中国、批判的エコノミスト締め出し「お手盛り」評価でボロ隠し | 勝又壽良の経済時評

中国、批判的エコノミスト締め出し「お手盛り」評価でボロ隠し

『習近平大研究』勝又壽良著

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ブラック・ボックス化の中国
過剰債務で機械化投資は困難

中国指導部はどこまでも唯我独尊である。政治的な反対意見を弾圧するのは、日常茶飯事となっている。今や、これに止まることなく、中国経済への批判的なエコノミストまで閉め出すという「暴挙」が始まった。こうして極端に批判を恐れる背景には、中国経済の行き詰まりがあるからだ。順調に推移していれば、好きこのんで反対派の「弾圧」に動くわけもない。現実の経済は悪化の一途を辿り、断末魔の悲鳴にも近い様相を呈し始めている。

「シャドー・バンキング」(影の銀行)の増殖は、中国金融システムの未成熟さを100%証明している。金利は一部で弾力化が始まったものの、依然として大部分は固定化したままである。金利自由化によって、初めて経済活動全般が調整されるものである。その調節弁を欠いたまま、1978年末からの「改革・解放政策」が行われてきた。

私が、「土木経済国家」と皮肉を込めて呼んでいる中国経済は、経済全体のバランスを忘れ、ただ高い経済成長率を追求する「猛進型」政策であった。その矛盾が、「シャドー・バンキング」を生みだし現在、その「鬼っ子」の反乱に遭遇しているのだ。さしずめ、「飼い犬に手を噛まれている」状況である。

心あるエコノミストであれば、誰でもこうした中国の経済政策を批判して当然である。ところが、中国指導部は批判を許さないというのだ。まさに、前代未聞の事態を迎えている。経済政策の「ブラック・ボックス化」の中で、中国経済の忍び寄る危機を誰が指摘し警告するのか。第三者の「審判役」を追い払ってしまい、馴れ合い同士の話しにとどめる破天荒な振る舞いである。いくら、「苦言」を呈するエコノミストを遠ざけても、中国経済の実態は少しも改善しないのだ。

ブラック・ボックス化の中国
『ブルームバーグ』(2月25日付け)は、コラムの「ブラック・ボックス化する中国経済 世界はどうしたらいいのか」(筆者は、William Pesek氏)を掲載した。

① 「中国は思想統制のための弾圧で、次の標的を見つけた。それは、エコノミストだ。中国共産党によるインターネット検閲や外国メディアへの威嚇はよく知られている。しかし今度は、中国経済がバブルの破裂など招かずに7%成長を永久に続けられるという公式見解に疑問を呈する海外のエコノミストに目を付けた。香港紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』(注:2月18日付け)は、海外エコノミストらをブラックリストに載せ、彼らの評判をおとしめるための新たな活動について詳細に報じた。世界の銀行は、中国政府を怒らせないようにと、自発的に検閲を始めることだろう」。

香港紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』(注:2月18日付け)は、中国中央宣伝部が大手政府系メディアの編集長らに、中国経済問題について専門家の意見を求める場合、人選に注意するよう促し、専門家らの発言を慎重に扱うよう求めた、と言うのである。これは明らかに、中国当局へ「提灯持ち」するエコノミストだけを登場させるように、言外に指示したものである。

『大紀元』(2月26日付け)は、次のようにコメントしている。「中国銀行業監督管理委員会は以前、頻繁に欧米のエコノミストを密室会議に招待していた。昨年から、こういった会議が大幅に減少し、信頼されるわずかなエコノミストしか呼ばれなくなったという。中央銀行や管理当局も経済情報の提供をより渋り、中央政府から大きな圧力を受けていることがうかがえる」。要するに、「臭いものに蓋をする」式になっており、この一事を持ってしても、中国経済の実態が極度に悪化していることを示しているのだ。

