中国、「軍拡」でも「軍事技術は未熟」原潜は渤海湾から出られない | 勝又壽良の経済時評

中国、「軍拡」でも「軍事技術は未熟」原潜は渤海湾から出られない

騒音で原潜機能果たせず
アジアで孤立する中国
豪州が中国系企業排除

いささか漫画チックである。中国は「軍拡一路」であるものの軍事技術が未熟である。自慢の原子力潜水艦も騒音が激しく、「敵側」からすぐに潜水地点を把握されてしまうというのだ。これでは潜水艦の機能を果たせない。役立たずの原子力潜水艦は、目下、渤海湾でじっと息を潜めているようである。

周辺国は中国の軍拡に一段と警戒感を強めている。中国通信機器メーカーでは、スパイ機能を組み込まれているのでないかと、豪州政府から入札さえ拒否される始末だ。中国の軍拡戦略は良いことが一つもなく、アジア各国から孤立しつつある。私がいつも強調するように、中国は周辺国と友好関係を維持しなければ立ちゆかない国である。日本を「軍国主義」呼ばわりしているゆとりはないのだ。自らが、その汚名を雪がざるを得ない立場に追い込まれている。それを理解しているだろうか。

騒音で原潜機能果たせず
中国の戦略ミサイル原子力潜水艦(SSBN)「094」型をめぐり「潜航時の騒音がひどく、作戦行動の範囲は内海の渤海湾内に制限されている」という分析が登場した。韓国紙『朝鮮日報』(3月31日付け)は、次のように伝えている。
①「カナダの軍事専門誌『カンワ・ディフェンス・リビュー』は、「094型SSBNの騒音は非常に大きく、内海を離れて外部に出ると、西側の対潜センサーによって容易に動きを把握されるという問題がある」と報じた。P3C対潜哨戒機など各種の探知機材に捕捉されない隠密機動能力が、潜水艦の命である。水中で行動しているだけに、敵のセンサーに捕捉された瞬間『袋のネズミ』になるというわけだ」。

②「094型SSBNとは、1990年代に開発され2006年に実戦配備された、中国の主力SSBN『晋』型のことを指す。排水量は8000トン(水中)、全長133メートル。射程8000~12000キロに達する潜水艦発射弾道ミサイル『巨浪2』を12基搭載でき、核攻撃を受けた際、米国本土にまで核による報復を加えることができるという」。

③「094型SSBNの騒音がひどい理由として、設計上の問題を挙げられた。滑らかで単純な外形をした米国やロシアのSSBNに比べ、094型はSLBM発射装置が出っ張っているなど、突出物が多いという。こうした設計上の(ミスが)問題をもたらした、と分析した。また、原潜のエンジンとなる原子炉の大きさや、海面に浮上した際レーダーに捕捉されないステルス機能なども、西側の原潜に比べ劣ると指摘されている。094型SSBNは現在5隻ほど実戦配備され、渤海湾に近い大連海軍基地などに停泊しているという。中国の軍事消息筋は、騒音問題を解決するため、次世代原潜『096』型の開発に入ったようだと語った」。

先進国に比べて基礎科学技術の足りない中国が、背伸びしての軍拡戦略である。エース級の原潜で騒音が酷く、簡単に「敵側」に潜水地点を補足されてしまうという大ミスを犯したのだ。設計段階でこうした事実が分らなかったというのは、いかにも中国らしい大雑把さがもたらした欠陥であろう。③で指摘されているように、「渤海湾に近い大連海軍基地などに停泊している」。潜行できない潜水艦に成り下がったわけだ。

こうした事実をすでにキャッチしていたのか、米オンライン『雑誌デンジャー・ルーム』(2011年12月27日付け)は、米海軍による中国海軍の潜水艦戦力評価について次のように報じていた。

④「米海軍の戦力評価によると、中国は約60隻の潜水艦を保有している。さらに注目すべきは2008年以後、(海洋での)巡回回数を年々増加させている点にある。海軍力の増強を意味すると同時に、西太平洋への影響力を高めていることがうかがえる。もっとも、中国の潜水艦戦力にも問題はある。それは潜水艦にとって最も重要な能力とも言える静音性が低いことだ。技術的にはロシアより10年、米国より20年遅れた水準にある」。

