韓国、「教育熱心が徒」ニート族の増加で若者雇用率は40%割る | 勝又壽良の経済時評

韓国、「教育熱心が徒」ニート族の増加で若者雇用率は40%割る

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少ない正規職の求人
減る青年層の就職率

韓国は、日本以上の学歴社会である。ともかく、親は借金してでも子どもを教育する。それは美談であるが、韓国経済の発展にとっては、後述の理由からブレーキになっている。「孟母三遷の教え」の通り、孟子の母親が孟子の教育のため3度も住まいを移し換えた。韓国の親はこの喩えを実践している。韓国の大学進学率は71%と高く、日本を20%ポイントも上回っているのだ。

韓国では、「大卒にあらざれば人間でない」という風情である。世の中は、高学歴者の仕事ばかりで構成されている訳でない。地味で堅実な職人さんの仕事が存在して初めて、社会はうまく回って行くもの。今、韓国経済はそれを実感させられている。子どもの教育費に貯蓄を回している結果、消費が振るわず経済発展が制約を受けている。こうして因果にも、子どもの就職場所にも事欠くのである。教育費が韓国経済の足かせとなっている。いささか、皮肉な舞台回しになっているのだ。

韓国の「教育熱心」は、儒教の影響による。儒教のご本家の中国では、官僚登用試験の「科挙」で職人に受験資格すら与えなかった。「小人」として蔑まされていた。中国では、職人が徹底的に差別され、学問のある者が優遇されていたのだ。この仕来りが、朝鮮王朝に持ち込まれた。中韓ともに、商工業が伝統的に振るわなかった背景には、職人蔑視と専売商人だけを認めた制度の欠陥が災いした。後で、さらに説明を加えたい。中韓での「教育熱心」は、多大なマイナス面を持っていることに気づく。

米国では、大学進学率は韓国を上回っているが、個人消費はGDPの7割を占めている。韓国は、米国のように大学教育費を奨学金やアルバイト代で賄える国でない。この差が、大学進学率と個人消費の間に、「相関関係」をつくらせない理由であるかも知れない。ともかく、韓国は「教育貧乏国」になっているのだ。

少ない正規職の求人
韓国紙『中央日報』(2013年12月11日付け)で、次のように報じた。

① 「大企業と中小企業、製造業とサービス業、正規職と臨時職。韓国の産業内両極化構造が『高学歴青年失業者』を量産し、雇用率を下げているという分析が提示された。処方箋は、正規職を中心に労働市場の柔軟性を高めて、青年勤労者に対する税制支援の導入を検討しろというものだ。韓国銀行調査総括チームは、以上のような内容の報告書、『青年層雇用現況および示唆点』を提出した」。

高学歴者の失業率はどの程度なのか。韓国統計庁が1月15日に発表した2013年雇用動向では、次のようなデータになった。15~29歳の青年失業率は8.0%である。青年失業率は、09年の8.1%から2012年には7.5%に下がったものの、昨年また0.5ポイントも悪化した。特に、韓国全体の失業率が昨年0.1ポイント低下して3.1%になったなかで、青年失業率の増加は目を引くものである。

青年(15~29歳)の失業率が8.0%であるのは、大学進学率71%の現実から割り出して、大卒者が多く失業していることが推測される。誰でも大学まで進めば、就職先が「大企業」志望になるのは分からないではない。ただ、大卒者を受け入れるだけの「大企業」が存在しないというアンバランス状になっている。換言すれば、「中小企業」が少ない結果であるのだ。それは、韓国経済の裾野が狭く、一部の大企業のほかにめぼしい中小企業が存在しない。そういう跛行状態にある。

世界ブランドになったサムスンも、自社部品比率は低く他社購買部品(主として日本製)依存である。川下の加工部分はサムスンが担っても、川上(素材)や川中(部品)を担当する分野が韓国には存在しないのだ。日本の場合、川上・川中・川下とワンセット整っている。だから、大企業に運悪く就職できなくても、それに代わる立派な中小企業は「ごまん」と存在している。最近、日本の大学は中小企業への就職を勧めている。「鶏口となるも牛後となるなかれ」である。大企業で歯車になるよりも、中小企業で能力を発揮せよ、という意味だ。この考え方は、「ベンチャー・ビジネス」へと繋がるものであろう。

韓国では、「鶏口となるも牛後となるなかれ」が理解されていないのか。あるいは、「鶏口」たる中小企業が少ないのか。学歴社会ゆえに、大企業の「牛後」を目指しているのだ。理由はいずれにしても、質の良い中小企業の数が少ないのだ。それが、「青年失業率」を8%にもさせているに違いない。大企業に代わる、質の良い中小企業が存在すれば、好きこのんで失業して生活苦を招く若者も減るであろう。

② 「報告書によると、韓国の青年層(15~29歳)の雇用率が、2012年末時点で40.4%であった。経済協力開発機構(OECD)の平均(50.9%)より、相当低い結果となった。主に高学歴化と『ニート』族の増加のためであると指摘している。ニートは、職業教育を受けたり仕事をしたりする意思がなく、ただ『ぶらぶらしている』無職者である。2005~2012年において中・青年層人口は40万人減ったが、『教育機関通学』理由に経済活動をしない青年は45万人、ニート族は15万人もそれぞれ増加した」。

本来、15~29歳の年齢層は学業中が半分を占めているから、OECDで見られる雇用率の平均値が妥当なところである。だが、韓国はこの平均をぐっと下回っている。仕事に就いていない人の数が少ないことを示している。その原因が「ニート」族の増加と見られる、というのだ。現象的にはそうだとしても、青年たちの無気力に原因があるとは思えない。