中国は「面子」の国である。私はその背景について、すでにブログで詳細に説明した。世界のなかでは、中国人とエスキモー人だけに存在する、特殊な見栄を張る行動である。中国がこうした意識構造であるから、例え外国人でも中国に泥を塗るような批判を放置しないと宣言したようなものだ。ここまで中国指導部が、「唯我独尊」に陥ってしまうと中国の危機だけでなく、世界経済にとっても由々しき問題になってくる。

中国政府によって唯一許されるのは、「中国経済がバブルの破裂など招かず、7%成長を永久に続けられる」という中国の公式見解に疑問を呈しないエコノミストだけとなる。世界的に、中国の「御用エコノミスト」を増やす意図は、中国の狙う世界覇権論に賛同せよ。そう言われているようなものである。

中国政府は、二言目には「歴史を鑑とせよ」と日本を説教している。世界の経済史を見れば分かるが、バブル経済は必ず破綻という形で終末を迎えている。その繰り返しなのだ。中国こそ、歴史を鑑にしてバブル崩壊の過程と、そこからの復興過程をつぶさに学ばなければならない。その格好な手本が日本である。それにも関わらず、真面目に日本の失敗例を学ぶ姿勢に欠けている。

中国は、勝手な「幻想」に取りすがっているのだ。いったん発生した不動産バブルは、もはや旨く管理できる対象ではなくなる。「投機」によって生み出された価格上昇の「思惑」が、自然に「鎮火」することはあり得ないのだ。「思惑」が外れれば、「買い」は一転して「売り」に回る。こうして、「ハード・ランディング」となる。価格正常化への過程で、それまでの「思惑」の規模にふさわしい激突の発生は不可避である。「山(思惑)高ければ、谷(反動)深し」である。企業債務の対GDP比で215%に達している現状が、「ハード・ランディング」の規模の大きさを雄弁に物語っているのだ。

② 「世界2位の規模の経済がますますブラック・ボックス化していくのは大きな問題だ。世界はどうしたらいいのだろうか。私に言わせれば、ここは主要7カ国(G7)の出番だ。米国、日本、ドイツ、フランス、英国、イタリア、カナダが昔ながらの枠組みに閉じ籠もるのをやめて、中国をこの究極の会員制クラブに迎え入れるべき時だ。中国は最大の貿易国。外貨準備高も大気汚染も世界一で、地政学的な力を急激に強めている。それにもかかわらず、世界には中国の政府高官らと同じテーブルに着き、実際に何が起きているのかについて情報を引き出す定期的な場といったものがない。視界不良の状況から中国を引き出せるのはG7だ。丁重にお迎えするしかない」。

中国にとって「不都合な事実」は、すべて隠蔽してしまう。それがいかに危険であるか。今回の「G20」でも、共同声明の発表文では草稿にない文言を書き込ませている。つまり、中国が発展途上国では経済運営で成功している。そういう間違った文言を入れさせたのだ。こうなると、中国の不動産バブルの崩壊をチェックできる「機会」が失われる恐れが出てくる。記事では、先進国が中国を「G7」に参加させ、膝つき合わせて情報交換することを提案している。果たして、この手法が成功するだろうか。私は、世界3大格付け会社による厳正な格付けが、もっとも効果的と判断している。

中国は「面子」の国である。自国の体面を汚される。そういう格付け引き下げ事態が、起こることをもっとも恐れているのだ。格付け会社は、詳細な内部情報を取得する「権利」を持っているから、いくら強面の中国政府といえども、無益な抵抗はできないシステムになっている。現に、格付け会社は中国企業全体の債務総額を推計している。FRB(米国連邦準備制度理事会)の推計手法を用いているのだ。