④では、「潜水艦にとって最も重要な能力とも言える静音性が(中国潜水艦は)低いことだ。技術的にはロシアより10年、米国より20年遅れた水準」とされている。こうした状態でも、中国は意気軒昂である。人民解放軍は米軍に対峙する軍備を備えるべく事実上、20年以上にわたって毎年「二ケタ増」の軍事費を費やしてきた。今後もこの軍拡路線に修正はないのだろうが、アーノルド・J・トインビー博士の指摘する、悲劇的な「ミリタリズムの自殺性」に向けて突進している。私にはそう見えるのだ。

アジアで孤立する中国
中国の最大の弱点は地政学的な問題と、中国の真に頼りになる同盟国が周辺に一国も存在しないことである。『サーチナー』(2011年6月1日付け)は、次のように伝えた。

⑤「ロシアの軍事評論サイトはこのほど、中国は世界第2の経済大国となり、軍事力も急速に拡大。2020年までに、アジア地域だけでなく全世界で任務を遂行する能力を身につける。しかし、中国には戦略上の弱点も多い。中国の状況は、生存空間を拡大する必要に迫られているという点で、往時のドイツによく似ている。中国は大量の外部資源を消費して工業製品を製造し、海外に売るという粗放的な発展モデルによる成長を維持するために、ますます多くの外部資源を必要としている。いったん成長が止まれば、崩壊が始まる。資源と食品供給の多くを外部に依存しており、原油の約55%を輸入に頼っており、資源問題がネックとなっている」。

⑥「中国は海上交通の要衝を掌握する能力は比較的低く、食品・原料を輸入する主要ルートであるマラッカ海峡の輸送を絶たれると、非常に深刻な問題に直面する。米海軍の艦隊は、中国の海上生命線を全面的にコントロールすることが可能だ。さらに、中国には本気で一緒に戦ってくれる盟友がいない。パキスタンや北朝鮮が中国と友好関係を結んでいるのは、単に自国に利益があるからに過ぎない。北朝鮮は世界にほとんど友人がいないから付き合うのだし、パキスタンはインドと対抗するため仲良くしているだけだ。中国にはイスラム世界にも西側にも本当の盟友がまったくいない」。

⑦「一方、日本、ベトナム、フィリピン、インドなどの隣国とは領土問題を抱えており、台湾統一問題という難題も抱えている。隣国はいずれも中国の急速な台頭を望まず、軍備拡張を懸念している。東、南、西の隣国はどれも人口が多く、軍隊は強力で、日本、韓国、インド軍の技術レベルは非常に高い。専門家はこのほか、チベットや新疆ウイグル自治区でくすぶる独立運動が中国当局の悩みの種だとし、とりわけ石油、天然ガス、石炭などの天然資源の埋蔵量が豊富な新疆ウイグル自治区については、いったん“中国のチェチェン”となれば、その結果は想像を超えるものになるとしている」。

ロシアは、隣国の中国に対して軍事的にも警戒姿勢を崩さない。そうしたスタンスが、中国に対して客観的な評価をさせているのだ。

⑤では、「中国には戦略上の弱点も多い。中国の状況は、生存空間を拡大する必要に迫られているという点で、往時のドイツによく似ている」と指摘している。戦略上の弱点とは、地政学的なそれを指している。周辺国は潜在的な「反中国」である。第1次と第2次の世界大戦を引き起こしたドイツと同様に、「生存空間」を広げるべく海軍力を増強させている。これは逆に、米国の疑心暗鬼を生んでおり、米国の覇権へ挑戦してきたと受け取られている。現に、人民解放軍は勝手に太平洋上で、「第1列島線」「第2列島線」といった線引きをして、米海軍を寄せつけない戦略を明確化させてしまった。これが失敗の原因である。自ら好んで「中国包囲網」をつくらせてしまったのだ。動くに動かせない原潜を渤海湾に係留させている段階で、「第1列島線」などの「オオボラ」を吹いてしまい、自らの行動半径を縮める結果になっている。

⑥では、「中国には本気で一緒に戦ってくれる盟友がいない。パキスタンや北朝鮮が中国と友好関係を結んでいるのは、単に自国に利益があるからに過ぎない」という厳しい現実が控えている。最悪事態の場合、中国はアジアで孤立した戦争をするということにならざるを得ないのだ。こうして孤立無援の中国がとるべき道は、ただ一つしかない。それは、「軍拡路線」の放棄である。アジア各国と「不可侵条約」を結ぶしかない。だが、GDP世界2位になった中国が、このまま進めば米国を抜いて世界1位になるかも知れないという「幻想」を抱いている。これが、「中華思想」に火をつけており、中国は世界一の国家という夢を持たせてしまったのでる。

