資金である。一昨年も去年も、中国の輸出は異常に増加して問題化した。その度に、私はブログで「不正資金」が入り込んでいると指摘してきた。恒常的に、この不正が行われていた。その規模が、昨年のGDPの約12%もあるというから驚く。その分が輸出となって化けているから、GDPを押し上げている計算だ。偽のGDPを発表してきた。底なしの「不正天国」であることは間違いない。

③ 「中国の隠れた対外債務は典型的なホットマネーだ。米国と中国の金利差と人民元の上昇を狙った資金だ。米国の金利が上がれば逆流するほかない。国際金融専門家のであるカリフォルニア大学バークレー校のバリー・アイケングリーン教授は、『キャリー資金は相手国が対処する隙を与えないのが特徴』と話す。いざという時には1兆1000億ドルが中国から抜け出しかねないという話だ。米国の金利引き上げが信号弾になるかもしれない。人民元の下落も引き金になる恐れがある。ドルキャリー資金が流出すれば、国内で信用収縮を起こしかねない。負債危機の始まりだ。 “フィナンシャルタイムズの呪い”が現実になる」。

米国の金利が上がれば、ホットマネーは逆流するほかない。米国が利上げに踏み切る時期は、今年の6月以降と予測されている。最近の賃上げや雇用増加など労働環境は、急ピッチな改善である。利上げは「待ったなし」である。米国の利上げは、中国からホットマネー1兆1000億ドルが米国へ還流させる。それだけ、中国国内の資金不足をもたらす。信用収縮が起こるのだ。今年の世界経済「三大リスク」の一つが中国である。いよいよ、「中国リスク」が現実化する局面を迎える。中国株価の大暴落は、世界の株価急落を招く。6月以降の世界経済は、中国要因の大波乱になる恐れがある。十分に注意したい。

「3%成長」で債務処理
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月5日付け)は、次のよう伝えた。

④ 「世界的な金融危機以降、中国全体の債務は急増している。米マッキンゼー国際研究所の新たな報告書によると、こうした債務はまだ管理可能とはいえ、投資家の不安はやや高まっている。世界経済の先行きが混沌(こんとん)とする中、中国経済が大幅減速するとの見通しは、政策当局や投資家にとって大きな不安材料となっている。中国政府には、金融危機を引き起こすことなく、より緩やかな経済成長率へと円滑に移行する余力があるとみている向きは多い。だが、中国が急ピッチで債務(不動産関連が大半)を膨らませているため、同国の20年にわたる高度成長から安定成長への移行作業は、それほど簡単にはいかない恐れが高まっている」。

中国経済楽観論への警告が滲み出ている。米マッキンゼー国際研究所の新たな報告書によると、中国の増加する債務はまだ管理可能とはいえ、中国の過去20年にわたる10%超の成長率から7%割れへの移行作業は簡単でないと指摘している。この点については、私も繰り返し強調している。「中国経済が大幅減速するとの見通しは、政策当局や投資家にとって大きな不安材料となっている」と率直に認めている。中国政府も腹を決めて、「ニューノーマル」(新常態)と言った言葉を「煙幕」にして、危機をカムフラージュしてはなるまい。

⑤ 「中国全体の債務は国内総生産(GDP)の282%に相当 する。報告書によれば、これは政府、銀行、企業、家計による借り入れの合計で、2014年半ばまでに達した水準だ。発展途上国の平均を大きく上回るほか、オーストラリアや米国、ドイツ、カナダといった一部の先進国の水準も上回る。中国の債務(対GDP比)の推移は、2000年121%、07年158%、14年4~6月期282%である」。

中国全体の債務はGDP比282%に達している。世界最高の借金経済である。ちなみに米国はGDP比269%である。2008年のリーマンショック後、財政赤字の圧縮(現在、対GDP比89%)に努め、着々と成果を上げている。中国の場合、総債務がこれからどれだけ積み上がるのか不明である。

中国の総債務は対GDP比で、2000年は121%。07年が158%、14年央で282%である。増加のピッチが余りにも早いのだ。遠からず、300%を上回るであろう。
こうなったら、完全な「SOS」である。

⑥ 「中国が、世界全体の債務の伸びに占める割合は、3分の1超である。世界第2位の中国経済は、2007年以降に新規債務を20兆8000億ドル積み上げた。これは同じ時期の世界全体の債務増加幅の3分の1を超える。企業債務が急増(特に不動産)中国全体の債務を最も押し上げたのは、不動産開発会社など非金融企業だ。中国の企業債務はGDP比で125%と、世界有数の規模に達している」。

中国は、世界の「借金王」である。今まで知られていなかった「中国の素顔」が、ここに明らかされた。中国政府は、これまで「中国財政は堅実」とPRしてきた。それは、「汚れ役」をすべて地方政府に押しつけてきたに過ぎない。地方と中央を合算したトータルで見た中国財政の債務は、対GDP比55%(2014年央)になっている。

中国の企業債務(非金融機関)は、対GDP比で125%である。不動産開発企業の抱える債務である。不動産バブルで積み上がった債務だ。世界トップの借金漬けになっている。

⑦ 「マッキンゼー国際研究所は、デフォルト率が危機的な水準に達した場合でさえ、中国政府は経済成長を犠牲にしつつ、金融部門を救済する可能性が高いとしたうえで、『その場合、非常に高い確率で本格的な金融危機を避けられそうだ』と述べた」。

中国政府は、「デフォルト率が危機的水準に達した場合、経済成長率を犠牲にしても金融部門を救済するであろう」。マッキンゼー国際研究所は、こう見ている。問題は、「経済成長率を犠牲にする」という範囲である。金融機関救済に財政資金を使うはずだから、それだけ公共投資支出を削減することになる。現在、GDPの50%前後が固定資本投資(設備投資を含む)である。仮に、20%の公共投資を削減すれば、中国経済は「大恐慌」をきたす。GDPはまさに悪夢の「3%成長率」へ落ちこむ。中国経済は、ここまで最悪時期を覚悟する局面にきている。過去の「大言壮語」が、嘘のような事態に襲われるのだ。

(2015年2月20日)





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