中国、成長減速が鮮明「政府の景況指数」やっぱり「ねつ造」だ! | 勝又壽良の経済時評

中国、成長減速が鮮明「政府の景況指数」やっぱり「ねつ造」だ!

下手な嘘はすぐにばれる
輸入不振が何よりの証拠
上場企業は「臨戦態勢」
インド共産党からの批判

中国の1~3月期のGDP成長率は年率8.1%に止まった。5四半期連続の低下である。それにもかかわらず、中国政府の発表した製造業景況指数(PMI)では、ここ4ヶ月連続の上昇を続けていた。1~3月期のGDP成長率の低下と、余りにもかけ離れた数字である。中国政府の発表する統計数字には、いつもある種の意図が込められている。はっきり言えば、「ねつ造」数字が紛れ込んでいるのだ。

4月13日のブログで、私は次のように指摘しておいた。「客観的に見ると国家統計局のPMI(景況指数)には、何か胡散臭さが感じられるのである。国有企業中心の景況感が好転している理由には、具体的に何があるだろうか。現実には一つもあるわけでない。輸出が不調、公共投資も抑制、個人消費も横ばいというなかで、国有企業中心の景況感だけが明るいとは信じがたいのだ」。

この「景況指数」(PMI)とは、企業に対する景況感の聞き取り調査の結果である。政府の国家統計局とHSBC(香港上海銀行)の二つの機関が、別々に製造業PMIを発表している。これらは調査対象先に違いがあるものの、3月の結果は大きく食い違ったのである。私は東洋経済時代に景気担当記者であり、毎月発表される経済データを丹念にフォローした経験がある。日本の官庁が発表するデータに「ねつ造」はあり得ない。だが、中国となると話は別である。共産党政治には「デマゴーグ」(扇動政治家)が紛れ込んでくる危険性が大きく、経済データも簡単に手直しされると見ておかなければならない。経済記者が、中国政府の発表する数字を額面通り信じるようでは失格なのだ。

下手な嘘はすぐにばれる
『中国証券報』(4月5日付け)では、次のように報じていた。

①「国家統計局サービス業調査センター、中国物流購買連合会が発表したデータによると、3月の中国製造業の購買担当者指数(PMI)は2月から2.1ポイント上昇し、53.1%となり、4ヶ月連続の上昇となった。企業規模別に見ると、大企業のPMIは2月より3.4ポイント上昇の54.3%、中規模の企業は同0.9ポイント上昇の50.4%、小企業は同4.3ポイント上昇の50.9%となった」。

①を読むと、大企業、中規模企業、小規模企業といずれも好不況の分岐点50%ラインを上回り、景気拡大を示唆しているのだ。しかも、4ヶ月連続の上昇であって、中国経済は本格的な拡大局面に入っている。そう言う示唆が、このPMIからは得られるのである。一方、HSBCのPMIでは、まったく違う結果が出ているのだ。4月13日のブログで取り上げたように、3月のPMI改定値は48.3と、2月の49.6から低下し、4カ月ぶりの低水準となった。つまり、HSBCによると中国経済は50%ラインを下回り、「水面下」に没しているのである。

その後に発表された3月の輸出入実績では、輸入が予想外に落ち込みとなって、内需不振を裏付けたのである。こうなると、国家統計局発表のPMIが「ねつ造」であったことは明らかである。一説によると、季節調整値の計算間違いだそうだが、何とも権威のない統計である。これが国家統計局の仕事だろうか。こうして、すぐにばれるような嘘をなぜつくのかという疑問が湧くのである。その場限りの数字を出して平然としている。そのことに驚かざるをえないのだ。

輸入不振が何よりの証拠
『ブルーンバーグ』(4月11日付け)は、3月の通関実績を次のように発表した。

②「中国税関総局が発表した3月の貿易収支は53億5000万ドル(約4370億円)の黒字と、市場予想に反し黒字になった。輸入は前年同月比5.3%増加。ブルームバーグ・ニュースがまとめた市場予想の中央値は同9%増だった。輸出は同8.9%増で、市場予想(同7%増)を上回った。貿易収支の予想中央値は31億5000万ドル赤字だった」。

