中国経済、今後5年は失速の恐れ「財政資金」逼迫して打つ手なし | 勝又壽良の経済時評

中国経済、今後5年は失速の恐れ「財政資金」逼迫して打つ手なし

「帝国」型の経済政策が失敗
外貨流入減が流動性不足招く
鉄道部に民間資金を誘導する

世界中を羨ましがらせてきた中国経済が、ついにその馬脚を現してきた。かねてから、その不均等発展のもたらす脆弱性に対して、私は一貫して批判の目を向けてきた。実態は、過剰な設備投資のもたらす過剰生産能力を、均衡相場かから乖離した「元安」をテコにして凌いできたにすぎない。世界中に中国製品を輸出して、「世界の工場」の名を恣にしたのである。それが、ついに不可能になった。言わずと知れたEU(欧州連合)の経済危機が、中国からの輸出増加にストップをかけたのだ。「世界の工場」説によって、中国経済の発展基盤は盤石かに見えた。真相は、「人件費安」だけが理由であった。その人件費はうなぎ登りの上昇である。すでに、「世界の工場」と言って胡座をかいていられる状況でなくなったのである。

中国経済は短期間で苦境に追い込まれる結果になった。まだ、中国経済の先行きを楽観している向きもある。「あと10年は、10%成長が続くだろう」という超楽観論が、中国人エコノミストから聞かれた程である。もはやそうした「能天気」な見方は不可能になっている。いつ6%成長ラインを割り込むか、というほど切迫している。中国経済の本質は「外延型」であった。内需を固めることを忘れて、投資と輸出を軸にして高度成長を図る「猛進型」であった。こうして3兆3000億ドルもの外貨準備を積み上げて悦に入っていた。それが「不動産バブル」を生みだして、命取りになったのである。中国では流入する外貨はすべて「元」に替えて、中国国内に散布されている。

「帝国」型の経済政策が失敗
中国の経済政策は「普遍帝国」の色彩を色濃く残す「外延型」である。国民生活を充実させることが、国家の使命という近代国家としての機能に目覚めなかったのだ。「帝国型」の経済政策であるから、輸出増加こそ「五星紅旗」の威厳を高めると錯覚してきた。国民生活に直結する社会福祉には消極的であり、その分を軍拡予算に振り向けるという、発展途上国の政策として最悪の選択をしてしまった。この源流は、中国という国家の成り立ちを証明する国制史が、「普遍帝国」にあった結果である。中国の国家としての「出自」には、こうした悲劇的な結末をもたらすDNAがあるのだ。

以上の前段を頭にいれて、最近の「元相場」を見ておきたい。5月25日の上海外国為替市場で、人民元の対ドルレートが一時、1ドル=6.3525元まで下落した。昨年12月20日以来約5カ月ぶりの安値水準となった。中国景気への減速懸念から人民元の先安観が強まったからである。これまで元相場は中国への外資流入を前提にして、「右肩上がり」の上昇予想が普通であった。それが「変調」をきたしているのは、中国経済への見通しが従来の強気一辺倒から、変わってきたことを示している。いつまでも中国経済の「独り勝ち」が続くわけのないことを知ったからである。

『中国証券報』(5月11日付け)は、次のように伝えている。

①「中国商務部は、今後5年間に対外貿易は世界経済の成長鈍化、貿易保護主義の台頭などの試練に直面することになると見ている。国内企業には、経営コストが全面的な上昇期に突入することや、対外貿易の構造調整もより難しくなることなどの難問が突きつけられる。外貨の買い入れに伴う自国通貨の放出は中央銀行のベースマネー供給の主要ルートの一つである」。

②「2011年第4四半期以来、中国の新規外貨買い入れ額は稀に見るマイナス成長となり、2012年に入って貿易黒字が全体的に落ち込んだ以外に、第1四半期のデータからホットマネーの流入も減少傾向にあることが分った。1月のホットマネーは約150億米ドルの純流出、2月は約277億米ドルの純流入は、3月は30億米ドルの純流入となっている。通算して第1四半期のホットマネーは、157億米ドルの純流入であるが、2011年毎四半期間に1000億米ドル近くの流入があったことに比べると、今年の流入が緩やかになっていることがわかる」。

