中国、「日本製造業の海外投資有望国」初の首位転落で強気総崩れ | 勝又壽良の経済時評

中国、「日本製造業の海外投資有望国」初の首位転落で強気総崩れ

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ASEANが有望国1位へ
敵を作っては生きられない

ついに来るべきものが来た、という感じだ。これまで、日本製造業の海外進出有望国として、常に首位に挙がってきた中国が、一挙に4位へと転落した。政府系の国際協力銀行が、1989年から続けてきた有力製造業のアンケート調査において、予想通りの結果が出たのである。

私はこのブログで一貫して、中国への進出がリスクを伴いすぎると主張してきた。ASEAN(東南アジア諸国連合)のほうが「親日国」であり、市場としても有望であることを飽かずに言ってきた。ようやく、これが現実化し始めたのだ。日本にとって政治的リスクのないASEANは、日本の「第二の生産基地」になるに違いない。

日本の製造業が、中国を有望投資国として評価しなくなったのは、中国経済にこれから深刻な影響を及ぼすはずだ。これまで中国政府は、「南京虐殺30万人説」や「尖閣諸島日本泥棒論」など、あらゆる政治的欺瞞を日本に吹っかけてきた。あまりにも高飛車な態度で、日本を難詰してきたのである。もちろんアンケート調査には、こういった「感情面」の調査項目があるわけでない。だが、のべつ幕なしに中国から「日本批判」されていれば、そうした中国から遠ざかりたい。そう思うのは、人の常であろう。中国は、「GDP2位」の座に酔い傲慢になりすぎたと言うべきであろう。

ASEANが有望国1位へ
国際協力銀行が、11月29日に発表した資料は次のような内容である。

① 「中期的な有望国では上位有望国の順位が大きく変動。中国が調査開始以来はじめて第1位から第4位に後退する一方、市場拡大への期待が高いインドネシアがはじめて第1位となった。インドは第2位に留まるも得票数は大きく減少し、第3位のタイを含め、上位4ヶ国の得票率が40%前後で拮抗する結果となった。但し、長期的(今後10年程度)な有望国では引き続きインド、中国が第1位、第2位であり、両国は今後も主要な事業展開先として認識されている」。

今回の調査(注:年1回)は、7月から9月にかけて回収したもの(対象企業数992社、有効回答数625社、有効回答率63.0%)。1989年から調査しており昨年までは判で捺したように、中国が海外投資有望国の首位に挙げられてきた。それが今年は4位へと転落したのである。中国を有望投資国とする社数の推移を見ると、昨年の319社が今年は183社と過去最低になっている。「得票率」は、2010年が79%と高かったが、昨年が61%、今年は37,5%と落ち込んだ。

ここで注目すべきは、ここ2年ほど「中国人気」が急速に冷めていることである。中国を投資有望国から外した理由は、次のパラグラフで指摘されているように、人件費アップと労働者不足である。これらが直接の理由であろうが、隠れた理由は日中の政治的対立である。とくに今年の「急落」は、政治的な要因以外には考えられない。

あれだけ、中国から日本の悪口雑言を言われれば、「政治リスク」を考慮に入れるのは当然なのだ。中国では派手な喧嘩は日常茶飯事とされる。日本にはそのような習慣が存在しない。だから、血相をかえて「日本批判」されれば、身の危険を覚えるのは致し方ない。そんな危ない国は避けて、「温和」なASEANへ鞍替えしたのは自然な流れである。

いったん、こうした流れが定着してしまうと、もはや中国へ戻ることはなくなるのだ。私が口を酸っぱくして中国へ「忠告」したように、「覆水盆に返らず」である。「GDP2位」で有頂天になった中国は、聞く耳もたずであったのである。今回の「防空識別圏設定」問題では、一段と日本企業の「脱中国化」に拍車をかけるであろう。人民日報系の『環球時報』は、次のように「日本標的」を明確にした記事(『共同通信』11月29日付け)を掲げている。

