中国、手抜き工事で「ビル寿命30年」地方財政を圧迫へ | 勝又壽良の経済時評

中国、手抜き工事で「ビル寿命30年」地方財政を圧迫へ

『習近平大研究』勝又壽良著

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誠実さの欠片もない社会
「見栄」がすべての出発点

弱り目に祟り目である。中国経済を支えてきたビル建設は、手抜き工事によるものが多かった。中国社会の度を越した拝金主義は、中国経済の骨格を揺るがす事態にまで進みそうである。先進国ではまったくあり得ない話だが、骨の髄まで腐りきった中国社会の断面をのぞかせている。

手抜き工事は、中国国内に止まらない。ベトナムでも同じことをやっており、ベトナム政府からきつい警告を受けた。中国の「手抜き工事」は、国際的にも有名になっている。ここまで不法行為を働く中国企業の存在が、中国社会のあり方そのものに深い疑問を投げかけている。今年の干支は「羊」年である。古くから神に捧げる生け贄に使われた羊は、崇高な理想と価値を意味するという。「義・善・美」にはすべて「羊」が入っている。中国に起源のある「漢字」だけに、今年が「義・善・美」を求めるきっかけになって欲しいもの。残念ながら、その期待はほとんどゼロであろう。

誠実さの欠片もない社会
『朝鮮日報』(1月5日付け)は、次のように伝えた。

① 「黒竜江省ハルビン市で1月2日に起きたビル火災では、建物が崩壊し、消防隊員5人が犠牲となり、14人が負傷した。ビルは80年代末に建てられたもの。だが、消火設備はなく、瞬く間に火が燃え広がり、火災に耐えられなくなったことで崩壊したと見られている。80~90年代に建てられた建物の多くがすでに老朽化し、“砂の城”と化している。2008年の四川大地震や2014年に雲南省で起きた魯甸地震でも、この時期に建設された建物が多数倒壊している。経済ばかりが優先され、成長過程での無秩序や拝金主義を背景とした寿命の短い建築品質を反省する動きが中国国内で強まっている。中国国営の新華社は、『80~90年代に建てられた建物に倒壊事故が頻発している。中国では新築建物の寿命は30年未満で、英国の4分の1でしかない』と報じている」。

1980年、90年代に建てられた建物に倒壊事故が頻発しているという。中国では新築建物の寿命は30年未満で、英国の4分の1程度というから、驚くほかない。ビルの寿命が30年未満とは、木造住宅すら下回る寿命である。手抜き工事ができるのは、賄賂を贈って当局の竣工検査の目を騙しているからに違いない。信用も地に落ちた言うほかない。

中国メディア『中国日報』(12月31日)、次のように報じた。

② 「ベトナム交通運輸相が12月31日、ハノイ市内のガットリンとハドンを結ぶ都市鉄道建設プロジェクトの総請負企業『中国鉄路第6グループ公司』について、ただちにハドン駅の工事中に発生した足場の崩落事故による被害の処理を行うとともに、施工時の安全確保を求めるよう要求する書簡を出した。書簡では、同社が短期間のうちに同プロジェクトにおいて2件の重大事故を起こしたことを挙げ、『総請負業者に能力、経験、専門性が不足していることの表れだ』、『社会や公衆に対する責任意識に掛け、労働上の安全確保措置を取らず、付近の住民に心理的な不安をもたらした』と指摘した。交通運輸相は、『同社はすべての法的責任を負わなければならない』と語るとともに、契約規定に基づく責任を履行していないことを厳しく警告した。同省はまた、同社を『前科』のある請負企業リストに入れるよう交通工事建設管理当局に命じた」。

ベトナム政府の怒りが直接、こちらに伝わってくるほどである。この話には、さらに「後日談」がある。ベトナムのテレビ局は、1月6日夜のゴールデンタイムに異例のニュース映像を放映したのだ。「昨年末にハノイ市の鉄道高架建設現場で事故を起こした建築企業の中鉄六局とベトナム交通運輸省との会議のシーンで、ベトナム官僚は『事故の責任はすべて君たちにある』『(安全問題に関する)修正要求を受け入れない場合は受注企業の資格を停止する』と大声で叱責した。中国企業の関係者はただうなずくだけだった」(中国紙『環球時報』1月10日付け)。この映像は3分にもわたり放映された。

この事故は、外交問題にまで発展している。ベトナム政府は、洪小勇・駐ベトナム中国大使に対しても、同社を是正し、中国大使が同社、さらに同プロジェクトの監督企業とともに具体的な行動計画を提出するよう求める書簡を送ったことに現れている。中国企業は、テレビのゴールデンタイムで3分間も放送され、これ以上の屈辱はない扱いを受けている。ベトナム政府の怒りのほどが分かるのだ。

深刻なのは、中国国内でのビル手抜き工事が、国内経済にもたらす影響である。「ビル寿命30年」という木造建物以下の寿命は、いかに手抜きの度合いが激しいかを物語っている。むろん、地方政府役人と「ぐる」になってやらねば不可能な「手抜き」である。膨大な賄賂が地方政府役人に渡っていることは疑いない。