人民解放軍が「不可侵条約」構想にすんなり乗ってくるとは考えがたい。明や清国の夢を追っており再び、世界の中心になるのだと夢が膨らむばかりである。こうした状態の解決には、中国自身がその限界を悟るしか方法がないのだ。「中国包囲網」は財政的に無駄であるが、やむを得ざるコストと考えるしかない。実際に戦火に見舞われて、膨大な人命や物質の損害を考えれば、それを防ぐコストと割り切らざるを得ないのである。

豪州が中国系企業排除
周辺国による中国への警戒心は、尋常ならざるものがある。例のサイバー・スパイで被害を被っているので、中国系の通信企業による周辺国への進出には、「待った」がかかっている。英紙『フィナンシャル、タイムズ』(3月29日付け)の社説で、次のように論じている。

⑧「世界2位の通信機器メーカー、中国・華為技術(ファーウェイ)は、オーストラリア全土に高速通信網を敷設する総工費420億豪ドルの事業への参加を拒否された。華為は中国政府や人民解放軍との関係が指摘されており、豪政府は警戒している。華為は米国でも通信大手との取引から事実上締め出されている。同社に豪州通信網への関与を許せば、中国政府にビジネスや軍事上の秘密を盗まれてしまうのではないか、と豪州も恐れている」。

⑨「欧米諸国のデータベースを標的としたサイバー攻撃が増えている時期に、華為を(実質)支配しているのは誰か、という問題を(中国は)曖昧にしてきた。創業者は人民解放軍出身で、会長は情報機関と関係がある。情報機関は中国の通信網上にあるメールや文書すべてを監視しているのだ。同社は関係を否定しているが、こうした報道に不安を感じる政府もある。華為を(通信)供給業者に認定した政府でさえ、自国の通信網に同社の存在感が高まることに今では神経をとがらせている。中国とロシアからのサイバー攻撃やスパイ行為は先進国にとってテロよりも重大な安全保障上の脅威となっている。中国はサイバー攻撃について答えるべきことは何もないとの立場を堅持し、結果として中国企業に疑いの目が向けられている」。

⑧では、「世界2位の通信機器メーカー、中国・華為技術(ファーウェイ)は、オーストラリア全土に高速通信網を敷設する総工費420億豪ドルの事業への参加を拒否された」。理由は、中国政府に情報を盗まれるという懸念からである。周辺国の中国への警戒感はここまで高まっている事実に中国は目を逸らしてはならない。率直に言えば、中国は「泥棒」扱いされているのだ。⑨では、すでに華為を(通信)供給業者に認定した政府でさえ、自国の通信網に同社の存在感が高まることに今では神経をとがらせている。いつ何時、中国から仕掛けられないのか、戦々恐々としているのである。ならば、入札の段階から中国通信機メーカーを排除しておいた方が賢明という判断になるのも無理はない。実は、一昨年、インドでも同じ嫌疑が中国通信企業にかけられていたのである。

『東亜通信』(2010年4月29日付け)は、次のように伝えた。

⑨「インド紙『ビジネスライン』によると、インド電気通信局が、中国製設備を購入していた国内通信各社に通知した。インド内務省などは、中国製設備にスパイ装置が含まれ、同国通信ネットワークに侵入する恐れを懸念している」。

この一件は、その後インド国内で現地生産することで落着した。中国国内で製造してインドへ持ち込むと、どこにスパイ装置が仕掛けられているか分らないからである。こうして、「インド国内に工場を建設し、その生産拠点についても完全な現地化を進める。経営陣にインド人を加え、研究開発部門についても現地化を進め、徹底してインドの基準を順守していく」(『日経ビジネス・オンライン』2010年5月26日付け)ことで折り合ったのである。なんと不名誉な解決策だろうか。中国への信頼はここまで落ちているのだ。

中国は、GDP世界2位で有頂天になっているが、周辺国はもとより世界中からその行動に警戒の目が向けられている。さらに「軍拡」で猛進しているが、行き着く先は「中国包囲網」の確固たる構築であろう。アジアで孤立する中国が、周辺国と折り合って行くには「軍拡停止」と「不可侵条約」の締結しか道はない。そこまで踏み込んできたら、中国の「平和発展論」への信頼性も高まるのであろうが。

(2012年4月20日)


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