「中国は闘争の狙いを日本に集中し、日本の野心を打ち砕くべきだとの見出しの社説を掲載した。社説は、米国もオーストラリアも防空識別圏をめぐる直接的な相手ではない。日本が自衛隊機を識別圏で飛行させた場合は、中国も対抗すべきである。冷戦時代の米ソのように接近戦も想定されるので、中国空軍はそれに備えた訓練を強め武力衝突も覚悟すべきだ」。

『環球時報』は、こうした勇ましい社説を書いているが、中国経済にとってどのようなマイナスが起こるのかまったく無頓着である。無知ほど怖いものはない、という実例がここにある。強気の「進軍ラッパ」を吹いていれば、それで良いわけでない。中国経済が破綻の危機に直面するのである。

② 「中国を有望国から外した企業は、『労働コスト上昇・労働力確保困難』を最も懸念。一方、有望国として挙げた企業はマーケットの規模・成長性を評価した。昨年調査において中国を有望国に挙げた企業で、今回調査でも中国を引き続き有望国に挙げた企業数はほぼ半減した。今回調査で中国を有望国から外した企業のうち、中国事業を縮小・撤退すると回答した企業はごく少数に留まった。また、今回調査で中国を有望国から外した企業の4割強は、『労働コスト上昇・労働力確保困難』を最も懸念する一方、中国を有望国として挙げた企業の多くは市場の規模・成長性を評価しており、中国に対する視点の違いが結果を二分した」。

「昨年調査において中国を有望国に挙げた企業で、今回調査でも中国を引き続き有望国に挙げた企業数はほぼ半減した」とは、驚きである。「労働コスト上昇・労働力確保困難」が中国を投資有望国から外した理由となっているが、これは急に起こった問題ではない。すでに3年前から顕著になっていた。とすれば、理由は日中の政治対立しか考えられないのである。ましてや、「防空識別圏設定」問題によって日本製造業は、中国への投資に消極的になるに違いない。中国は、自分で自分の首を絞める結果になるはずだ。

敵を作っては生きられない
香港紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』(11月21日付け)は、「中国が繁栄を望むなら、敵ではなく友をつくるべき」と題した記事を掲載した。

③ 「30年にわたる経済繁栄が中国を国内総生産(GDP)世界2位に押し上げた。多くの中国人が、『自分たちは豊かになった』と感じ、世界に挑戦しようと思い始めたようだ。中国当局は過去の闘争経験を十分に利用し、『共産党だけが中国の民衆を海外の脅威から守ることができる』として、『外国の陰謀』や『外国の侵略』に猛烈な攻撃を加えている」。

歴史的に中国民衆は、独裁政権によって搾取されてきたので、貧しい生活を強いられてきた。共産党幹部も二代、三代前を辿ればほとんどが貧農出身である。それが現在、王侯貴族の生活を送れるようになった。貧困時代の生活を忘れて、「中華帝国」の夢を再現すべく、世界へ挑戦したいと思い立っている。ここに大いなる矛盾がある。かつて自分たちの祖先を苦しめた「中華帝国」の立場に逆戻りして、自らが「皇帝」として振る舞い始めているのだ。

この矛盾に誰も気づかずにいる。19~20世紀に起こった中国への「外国の陰謀」も「外国の侵略」も、現実には存在しえない問題である。勝手にこうした危機のイメージを膨らませて、「自作自演」の危機論を喧伝して「軍拡」に励んでいる。まさに、かつての「皇帝」と同じ振る舞いを始めている。国民に対して、危機感を高めれば高めるほど、共産党の存在が不可欠であると納得させられる。共産党は、こうしたソロバンを弾いて自らの延命を図っているに違いない。

④ 「日本と戦うことになれば、(中国は)何十億ドルにも上る武器を購入することになり、巨額の資本が米国へ流出する。日中両国で不動産価格は暴落し、罪のない人々の生命が奪われ、米軍基地は東アジアに今後100年は存在し続けることになる。では、こうした状況を避けるにはどうすればいいのか」。