こうなると「手抜き工事」をされた側は、その責任追及で地方政府を訴えることもあり得る。あるいは、地方政府の建物が手抜きされていれば、立て替えに莫大な資金がかかるのだ。これらの経済的な負担に今後、地方政府は耐えられるだろうか。ここに、新たな問題が発生する。

『大紀元』(12月22日付け)は、次のように報じた。

③ 「中国の国家発展改革委員会(NDRC)が運営するシンクタンク、都市・小都市改革発展センターの李鉄主任は、12月14日、地方政府の債務規模は公表数値の倍になる可能性が高いと述べた。中国の審計署(会計検査院)は2013年末に、地方政府の債務残高が同年6月末時点で17兆9000億元(約340兆円)に上ると発表した。同氏は海南省三亜市で行われた国際金融フォーラムで、十数カ所の都市で査定評価を行った結果、『地方当局は実際の1~3割しか報告しておらず、多くても5割を超えていない』と指摘した」。

驚くべき事実が明らかにされている。中央政府の聞き取り調査に対して、地方政府は債務の1~3割しか報告していないというのだ。残りの「隠れ債務」7割余は、地方政府が抱え込み新たな財政圧迫要因になる。まさに、債務の泥沼状態にはまり込むのだ。過剰債務は、どうやって返済するのか。過剰債務を一掃するまでには、気の遠くなるような歳月を要する気配が濃厚になっている。この間、地方政府は新規のインフラ投資が事実上、不可能になる。手抜き工事でビルが使用不可能になっても、立て直す資金がなく、ビル立ち枯れという異常状態に追い込まれる。「中華民族の夢」といった悠長な話とは別格である。

④ 「地方債務の規模について、週刊誌『中国経済週刊』(2014年8月18日号)は、全国人民代表大会財経委員会の尹中卿・副主任の話として、地方政府が抱える負債総額が公表された金額を大きく上回って30兆人民元(約570兆円)を超える見通しだと伝えた。中国金融専門家・郎咸平氏は2013年3月、中国地方債務の総額が少なくとも36兆元(約680兆円)を超えると推測し、いずれも李氏と同じ見解を示した」。

⑤ 「中国紙『第一財経日報』(2014年6月25日付け)によると、中国の審計署が地方政府を対象に行った債務状況調査で、2014年3月末までに9省で合計8億2100万元(約134億円)の債務が償還期限を過ぎても返済されず、デフォルト(債務不履行)に陥っていたことが分かった。これは中国の地方政府で正式に確認された初のデフォルトである」。

中国地方政府が抱える総債務残高の実相を掴めないのだ。闇の中に葬られている。2014年3月末までに9省で合計8億2100万元(約134億円)の債務が償還期限を過ぎても返済されず、デフォルト(債務不履行)に陥っていた。情報統制の結果、外部には漏れなかったが、巨額のデフォルトが発生していた。私はこれまで、中国地方政府が抱える債務を厳しく精査しながら取り上げてきた。現実は、これをさらに上回る「巨大債務」の渦巻きが、中国経済全体を引き込む「ブラックホール」となって立ち現れている。もはや、手の打ちようがないのだ。「不動産バブル」の生み出した巨額債務が、中国経済の全身を蝕んでいる。

中国が、今年の「世界3大リスク」に挙げられているのは当然である。こうした事態のなかで今後、「手抜き工事」による使用不可能なビルが激増してくる。想像を超えた地獄絵が現出するであろう。中国経済の息の根を完全に止めかねない事態が発生するのだ。私は、決して誇張して言っているのではない。地方政府が実際の債務を過小に報告している現実が明らかになっている以上、救いの手がないと見るからである。日本の平成バブルの比ではない。その過剰債務の重圧が、中国経済を押しつぶす危険性が一段と高まっている。愚かな事態を招いたものだと嘆息しているのだ。

最大の原因は、中国官僚制の前近代性にある。有り体に言えば、未熟な国家システムであることだ。4000年の歴史があると豪語する中国だが、近代化においてなんの役割も果たさなかった。それどころか、逆作用をして発展の足を引っ張っている。その認識がないままに、GDP世界2位になった悲劇が、これから始まると見るほかない。

中国の官僚制は毎度、私が言っているように「家産官僚制」である。ドイツ社会学者マックスヴェーバーが命名した言葉である。恣意的な行政を行い、私益優先を謀って国家利益を蚕食する。獅子身中の虫である。中国経済は現在、これによって屋台骨に幾条かの虫食い跡がくっきり浮かび上がってきた。強い風が吹けば、簡単にぐらりと揺らぐ危険性が高まっていることは確実である。私が、これほど強い調子で中国経済の危機を論じたのは初めてである。

「見栄」がすべての出発点
中国が、いかに上辺だけを飾る社会であるか。それを証明する事実を挙げたい。すべてが、「見栄」から始まっていることだ。真実味に欠けるのである。

