中国、ソロス氏が緊急警告「改革失敗で抑圧と軍事行動」の懸念大 | 勝又壽良の経済時評

中国、ソロス氏が緊急警告「改革失敗で抑圧と軍事行動」の懸念大

『習近平大研究』勝又壽良著

<勝又壽良著 「電子書籍」大好評発売中!>
『習近平大研究』今だけ大特価ワンコイン500円!


*******************
矛盾した政策2年以上は無理
世界の3大リスクに中国問題

中国が、執拗なまでに安倍首相の「靖国参拝」を非難攻撃している。これには、裏があると見なければならない。中国の抱える国内問題が、暗礁に乗り上げているからだ。国民の関心を外に向ける。こういう独裁国家固有の「やり口」が、垣間見えるだけに警戒が必要だ。中国にとって「靖国参拝」は、日本を攻撃する格好の口実になった。

内外で、中国への軍事的な警戒感が強まっている。韓国を取り込んでカムフラージュしながら、日本批判を煽っているからだ。韓国も、中国の隊列に加わって日本を批判する。中国が、日本へ「軍事行動」を起こすには、これ以上ない有益な「口実」ができたのだ。まさに「正義」の戦いの理屈が生まれたのである。折しも、今年は日清戦争から120年。中国が恨みを晴らすにはまたとない機会が来たのだ。

世界的な著名投資家のジョージ・ソロス氏は、中国を世界経済最大のリスクとして上げている。習近平主席は、経済改革に全力で立ち向かう姿勢だが、国有企業を国家経済の基幹に据え付け、その上で市場経済原理の貫徹化を図るとしている。すでに私が指摘したように成功するはずがない。国有企業という政治と密接な企業体が、市場原理の貫徹を阻止することは明らかである。既得権益の塊の国有企業が、競争条件がすべて等しい市場原理になじむはずもないからだ。こうして経済改革の成功確率はきわめて低くなる。前記のソロス氏は、世界経済が抱える最大のリスクとして中国を上げる理由だ。

矛盾した政策2年以上は無理
米経済紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月7日付け)は、次のように伝えている。

① 「今日の世界が直面している重要な不安定要素は中国だ、とソロス氏は新聞報道の国際NPO『プロジェクト・シンジケート』のウェブサイトへの寄稿文で述べた。同氏は、『中国の現在の政策には解消されていない自己矛盾がある。溶鉱炉の再開は負債の急激な拡大を再発させる。これは2年以上、持続できるものではない』と指摘している」。

中国人民銀行(中央銀行)は2012年に企業債務増加の抑制に着手した。この結果、中国企業は「本当の経済的困窮」を経験した、とソロス氏は述べている。このため中国共産党は政治的権力を行使し、鉄鋼メーカーには溶鉱炉の再開を、銀行には金融緩和を命じたのである。こういう事情から、「溶鉱炉の再開は負債の急激な拡大を再発させる」という表現になったものだ。

すでに私が指摘したように、中国経済は政治(共産党)が容赦なく介入する異質の経済体である。こんな状態で、「市場経済原理」の貫徹などできるわけがない。それこそ、お笑い種である。この緊急措置が一時的には通用しても、「2年以上は続けられない」のである。となると早晩、過剰設備と過剰融資が整理される運命になるのだ。

② 「中国で次に何が起こるのか。次の2つの可能性を指摘する。(1)中国が転換を成功させるためには、経済的な改革同様、政治的な改革も必要になる可能性が最も高い。(2)失敗すればまだ広く残っている指導部への信頼を損なうことになろう。結果として国内では抑圧、国外では軍事的な対立をもたらす。中国という難題が向こう数年の間に顕在化する中で、この状態は無期限に続くだろうとソロス氏は言う」。

ここでソロス氏は、「経済的な改革同様、政治的な改革も必要になる」と指摘している。その通りである。私はこのブログで、政治改革なくして経済改革なしと言い続けている。「社会主義市場経済」はまさに政治と経済の混合体である。政治が経済を支配する関係にあるのだ。地方政府が国有企業と国有銀行を軸にして、思いのままに経済活動をさせてきた。市場原理から著しく逸脱しても、経済成長率さえ押し上げられればそれで良かった。この非効率経済体こそ、現在の中国経済の実態である。政治改革なくして経済改革なし、とはこういう背景が存在するからである。