③「2011年第4四半期から、中国の外貨買い入れ額は3カ月連続で減少している。1~3月、一時プラス成長に回復したものの、増加額は決して多くはない。第1四半期の外貨買い入れ額はたった2906億3700万元の増加にすぎず、前年同期の1兆1240億元に比べ、74%も減少している」。

④「中国社会科学院金融所金融重点実験室の劉イク輝主任は、今後5年間、中国は外貨買い入れ額が著しく減少する可能性が非常に高いと見ている。2012年の外貨買い入れ額の増加幅は1兆2000億元の水準まで縮減すると見込まれ、更に低い可能性もある。アナリストは、外貨の流入不足、財政預金の還流及びオープン市場の満期取引商品の減少などを勘案して、5月の流動性は以前より厳しくなると見ている」。

外貨流入減が流動性不足招く
中国を取り巻く外貨状況が大きく変わってきた。これが手に取るように分るのである。中国の統計は、現場のデータほど信憑性があるとされている。それを加工するGDP統計になると、政府の「メンツ」も加わって「粉飾」されてしまうのだ。その意味では、外貨をめぐる状況変化は中国の今後を占う重要な意味を持っている。

①では、「中国商務部は、今後5年間に対外貿易は世界経済の成長鈍化、貿易保護主義の台頭などの試練に直面することになると見ている」のだ。「今後5年間」は世界経済、とりわけ中国の主要輸出先のEU(欧州連合)が立ち直らない、と見ているところが重要である。「国内企業には、経営コストが全面的な上昇期に突入する」とも指摘している。これはコストアップで輸出が不振になることを示唆している。「外貨の買い入れに伴う自国通貨の放出は、中央銀行のベースマネー供給の主要ルートの一つである」は、外貨買い入れが減ると中国の通貨供給が減るという事情を示している。これらの点はきわめて重要であり、今後は中国の流動性不足になって跳ね返ってゆく。ぜひ、頭に入れて置いていただきたい。

②では、元相場上昇を狙った短期のさや取り目的の「ホットマネー」が減少に向かっていることを示している。「今年第1四半期のホットマネーは157億米ドルの純流入だが、2011年の毎四半期間は1000億米ドル近くの流入であった」。実に8割強もの減少になっている。これまで、泉のように湧いてきた「ホットマネー」が、信じがたいほどの減りようである。私はこれまで、状況が変われば中国の外貨準備は急変すると言い続けてきた。それが、現実のものとして現れてきたのだ。資本は本来「臆病」である。儲からないと見れば逃げ足が速いのである。それに比べ、日本の円相場は膨大な財政赤字を抱えていても、それが本質的な日本経済の脆弱性と結びついていないと解釈されている。世界経済の「リスクヘッジ」として、円が逃避場所にされて「円高」になるのだ。

③では、国内通貨増に直結する外貨買い入れ額が、2011年第4四半期から減少していることだ。「今年第1四半期の外貨買い入れ額は、たった2906億3700万元の拡大である。前年同期の1兆1240億元に比べて、74%も減少している」。これは重大である。今年1~3月期の外貨買い入れ額は前年比で74%も減少しているから、即、国内通貨もそれに見合って減ったことになるのだ。

④では、「2012年の外貨買い入れ額の増加幅は、1兆2000億元の水準まで縮減すると見込まれる。あるいは、これよりも更に低い可能性もある」というのだ。また、「中国社会科学院金融所金融重点実験室の劉イク輝主任は、今後5年間、中国は外貨買い入れ額が著しく減少する時期に突入する可能性が非常に高いと見ている」。①では、「中国商務部は、今後5年間に対外貿易は世界経済の成長鈍化する」としていた。中国社会科学院でも、今後5年間の外貨買い入れ額の減少予想である。このように政府部内で一致した見方に立っていることに注目すべきである。はっきり言えば、今後5年間は中国経済が「苦難期」に立ち向かわざるをえないことを示唆しているのだ。この点も、記憶に止めて欲しいのである。