親の経済的な負担によって大学まで卒業した若者が、ブラブラしているとは考えがたい。ましてや、所得が欧米の半分以下の水準の韓国で、理由もなく仕事に就かないとは考えられない。それは、就職すべき適職がないからであろう。とすれば、「ニート」族を生み出しているのは個人の問題でなく、政府の雇用創造能力が不足している結果である。簡単に「ニート」呼ばわりして、本人に責めを負わせるのは妥当でない。雇用の場をつくれない政府こそ、責任を負うべきなのだ。

③ 「報告書は、このように青年層の非経済活動人口が増えた理由として、サービス業に比べて雇用を多く作ることができない輸出・製造業の比重が大きくなった点を挙げた。また労働市場が、勤務条件の良い1次市場(大企業、正規職)とそうでない2次市場(中小企業、非正規職)に明確に分かれたことも大きいという分析だ」。

韓国でサービス業が不振なのは、私が繰り返し主張しているように、歴史的な負の遺産による面が大きい。先に説明したことと重なるが、再度の解説を加えたい。韓国は儒教国家であり、儒教本家の中国の政治的な仕来りをそのまま取り入れていることだ。専制国家は絶えず「謀反」を最も恐れていた。謀反には資金が必要である。その資金は商人が最も簡単に捻出できる立場にある。かくして王権の維持には、商業統制を前提になった。「自由商業」を禁じて、「専売制」を敷いたのだ。専売制であれば商人の数を限定できる。コントロールが可能なのだ。

中韓では、揃ってサービス業が停滞していた。その理由は専売制である。蛇足ながら、インドの例を取り上げると、興味深い対比ができる。インドではヒンズー教において「商業倫理」を説いている。暴利は許されないが適正な利益は認めていた。中国では「商業倫理」を説く本もなく、『史記』の著者である司馬遷は、死後に『貨殖列伝』なる一書を公刊して、商業の重要性を強調した。中国国内ではすこぶる評判が悪く、今もって司馬遷の評価において「マイナス」になっているほどだ。

ここで、「1次市場(大企業、正規職)と、そうでない2次市場(中小企業、非正規職)」に分類している点が気になる。大企業=正規職、中小企業=非正規職と分類することに、大企業優越意識が滲んでいるのだ。韓国では、いかに大企業が優越的立場にあるかが、この分類で明らかである。韓国の王朝時代に、専売商人と闇商人に分けていた前例を思い出して、この国が過去の遺制を未だに引きずっていることを痛感するのだ。

減る青年層の就職率
『中央日報』(1月16日付け)社説は、次のように論じている。

④ 「昨年の青年失業率が上がった理由は、青年求職者が増えた半面、実際に職場を得た就業者は減ったからだ。青年層の就業者は2000年以降、減少傾向にある。昨年は379万3000人と、1980年に統計を始めて以来の最も少ない数字となった。働く若者が比率だけでなく絶対数まで減ったのだ。その半面、50、60歳代の中老年層の就業者数は増えている。全体雇用率が小幅ながら増えている背景には、このように『青年層雇用減少-中壮年層就職拡大』という雇用構造の悪化現象がある」。

韓国は、何かにつけてOECDのデータを持ち出してくる。自殺率が最も高いとか、今回のように青年層の雇用率が最も低いとか、いろいろ分析している。それも結構だが、現象面にとらわれその原因分析が手薄のように思える。「青年層の就業者は2000年以降、減少傾向にある。1980年に統計を始めて以来の最も少ない」という指摘の背後には、雇用構造の変化が感じられる。青年の雇用が減っているのは、韓国に新しい雇用の場が創造されていない結果であろう。「イノベーション」の停滞と言っても良いが、一人当たりGDPで日本の半分以下の水準で、この状態では先が思いやられるのだ。

こうした将来への展望の開けない点が、合計特殊出生率の低下となって現れているに違いない。高い教育費をかけ大学を卒業しても就職難である。この現実が、結婚難を招き出生率低下をもたらしている。韓国の合計特殊出生率は日本(1.41)を下回って1.30である。これは今後、日本以上に人口減が進むシグナルである。こうした面での議論を聞かないのは不思議である。

「50、60歳代の中老年層の就業者数は増えている」のは、先の労働市場の分類によれば、「2次市場」(中小企業・非正規職)における不正規雇用の増加を示唆している。定年退職者を採用して、青年層の雇用を減らしている結果だ。これも前述のように、「イノベーション」不足の反映であろう。「新しい酒は新しい革袋にもれ」の喩えの通り、新ビジネスが生まれないから青年層の就業者が減って、50~60代の雇用が増えているに違いない。

⑤ 「朴槿恵(パク・クネ)政権が唯一の数値目標として提示した『雇用率70%達成』の足かせとなっているのが青年失業だ。これは、全体雇用率を高めるためには青年失業の解消(青年雇用の増大)が核心的課題という点を逆説的に見せている。青年にきちんとした職場を作ることができなければ、雇用率の向上は不可能ということだ。中老年層に適した時間制・臨時職などだけでは、決して雇用率を安定的に高めることはできない。青年が望む職場は、企業の投資と創業から生じるしかない」。

「青年が望む職場は、企業の投資と創業から生じる」。この指摘は至言である。人口5000万人の韓国では、新ビジネス創出が困難かも知れない。その点で、日本という格好の提携相手国が隣国に控えている。年内にも、韓国がTPP(環太平洋経済連携協定)に参加するならば、日韓は同じ経済圏で顔合わせするのだ。それにもかかわらず、連日の日本批判である。よくぞ批判の種を探して来る。「感心」するほどだが、賢明とは思えない。韓国経済の行き詰まり感が明白にもかかわらず、日本への悪口雑言の連発である。自分で未来の芽を摘んでいる。なぜ、冷静になれないのだろうか。そう訝るのだ。

(2014年1月28日)


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