政治と経済の混合体の「社会主義市場経済」体制は、共産党政治を廃止しない限り不可能である。となれば、経済改革が「失敗すればまだ広く残っている指導部への信頼を損なうことになろう」という公算はきわめて大きいのだ。「結果として国内では抑圧、国外では軍事的な対立をもたらす」はずである。こうなると、対日問題は、中国にとって願ってもない「天佑」になる。中国政府は、日本批判を繰り返しナショナリズムに火をつける。そうしておけば、国民の不満を日本に向けられるのである。ときには強行策を取って、日本を軍事的に威嚇する。万一、日中間で軍事衝突して火を噴いても、米国が仲裁に入ってくれる。中国政府の描いているシナリオは、こんなところであろう。

ソロス氏は、最後に次のように見通している。「中国という難題が向こう数年の間に顕在化する中で、この状態は無期限に続くだろう」というのだ。ここでは、もはや中国経済の未来を見限っているのである。政治改革ができず経済改革も不発に終わり、中国経済はじり貧状態に陥るのだ。この状態を決定的にするのが、後で取り上げる「生産年齢人口比率」の急減である。中国経済は完全に「腑抜け」になる。これも私が一貫して主張している点でもある。

ソロス氏と同じ予測が、期せずしてほかに米国で出てきた。

世界の3大リスクに中国問題
『日本経済新聞』(1月7日付け夕刊)は、次のように伝えている。

③ 「米調査会社ユーラシア・グループは1月6日、2014年の世界の『10大リスク』を発表した。首位は米国の『同盟危機』。国際政治・経済での影響力低下を受けた同盟国の米国離れに警鐘を鳴らした。2位に新興国の選挙。3位には中国を挙げ、国内問題から目をそらすため指導部が反日感情に訴える可能性も指摘した。指導部が一新した『新・中国』を巡っては、『改革先送りは止めた』と評価しつつも、これが大きな成功と失敗の両方の可能性をはらむと分析した」。

習近平政権が改革姿勢を見せているが、それは額面通りに受け取れない。中国の政治経済システムそのものを温存している。その中での「改革」に過ぎないからだ。はっきり言って、「社会主義市場経済システム」は共産主義と資本主義の「合いの子」である。一見、理想的なシステムの感じを与えるが、過渡的な制度にすぎない。共産主義者が最大の利権を獲得して、最大の利益を上げられるシステムであった。根本的な矛盾を抱えるこのシステムが、永続化するはずがない。自己矛盾を起こして自然崩壊することは不可避なのだ。

極限の利益を得てきた中国共産党が、「社会主義市場経済」制度を手放さないとすれば、「国内問題から目をそらすため、指導部が反日感情に訴える可能性」はさらに大きくなる。中国外相がすでに、世界中で日本非難の「告げ口」外交を行っている。「正義は我にあり」という中国得意のポーズである。「嘘も100回やれば真実になる」の喩え通り、中国の言い分に耳を貸す国家もでないとは限らない。日本として留意すべきは、中国のつけいる余地を与えないことである。日本人として、「靖国参拝」の心情は理解する。ただ、相手が中韓では「敵に塩を送る」に等しいのである。日本を批判したくて手ぐすね引くのが中韓である。それを忘れてはならない。

中国は独裁国家である。民主主義政治との根本的な違いは、民意を自由自在に操作できる点にある。国民に対して、政府の不都合なことを悟らせないためには、国民の関心を外に向けておくことである。繰り返して言えば、日本はまさに好適な存在である。日本を悪者にしておけが済む話しである。中国政府の「安全弁」が日本の存在である。「日本軍国主義」を叫び続けておけば、中国共産党は当面安泰で延命への時間稼ぎになるのだ。

中国共産党の矛盾深化は同時に、対日問題の先鋭化である。反面、日本との関係希薄化は中国経済の行き詰まりを促進するはずである。日本の技術が中国に渡らなければ、二進も三進も行かなくなる。独創技術を持たない。中国の基本的な弱点がこれである。これを十分に知り抜いているはずなのに、あえて日本を悪者に仕立て上げる背景は、中国政治の矛盾深化である。背に腹は代えられない。だから、「恩を仇で返す行為」も行うのだ。