『サーチナー』(1月9日付け)は、次のように報じた。

⑥ 「英メディア『フィナンシャル・タイムズ』が、このほど中国の蘇州大学創新創業研究センターの董潔林氏による文章を掲載した。董潔林氏がそのなかで、『中国の産業にはイノベーションが不足している』との指摘はもはや共通認識であるとした。中国メディア『新華社』は1月6日、前記の指摘を紹介した」。

この記事の重要性は、中国政府機関紙『新華社』が転載していることで理解できるのだ。中国の「イノベーション能力欠如」は、私の専売特許のように飽かずに指摘してきた点である。どう見ても、中国に日米欧並みの研究能力があるとは考えがたいのだ。その背景には、「論理的思考の欠如」と「金銭第一主義」という二大要因が頑として横たわっているからだ。その事実を「新華社」も認めたということであろう。

⑦ 「中国で近年発表される論文数や中国が取得した特許権数が大きく伸びている。中国の学者朱天氏が、中国のイノベーション能力が開発途上国はおろか多くの先進国すら超えたと主張した。これに対し董潔林氏は、『果たして本当に中国経済はイノベーション型に転換したと言えるのだろうか』と疑問を呈した」。

『人民網』は、中国で近年発表される論文数や取得した特許権数が大きく伸びている。こう自画自賛する記事を頻りと流している。最近では、「中国の発明特許出願件数の増加率が米欧日韓を上回る」(1月12日付け)と大宣伝した。私はこれらを読むたびに、「ふふん」という感じを持つのだ。日本の新聞でも、同様な記事が報じられることがある。確かに、中国の論文数や特許件数は増えている。中身が問題なのだ。「幼稚」な研究や特許は、イノベーション能力向上と無関係である。単なる、「技術ショー」に過ぎない。

⑧ 「董氏は、論文数や特許権数の伸びを『イノベーション能力の向上』の根拠とすることはできないとし、論文や特許は『質』がまちまちであり、人類そのものに利益となる可能性を持つものはごく少数にとどまるはずと指摘。さらに、中国の各大学や研究機関では論文の発表数が給与や昇進に影響を及ぼす実態があることを指摘した。米サイエンス誌の編集長が、『中国人による論文の一部は科学の真理探求ではない、ほかの動機によるものと見受けられる』と苦言を呈していることを紹介した」。

中国で、やたらと論文や特許件数だけ増えるのは、給与や昇進に影響を及ぼす実態がある。「中国人による論文の一部は科学の真理探求ではない、ほかの動機によるものと見受けられる」との米国科学雑誌の編集長談があるほどだ。要するに、「見栄」のために論文や特許が出願されている。この事実を見ると、中国社会がどれだけ「イノベーション」と無縁であり、単なる「ショー」(見せ物)感覚で臨んでいるかを示している。これでは、ノーベル科学賞とは無縁なはずである。

⑨ 「中国で取得される特許についても、国際特許訴訟について豊富な経験を持つ弁護士の話しとして、『中国の特許取得件数は増加しているが、質は極めて悪い』と指摘。特許をめぐる国際訴訟においても中国側が原告になるケースは少なく、被告になるケースが多いと指摘した。中国の特許権数が急増するなか、質が劣っている背景には、中国政府による奨励がある。『中国政府は、特許申請件数に基づいて税制を優遇する措置を導入しており、中国企業は優遇税制を得るために特許を数多く申請している』と指摘。さらに、『中国で発表される論文や特許が急増している背景には、中央政府や地方政府によるインセンティブが最大の動機だ』と論じた」。

中国政府もまた、「イノベーション」ゴッコに加担していることは明らかである。特許申請件数に基づいて税制を優遇する措置を導入しており、中国企業は優遇税制を得るために特許を数多く申請している、というのだ。ここまで指摘されると、中国はグーの音も出ないはずだ。国家ぐるみで、「イノベーション」遊びに興じているからだ。

中国では根拠もなく、日本でできることは中国でも可能だと信じている。日本と中国では社会構造・文化構造が百八十度も異なっている。その認識が欠如しているので、やたらと「日本敵視」をする。そもそもそれが間違いの基である。高速鉄道が良い例である。基幹技術がないのに高速鉄道開発に挑戦し失敗した。そこで、日本から新幹線技術を導入して、足がかりを掴んだのである。先進国からの技術導入がない限り、中国では新技術開発が不可能なのだ。高速鉄道技術以外に、新技術が存在しない理由がこれである。日本を敵視せず、もっと謙虚になるべきであろう。

経済危機は、新技術開発で凌げる面がある。中国が直面している経済危機は、国家システムの未成熟がもたらした「国家危機」と言える。官僚制度の前近代性がもたらした落とし穴である。それは同時に、中国の社会構造・文化構造の危機をも示している。それにも関わらず、「大言壮語」(ほら吹き)して恥じるところがないのだ。新技術開発は絶望的である。その認識がないままに、根本的な反省=政治システム改革に気づく様子もないのである。共産党用語で言えば、「全般的危機の深まり」ということになろう。

(2015年1月21日)


中国は「武断外交」へ 火を噴く尖閣―「GDP世界一」論で超強気/勝又 壽良

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