中国の不動産バブルが崩壊すれば、格付けは当然に引き下げられる。株価は暴落するから、中国企業の資金調達は困難になる。強制的に、債務返済を最優先する場面に遭遇するに違いない。「バランスシート不況」の出現である。経済成長率は5%前後への低下を余儀なくされるであろう。中国政府は、こうした最悪事態を想定しているであろうか。世界のエコノミストの「口封じ」をしても、中国経済が安泰という訳でない。このあたりの認識が、きわめて子供じみて幼稚なのだ。急ぐべきは、過剰債務=過剰設備=過剰生産の実態を改善することにつきる。

中国経済が、ここまで追い込まれている以上、正攻法の解決策しかない。もはや、「面子」の問題の域を超えている。中国経済最大の「売り」の豊富な労働力は、すでに枯渇化に向かっている。沿岸部では賃金を2割上げても必要な労働力確保は困難になっている。こうした中で、不動産バブルが崩壊すれば中国経済に何が起こるか。深刻な事態を想定するのが自然であろう。

過剰債務で機械化投資は困難
『人民網』(2月17日付け)は、次のように伝えている。

③ 「春節(旧正月)後、珠江デルタの多くの企業は労働者不足に陥っている。珠江デルタで、多くの企業は3000~5000元(約5万1000~8万4000円)の基本給を提示しており、例年の約2割増となっている。これに加え労働環境が日増しに改善されているが、依然として魅力が不足している。南方人材市場はこのほど、『企業の求人は今年、更なるプレッシャーに直面する。昨年1.4倍であった求人倍率は、今年も上昇する』と予想した。労働市場はかつての技術者不足から、無学歴・無技能の一般的な労働者でさえ募集が困難な局面に移っている」。

中国沿海部では、2割もの賃金を上げても必要な労働力が集まらなくなっている。日本の中小企業は、こうした労働力不足に機械化で対応した。日本の労働力不足は、1960~70年代にピークを迎えていた。当時は、高度成長真っ只中にあったので、省力化投資に向ける資金的な余裕も十分にあった。現在の中国は、過剰債務=過剰設備=過剰生産の渦中にある。猫も杓子も不動産投機に手を染めているから、新規投資の余力があるとは思えないのだ。不運と言えば不運である。中国政府の無謀な「4兆元投資」の報いが、不動産バブルを生み出した元凶である。中小業者は、そのバブルの谷間で沈んでいるのである。

④ 「山東省の一部の中小企業にとって、『労働者不足』は新年の一つ目の問題となった。山東省の某機械加工企業では2月15日、ラインの20数台の製造設備のうち9台しか稼動していなかった。同社の担当者は『最近は忙しくて目が回るほどだ。受注があっても生産が間に合わない。現地の生姜やネギの価格高騰を受け、春節前に農村部出身の多くの出稼ぎ労働者が退職し、帰省し畑を耕している」と語った』。

春節(旧正月)前に、出稼ぎ労働者は退職帰省して、故郷で生姜やネギの生産に従事しているというのだ。日本では先ず考えられない行動である。私が常々言っているように、中国社会は目先の「損得二元論」に従っている。目先の利益に目が眩み、工場勤務を続けてキャリアを積むという長期的な認識がないのだ。これでは技術的な蓄積も深まらないであろう。企業も個人も意識は、浮き草稼業である。

産業構造の高度化。付加価値の高度化は望むべくもないのである。中国は4000年も農業社会であった。その理由が、分かる気持ちがする。すべて目先の「損得」で判断して行動する。こうした民族特性ゆえに、「イノベーション」とは無縁な社会である。その日だけでも、安楽に暮らせればそれで良い。安逸を貪る民族特性と言えるのだ。

⑤ 「多くの労働者を出す河南省では2013年、1523万人の農村部出身の労働者が省内で就職した。省外に出稼ぎに行った労働者は1137万人となり、省内が省外を上回る状況が3年続いている。また近年増加した労働者の8割が、省内での就職を選択している。沿海部の労働集約型企業が内陸部に移転して、現地労働力の還流を促している。河南騰達物流公司は、『積み下ろし作業員の月給は4000元(約6万8000円)に達し、かつ労働者のために保険に加入してやらなければならない。これは2年前では想像もできなかったことだ。しかしながら、多くの労働者が頻繁に転職しており、南方市場との労働者争奪の流れを強く感じている』と指摘した」。

