中国、鉄道省解体「資本金16兆円」の新会社設立も赤字垂れ流し | 勝又壽良の経済時評

中国、鉄道省解体「資本金16兆円」の新会社設立も赤字垂れ流し

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準備もなく突然の鉄道省解体
江沢民一派の抵抗封じが目的

汚職の伏魔殿と化していた鉄道省(部)がついに解体された。これまで何回か解体論が出ていたが、そのたびごとに江沢民一派の強い抵抗で封印されてきたもの。それが、3月17日ついに看板の付け替えとなった。行政改革の一環というイメージであるが、実態は垂れ流されている赤字の処理に過ぎず、7.5%の経済成長率維持の目的で、今日も高速鉄道工事が続けられている。

鉄道部は17日、これまで正門に掲げられていた「中華人民共和国鉄道部」のプレートをはずし、新たに「中国鉄道総公司」と書かれたプレートを掲げた。中国政府が鉄道部から切り離した旅客輸送や鉄道建設の現業部門を担う国有企業として、「中国鉄道総公司」が設立されたのである。従業員数が210万人、資本金は1兆360億元(約15兆7000億円)という超大型国有企業である。中国政府は補助金や優遇税制で新会社を支援することになっている。新会社が鉄道建設に伴う債務を引き継ぎ、収益からの納税を当面求めないことも決定している。新会社を全面的に支える姿勢を明確にしたものだ。

準備もなく突然の鉄道省解体
中国政府による、「おんぶに抱っこ」にも等しい形で、鉄道部から切り離した旅客輸送や鉄道建設の現業部門を担う国有企業として発足させたのは、政府の一部門として存続させる限界を超えた赤字を抱えているからだ。本来ならば、旧日本国有鉄道の分割・民営化(JR)という方式を選ぶべきであった。それでは「国策」としての7,5%成長が維持できない結果、国有企業という形での看板の付け替えだけに済ませて、お茶を濁さざるを得なかった。中国経済の内実は、ここまで追い込まれているのだ。

例えば、『フィナンシャル・タイムズ 中国語版』(3月15日付け)は、記事「中国の原材料需要低迷が懸念招く」を掲載した。 「河南省平鋼製品交易商・趙宇為(ジャオ・ユーウェイ)氏は2013年の旧正月明けも、需要動向が思わしくない。顧客の多くは休み後にまだ生産を開始せず、商品需給動向を見ている。鉄鉱石、銅、石炭などコモディティー商品の消費量の伸びも1桁台となっている。年2桁の高成長に慣れきった商品市場は、中国の経済がこれからどう変化するのか、景気のハードランディングはあるのか、注視しているほどである」。相変わらず、生産者価格指数(卸物価指数)は前年比マイナス状況であり、景気回復の手応えはない。中国経済は楽観を許さない状況にある。どうしても、鉄道の新線建設で景気を下支えせざるを得ないのだ。そこで、財政赤字に直接反映されない国有企業に衣替えさせたのに過ぎない。

『サンケイビズ』(3月18日付け)は、次のように伝えている。

①「中国鉄道総公司に対して、財政部が1兆360億元(約16兆円)を国庫から出資し、鉄道部が保有していた資産と債務と、人員の大半を引き継ぐ。総経理(社長)には鉄道相だった盛光祖氏が就任するが、急ピッチに進めた高速鉄道の建設などによって、2012年9月末段階で2兆6600億元(約40兆7800億円)にまで膨れ上がった鉄道部の債務をどう返済するか、資本金で一部を返済するにしても、過半はめどが立っていない」。

②「債務問題を深刻化させている要因の一つは、景気のてこ入れを目的に中国政府が採算度外視で急がせた高速鉄道建設だ。07年にスタートしたばかりの中国の高速鉄道は、すでに北京-上海、上海-杭州、鄭州-西安など続々開業している。営業キロ数は総延長で9300キロを超えた。今年はさらに約3000キロが開業する見通しで、沿岸部から内陸部まで主要都市はほぼ高速鉄道で結ばれることになる」。
 
③「これに伴い財務状況はますます悪化している。国家予算や運行収入など以外に、鉄道債発行や銀行借り入れで建設費用をまかなってきたが、昨年は1~9月に85億4100万元の赤字を積み増した。高速鉄道は割高な運賃との批判もあり、予測ほどには利用客が伸びていない。北京-天津など短距離路線でわずかな黒字を計上する以外は、大半の路線で赤字が続き、鉄道事業全体としても赤字は膨らむ一方だ」。