中国の最大の弱点は、急速な出生率(合計特殊出生率:一人の女性が生涯に出産する子ども数)低下である。人口横ばいには2.08が必要である。中国はすでに1.18に低下しており、日本の1,41(2011年)を遙かに下回る事態だ。現在、13億4000万人余の人口を抱えていても、健康で働ける年齢は15~59歳にすぎない。国際標準では15~64歳だから、中国は5歳も短いのである。原因は、健康寿命が65歳と短いように、体力的に64歳までの労働が困難なのだ。まさに「独活(うど)の大木」と言って差し支えない。GDPは世界2位でも、国民の健康状態は決して誇れる水準にない。

労働力確保の狙いから、中国が一人っ子政策の一部修正を始めた。両親のうちどちらかが一人っ子の場合、二子の出産を認めるものだ。従来は、両親とも一人っ子であれば、二人目の出産を認めてきたから、若干の出産制限緩和である。後で説明するように、子どもが増えても労働年齢の15歳になるまでは、逆に生産年齢人口比率を下げて、経済的には負担増加になる。

生産年齢人口比率とは、総人口に占める生産年齢人口の比率である。これが上昇していることは、働き手が多いことを意味している。家計を考えれば分かるように、扶養家族の多い家庭では生活は苦しい。一方、働き手が多く扶養家族の少ない家計は豊かだ。国家レベルでも事情は同じである。中国の改革・解放政策後の33年間に平均9.8%成長を実現したのは、実に生産年齢人口比率の上昇という「人口ボーナス」が寄与した。

生産年齢人口比率という仕組みを理解しないと、「出産増加=経済活性化」というとんでもない誤解を生じる。子どもは生まれても15歳までは働けず、その間は扶養家族の増加にカウントされる。生産年齢人口比率の低下に拍車を掛けるのだ。いずれにしても、今後の中国経済は人口面から大きなブレーキがかかっている。この厳しい現実を理解すれば、「中国が米国経済を抜いて世界一になる」との説が、大変な錯覚であることが分かるのだ。

米国は先進国で唯一、合計特殊出生率が2.08近傍にある恵まれた環境にある。移民による人口増加が寄与している。生産年齢人口比率から見て、米中は完全に異なる状況にある。中国は逆さになっても米国に敵わないのである。この現実を受け入れるならば、無駄な軍拡を止めて国民生活充実に経済力を振り向けるべきである。

中国経済には、「中所得国の罠」と言われる関門が控えている。1人当たり名目GDPが1万ドル未満から経済成長が停滞することを指している。アジアでは日本のほかに、シンガポール、香港、台湾、韓国がこの関門を突破した。これら4カ国に共通しているのは、この関門通過後も、生産年齢人口比率が上昇していたのだ。中国の場合、生産年齢を国際標準にあわせた生産年齢人口比率で計算すると、2010年の74.5%がピークであった。今年の2014年から下落の速度が加速して、2023年には71%まで下がる。先に指摘したように、これは国際標準の生産年齢人口を使ったデータである。生産年齢人口を中国の実態に合わせて15~59歳に下げると、中国の潜在成長率は数年で5%を割り込むはずである。

ここまで来ると、中国経済の「世界一論」など夢のまた夢という、「おとぎ話」になるのだ。ここで思い出していただきたいのは、冒頭に掲げたジョージ・ソロス氏が、「中国という難題が向こう数年の間に顕在化する中で、この状態は無期限に続くだろう」という予測である。成長率5%割れの中国経済が、政治改革も経済改革もできずに漂っている。この状態では、国内の不満を抑えるべく、対日批判を一段と過激なものにしてくるであろう。まさに日中は「一触即発」の危機に追い込まれる。

この危機を未然に防ぐには、中国を刺激することを避けるのが賢明だ。中国はその時、「手負い猪(じし)」になっているから、捨て身の戦法で日本に向かってくるに違いない。こんな国を相手に、戦争に巻き込まれるのは愚の骨頂である。相手にしないことである。「靖国参拝」も止め交流を少なくすることが、日本の安全保障に不可欠となろう。

中国は「中華帝国」の末裔であり、戦争を外交手段の一つにしている国家である。中国との関わりを少なくし、その分をアジアの「親日国」と交流を深めて行く。これが、日本にとって最善の選択と思える。中国との戦争を回避する道を探す。それが最も賢明なのである。極論すれば、まともに相手をしないことにつきるのだ。

(2014年1月15日)


中国は「武断外交」へ 火を噴く尖閣―「GDP世界一」論で超強気/勝又 壽良

¥1,680
Amazon.co.jp