とりわけ中国が、日本軍国主義を煽り立てている背景には、自らの軍拡をカムフラージュする意図が隠されている。中国の防衛費は対GDP比2~2.5%に達している。日本は1%枠を守ってきた。日本の軍国主義問題は、この防衛費の対GDP比を見れば明らかだ。この規模の防衛費では「軍事大国」になりようがない。

中国はこうしたデータに基づく議論を避けて、根拠不明の「軍国主義日本」を糾弾しているのだ。日本人は太平洋戦争に懲り懲りしている。自ら進んで、中国と戦端を開こうという愚か者は、一人もいないであろう。中国大衆に見られる「好戦性」とは訳が違うのだ。「平和愛好」度では、日本がはるかに中国を上回っている。日中の「民度」の違いと言える。

不幸にも仮に日中が戦闘状態にはいれば、中国は日米安全保障条約によって、自動的に米軍とも戦闘状態に入る仕組みになっている。どう見ても、総合的な戦力から見て中国に勝利の見込みはない。それが分かりながら、尖閣諸島奪回目的で日米に戦争を仕掛ける。それは、中国にとって自殺行為である。こうした非合理な選択を中国がするならば、「米軍基地は東アジアに今後100年は存在し続ける」はずだ。中国の敗戦は、共産党政権崩壊を意味するのである。

⑤ 「中国が直面している問題は多い。政治腐敗や環境汚染、経済格差、高齢化、チベットやウイグルの民族問題など山積だ。中国が今やるべきことは、こうした眼前の問題解決に精力的に取り組むことであり、『中国の時代』を追い求めることではない。『東アジア共同体』が成立すれば、中国は日本や韓国から進んだ技術や知識を学ぶことができ、問題の解決に役立つはずだ」。

中国が内政で難題山積のなかで、「中国の時代」を追い求めるべきでない。この主張は、私が一貫して言っていることと同じである。前述のごとく、貧農の倅が政治権力を握った途端に、自らの貧農としての苦しい境遇を忘れて、「皇帝」として振る舞いたがっている。これこそ、共産党政権の真実である。「皇帝」になった以上、武力を拡張して周辺国を威嚇してみたい。これが、国民に対する「皇帝」としての「箔」(はく)にもなって、権力基盤の強化に繋がるからだ。単純に言えば、共産党や人民解放軍の腹の底はこんなものであろう。マルクス・レーニン主義などは、「箔」をつけるためのお飾りに過ぎない。人民の幸せとは何か。この根源的な問いかけに、共産党政権は真面目に答えられるだろうか。

⑥ 「中国がこの30年間発展を続けて来られたのは、冷戦終結と世界的な貿易体制の開放のおかげだ。友好的な雰囲気の中で海外からの直接投資が増え、中国は『世界の工場』となった。現代のようなグローバル化の時代に、支持者や友人を持たない国は地域における大国にはなれない。中国が繁栄するためには、日本や隣国の協力が不可欠だ。同様に、日本の平和の継続と発展には中国の協力が欠かせないのである」。

今回の防空識別圏設定は、中国の奢りである。大国として、何をやっても許されるという錯覚に基づいている。この問題をきっかけにして、周辺国は言うに及ばず、遠くEU(ヨーロッパ連合)まで批判を浴びせている。まさに自殺行為であるが、中国の「メンツ」も絡んで撤廃はできないであろう。

こうなると、蟻地獄のごとく孤立の淵へ引きずり込まれる。「中華帝国の再興」とは真逆の事態に見舞われるのだ。もし中国が、民度の高く尊敬される国家であれば、まだ「起死回生」の救いもあろう。それもないのだ。経済力は、不動産バブル崩壊に加え外資の敬遠によって下降局面が一段と顕著になる。すでに日本企業は、中国よりもASEANへと舵を切っている。余りにも、GDP2位で有頂天になりすぎた。そのしっぺ返しをいま受け始めているのだ。もはや、救いはどこにもなくなった。

(2013年12月9日)




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