無理な高速鉄道建設を行ない景気下支えしている現状は、異様というほかない。採算の取れない路線での建設は、将来へ赤字という禍根を残すことは確実である。これは財政赤字の垂れ流しであって、将来の中国財政の収支悪化を決定的にしている。昨年の鉄道建設投資は、総額5160億元。当初計画に1100億元も上積みされた。今年は6000億元以上になるとみられる。まさに背に腹を変えられないといった趣での新線建設の強行である。

『人民網』(3月18日付け)は、次のように伝えている。

④「これまでのデータによると、旧鉄道部は2兆6000億元に上る巨額の債務をかかえており、負債比率は60%を超えている。新しく誕生した中国鉄路総公司がこの債務をどのように引き継ぎ、どのように消化するかに注目が集まっている。同公司は旧鉄道部の名義で調印されたすべての債権・債務を引き継ぐことになる。旧鉄道部と国の鉄道システムが有していたすべての無形資産、知的財産権、ブランド、商標などの権利を引き継ぎ、統一的に管理・使用する。すでにうち出された国の支援政策には変更がないという」。

⑤「鉄道には学生、負傷して障害を負った軍人を輸送したり、農業に関わる物資を輸送したりといった公共輸送の任務があり、青海省と西蔵(チベット)自治区を結ぶ青蔵線や新疆ウイグル自治区南部を走る南疆線などの公共鉄道は経営状態が赤字に陥っている。こうしたことを踏まえて、鉄道の公益輸送に対する補助金メカニズムの構築を検討し、財政補助金などの方法の採用を検討して、鉄道の公益輸送で生じた損失を適宜補償するとしている。このようにして、鉄道の公益性は保たれることになる。行政部門と企業部門が分離した後、公益性に関わる損失は政府が穴埋めすることになる」。

鉄道の公益輸送という観点から、政府が補助金を給付するという。赤字分を料金引上げで穴埋めすれば、庶民の反発を招くので別途、補助金システムを構築する、というのだ。ここまで面倒見ながら高速鉄道を建設していく狙いは、すでに指摘したとおり経済成長率維持という一点に絞られている。それ故に、従業員数210万人、資本金16兆円という超マンモス国有企業が誕生したが、これで経営が上手く行くという保証はどこにもない。相変わらずの汚職の温床であり続けるに違いない。

江沢民一派の抵抗封じが目的
鉄道省解体という、ドラスチックな行政改革に見えるけれども、それは「目くらまし」と言ったほうが正確であろう。当初は解体の実施時期について、3月14日の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)での「採択後に時期を示す」(馬凱国務委員)というだけしか発表しなかった。現場作業員など210万人の職員を抱える鉄道省の解体には、1年以上の歳月がかかるとの見方が多かった。ところが、「電光石火」でなんと3月17日に解体するという離れ業を演じた。だが、これだけの超マンモス国有企業が誕生であるから、すぐに効率的な経営ができるわけがない。準備期間がゼロである以上、効果もゼロで当たり前である。

要するに、中国行政とは準備もなくすぐに着手するという無鉄砲さに特色がある。ただ看板を付け替えるという鬼面人を驚かせることは行なうが、十分に準備して物事を始めることが極めて不得手な民族と言える。どう見ても、この民族に発展性があるとは思えないのである。思いつきで無計画。それが中華民族の本質と言えよう。だが、一歩引き下がって考えてみると、鉄道部解体に対して江沢民一派の抵抗がいかに強かったか。それを間接的に証明してもいるのだ。解体時期を1年後という「悠長」なことを言っていると、彼ら抵抗派が巻き返しを図る危険性が大きかったのである。

ことほど左様に中国での改革に対しては、既得権益集団がしっかりとまとわりついているのである。これを考えると、政治改革など簡単にできるわけがないのである。せいぜい、習近平国家主席のごとく「中国の夢」を語って、問題を先送りするしか道はないのかも知れない。中国の経済的危機は同時に政治的危機を招くので、マルクス用語を用いるならば、「全般的な危機の深化」と言えるのである。それは、中華文明の危機でもあって最終局面に差しかかっている証左と言えるのだ。拙著『火を噴く尖閣』の補論では、この問題を検討している。

拙著『火を噴く尖閣』の主要内容は次の通りである。

第1章 国際法から見て尖閣諸島は日本領土
第2章 米国は中国に軍事覇権を渡さない
第3章 中国はバブル・ショックを克服できるか
第4章 産業構造高度化を阻む原因
第5章 環境破壊が生む「アジアの病人」
補論  中華文明「衰頽」どこまで自覚しているか

(2013年3月28日)


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