2008年9月の「リーマン・ショック」対策では、「4兆元投資」を行なって世界中から拍手喝采を浴びた。その後の不動産バブルによって、この大盤振る舞いは「悲劇の原因」となった。今後「5年間の苦難期」を乗り切る有力手だてがないのだ。住宅投資への刺激は、再び不動産バブルに火をつけかねない。ようやく鎮火の兆しを見せているだけに、安易な手には頼れないのである。「まさか」と思われるかも知れないが、私のこれまでのブログで言い続けてきたように、もはや財政的にも「撃つ弾」がないのだ。通常ならば、減税によって個人消費を刺激すればよいが、異常な「所得格差」によってそれも効果を上げ得ない。「富豪階級」は減税を受けなくても購買能力は高い。だが、一般大衆向けにはつい4年前、大型の電気製品などの「消費刺激策」を行なったばかりで、もはや購入するものもなくなっている。サービス業が発展していれば、そちらへ消費を誘導できるものの、肝心のサービス業が未発達なのだ。GDP世界2位の中国経済の実相は、こういったアンバラスな上に築かれているのである。砂上の楼閣にも等しいのだ。

政府は、何もしないで手を拱いているわけにいかない。そこでまた登場してきたのが「公共投資」依存である。その規模は財源難から大がかりなものにはならず、中国鉄道部での新線建設に民間資金を導入するという「苦肉の策」を発表した。中国鉄道部がどの程度の負債を抱えているか。その結果、二進も三進も行かないかを示しておきたい。

鉄道部に民間資金を誘導する
『人民網』(5月24日付け)は、次のように伝えている。

⑤「中国鉄道部はこのほど、法に基づく民間資本の鉄道分野への進出を奨励すると表明し、各種の投資家に対する平等な待遇を強調し、民間資本に対して特別な条件を追加しないとした。鉄道建設はこれまで、『計画経済の砦』とされてきたが、なぜ今になり民間資本を受け入れることになったのか。専門家はこの原因について『資金不足』と指摘した。中国の鉄道改革が全体的に遅れる中、民間資本の開放による改革推進が期待される」。

⑥「同済大学交通運輸工程学院の張戎教授は上記の分析(注:⑤)を行い、『民間資本の受け入れは、現在の建設資金の逼迫によるものだ』と指摘した。中国工程院院士、中国国家鉄道建設高級顧問の王夢恕氏は、以下の客観的な事実により、張教授の分析を裏付けた。中国国家発展改革委員会は2012年、貨物輸送を中心とする9本の鉄道建設を許可したが、資金面の問題により、現在に至るまでその内の1本も着工されていない。現在の鉄道インフラ建設は、2011年末の2000億元超(約2兆5000億円)の融資により維持されているが、通年の投資需要との間に大きな隔たりがある」。

⑦「王氏は、『全国範囲で停止されている鉄道プロジェクトは、1万キロ以上に達する。停止されているプロジェクトのうち、約半数は設計時速200キロ以上の高速鉄道だ』と指摘した。中国鉄道部の計画によると、2012年の固定資産投資は5000億元(約6兆2500億円)を予定しているが、1~4月に着手された固定資産投資は、前年同期比48.3%減の895億9700万元(約1兆1200億円)にとどまった。第1四半期のデータによると、中国鉄道部の負債総額は2兆4000億元(約30兆円)、負債比率は60.6%に達した」。

「計画経済の砦」といわれてきた中国鉄道部が、ついに民間資金を導入せざるを得なくなった。交通部門は江沢民一派の既得権益とされてきた。これまで、鉄道部の組織解体について議論はされても、「アンタッチャブル」(不可触)な分野と見なされてきた。それが、民間資金を導入するというのだ。変われば変わるものだが、江沢民の「植物人間」説を裏付ける一つの証拠であろう。

⑤では、民間資金の導入を決めた理由として、「資金不足」を挙げている。これは、中国が深刻な財政資金不足に直面していることを示している。

⑥では、「中国国家発展改革委員会は2012年、貨物輸送を中心とする9本の鉄道の建設を許可したが、資金面の問題により、現在に至るまでその内の1本も着工されていない」。この事実は重大である。貨物輸送中心の鉄道建設は、中西部大開発に伴う「必須路線」であろう。それにもかかわらず、建設予定線9本がすべて未着工というのだ。