中国内陸部の未開発地域に労働集約産業を移転させる。これが中国政府の産業再配置政策であった。沿海部から内陸部へ付加価値の低い産業を移転させる。それには、沿海部の最低賃金の引き上げが有効と判断していたのだ。代わって沿海部では、ハイテク産業など高付加価値産業を海外から誘致する。こういう計画であったが、これは「机上の空論」に終わった。

中国は、すべて海外技術に依存する「促成栽培」方式である。足りない技術は外国から買えばよい、とする短期決戦方式である。これでは、自前技術が育つはずもない。その点では、韓国ときわめて似通っている。韓国も、未だに独自技術を持てない悲劇に泣いているのだ。中韓ともに日本技術依存から脱出できずにいる。それにもかかわらず、激烈な反日運動を行っている。頭の思考回路がどこかで切れているのだろう。

中国は、バブル崩壊後の自国経済再建策をどのように描いているのか。多分、思考停止状態であろう。当面の課題は、いかに不良債権発生を隠し通すかに頭を絞っているからだ。それは無駄と言うべきである。隠し通せるものではない。過剰債務が膨張して事態の悪化を招くだけである。労働力の枯渇とともに低成長経済に苦吟する。そうした運命に逆らえないに違いない。それが、イノヴェーションなき経済の行き着く先である。

⑥ 「中国国家発展改革委員会社会発展研究所所長の楊宜勇(ヤン・イーヨン)氏は、『一部の企業には効果的な奨励制度、合理的な研修と昇進制度がないことから、社員の企業に対する帰属感が弱く、労働者不足を激化させている。(1)第一次・第二次・第三次産業の間、(2)沿海部と内陸部の間、(3)大都市と中・小都市の間で労働力の争奪が展開されている。春節明けの労働者不足は、実際には労働力の配置改善の過程だ』と指摘した。労働者不足を改善するためには、経済発展方式のモデルチェンジを加速し、主に科学技術の進歩、労働者の素養の向上、管理の革新、特に新世代の労働者の職業・創業訓練の強化により発展を促進する必要がある」。

楊宜勇(ヤン・イーヨン)氏の掲げる中国労働問題の欠陥は、この通りであると思う。これだけ問題点が整理され、指摘されているのだ。それにもかかわらず、一向に改善できない理由はどこにあるのか。「社会主義市場経済」が機能しない結果である。完全な市場経済システムに依存すれば、非効率な部分は一掃されて、効率的な部分だけが残って行くはずだ。それが、おもちゃ箱をひっくり返したように、それぞれの利害関係者が勝手に動き回って、混乱に拍車をかけている。この弊害がこれまでさほど表面化しなかったのは、高い経済成長率の影に隠れていたにすぎない。問題の本質は、未解決のまま一貫して現在まで引きずってきたのだ。

「社会主義市場経済」は、計画経済の衣をまとっている。すでに、「計画経済」の欠陥は指摘され尽くしている。その好例が旧ソ連経済の崩壊である。中国の「社会主義市場経済」は、それを部分的に手直ししただけである。政府の統制力の強さには変わりがない。各地方政府が、無駄な重複投資を続けてきた。それが、GDPを結果として押し上げたのだ。後には、膨大な過剰債務=過剰設備=過剰生産が残された。その後遺症が、今後の不動産バブル崩壊過程で処理を迫られるのである。中国政府は、「社会主義市場経済」の下で旨く整理がつくものと考えている。それは間違いである。バブル崩壊は、「社会主義市場経済」の崩壊を促すきっかけになるであろう。同時に、共産党政権の危機にも繋がる。

(2014年3月6日)



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