⑦では、「中国鉄道部の計画では、2012年の固定資産投資は5000億元(約6兆2500億円)を予定しているが、1~4月に着工された固定資産投資は、前年同期比48.3%減の895億9700万元(約1兆1200億円)にとどまった」。1~4月に着工した投資総額は前年比5割弱である。⑥では、新線建設9本がすべて未着工であるから、大幅な資金不足がネックになっているのが原因であろう。また、「第1四半期のデータによると、中国鉄道部の負債総額は2兆4000億元(約30兆円)、負債比率は60.6%に達した」。負債比率が60%強ではまだ、100%未満だし新規の財政資金投入が不可能という状態ではない。それができない理由は、政府の財政難に帰着するであろう。そこで、民間資金を導入する決断を下したと見られる。

問題は、民間資金の導入を決めたと言っても、果たして民間がこれに応じるのかという疑問も呈されている。『新京報』(5月19日付け)は、次のように伝えている。

⑧「今回、民間資本の参入が認可されたのは、路線及び関連施設の建設、客運・貨物輸送業務、鉄道技術開発、輸出、鉄道製品の認証・検査・安全評価、訓練など多分野にわたる。実施意見では民間資本も公的資本と平等の待遇を受けられると明記している。民間資本の導入は資金不足を補うことを目的としたもの。しかしながら公共性の高い鉄道事業は利益をあげることが難しく、解禁しても民間資本が果たして参入するのか疑問視する声もある」

⑨では、民間出資の分野が広範囲にわたっていることが分る。「路線及び関連施設の建設、客運・貨物輸送業務、鉄道技術開発、輸出、鉄道製品の認証・検査・安全評価、訓練」までというから、中国鉄道部を「第三セクター」的なものにする意向かも知れない。だが、「第三セクター」は日本でもことごとく経営失敗している難物だ。経営の意思決定権を最終的に「官」か「民」のどちらが握るのか。これが曖昧であるからだ。となれば、この民間資金導入案は失敗の憂き目に遭うに違いない。

多分、この案には他の国有企業民営化の意図も込められていると思われる。「官」が旨い汁を吸い続けたくて、形の上では民間資金を導入する形にしているだけだ。十分に練られた案ではなく、中国政府の深刻な資金不足に直面している実態が透けて見えるだけである。中国政府が政治改革を放棄しているので、国有企業の抜本的な民営化という決断はつかないであろう。となれば、今後5年間続くという「低成長経済」を乗り切る具体策は、なんら持ち合わせていないと見るほかないのだ。

中国経済回復の「切り札」であった不動産業については、今後どうなるのか。『人民網』(5月25日付け)は、次のように伝えている。

⑩「中国社会科学院は、最新の『中国不動産発展報告書』を発表した。同報告書は、『2012年の中国不動産市場は、抑制策による既存の成果を維持し、抑制策を改善しつつ継続する』とした。しかし、不動産抑制は今後より困難になる見通しだ。2012年は住宅分配制度改革以来、不動産業界にとって最も苦しい1年となる。業界の利益率がさらに低下し、中小企業の倒産・破産のリスクが増大する。不動産市場は今年、引き続き安定化に取り組む。不動産取引件数が低迷し、不動産価格が下落すると見られるが、大幅な下落の可能性は低い。同報告書はまた、1軒目の分譲住宅を購入する場合の頭金比率等に関する優遇政策を、長期化・安定化・制度化すべきと提案した」。

⑩では、2012年も苦境が続くという。ただし、「1軒目の分譲住宅を購入する場合の頭金比率等に関する優遇政策を、長期化・安定化・制度化すべき」だとしている。中国の住宅政策の失敗は、住宅の「基礎需要」である1軒目の購入策と、それ以外の利殖目的を峻別することなく、ただ景気刺激策になればよいという甘い考え方に立っていたことだ。これでは当然バブルを引き起こす。あらゆる面で、中国の経済政策は失敗した。私が繰り返し言ってきたように、これは中国衰頽の引き金になろう。あまりにも「中華思想」に酔い痴れて、「中華帝国」復活の軍事的幻想を抱いた結果である。共産党の特権意識だけを満足させただけである。国民を幸せにする地道な政策原点を完全に見失っていた。だから今、個人消費に依存した安定的な経済運営が不可能なのだ。外面だけを飾り立てることに腐心してきた。それが、軍拡路線であったのである。

(2012年6月4日)


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