③「国際通貨基金(IMF)に勤務していたミレー・アセット・セキュリティーズ(香港)の中華圏担当チーフエコノミスト、ジョイ・ヤン氏は、『輸入の伸び鈍化は中国の内需の減退が続いていることの表れとみられる』と指摘。米ピーターソン国際経済研究所のニコラス・ラーディ上級研究員は、中国の成長が引き続きそれなりに強くなるとしながらも、中国の輸入の伸びが一次産品を中心に鈍化していることから、『過去4、5年の中国不動産ブームに乗った海外輸出企業は、厳しい時期を迎えるだろう』と予測している」。

②では、市場予想によると3月の貿易収支の予想中央値は31億5000万ドル赤字だった。それが逆に、53億5000万ドルもの黒字になったのは、輸入が予想を超えて落ち込んだからである。③では、予想外の貿易黒字になったのは、内需低迷が理由だとしている。中国の輸入の伸びが一次産品を中心に鈍化していることから、「過去4、5年の中国不動産ブームに乗った海外輸出企業は、厳しい時期を迎えるだろう」と予測されている。

中国の輸入の伸びは、一次産品を中心に鈍化している。一次産品とは、食糧・農鉱産原料・燃料など未加工での原料形態の生産品である。典型例は、鉄鋼産業が市況低迷で厳しい経営環境に置かれている反映が、一次産品需要を低下させているのだ。要するに、建設投資関連が軒並み停滞しているわけで、国家統計局のPMIが50%ラインを大きく上回る状況には全くないのだ。私が「ねつ造」であるという理由はここにある。貿易黒字が輸入減によってもたらされたことは、中国経済にとってけっして好ましいことではない。皮肉なことに、株価の上海総合指数は国家統計局PMIよりも、HSBC・PMIを素直に反映している。市場では国家統計局PMIよりもHSBC・PMIへの信頼度が高いことを示しているのだ。

上場企業は臨戦態勢
『中国証券報』(4月10日付け)は、第1四半期の企業業績を集計して、次のように伝えている。

④「4月7日現在、上海・深圳両株式市場の上場企業539社が、今年第1四半期の業績予想を発表した。うち業績が下降すると予想したのは225社で全体の41.7%を占め、上昇すると予想したのは314社で全体の58.3%を占めた。業績データの連続性から見て比較可能な447社の業績予想によると、第1四半期の純利益は前年同期比23.7%の減益となる。不動産業界は景気調整策の影響が顕著で、業績の下降傾向が明らかに表れている。現時点で、不動産開発企業9社が第1四半期の業績予想を発表しており、うち5社は前年同期に比べ大幅に下降している。中でも世聯地産は第1四半期の純損失を2000~2500万元と見込んでいる」。

⑤「創業板(新興企業向け市場)の全306企業の今年第1四半期の業績予想は全て出揃っており、業績が下降すると予想したのは89社で、全企業の3分の1を占め、14社が赤字になると予想している。創業板で赤字及び業績下降を予想した企業は、主に太陽光発電、電気設備、通信設備及びコンピューター応用、化学製薬などの業界に集中している。創業板において217社が業績の成長を予想しているが、うち56社は業績が50%以上成長すると見込んでいる。業績が成長しているのは主に医療機器、バイオ製品などの業界に集中している」。

⑥「既に業績予想を発表している中小板(中小企業向け市場)186社のうち、業績が伸張すると予想したのは74社で全体の39.8%を占め、112社が業績の下降を予想し、全体の60.2%を占めた。更に44社が赤字との予想を発表し、全体の23.7%を占める。中小板の赤字企業は主にコンピューター設備、不動産関連の川上産業・川下産業に集中している」。

ここに取り上げられている企業業績の実態は、きわめて興味深いものがある。1~3月期のGDP成長率が8.1%になったのも肯ける。この程度の成長率では、企業にとって死活問題になっていることがわかるからだ。経営マネジメント能力が不足していることもあるが、大幅賃上げに企業が対応できていないという断面を浮かび上がらせている。これまでのように、10%前後の成長率でなければ利益計上が不可能という「水ぶくれ経営」の問題点が明らかになった。中国企業が深刻な事態にあることを示している。

④では、業績が下降予想は225社で全体の41.7%、上昇予想は314社で全体の58.3%を占めている。だが、純利益ベースでは前年同月比23.7%の減益である。とりわけ、不動産開発業が不動産バブル抑制策の影響を被って不調である。

⑤では、「創業板」(新興企業向け市場)の全306企業の今年第1四半期に業績が下降すると予想したのは89社で、全企業の3分の1を占め、14社が赤字になると予想している。創業間もない「創業版」は内部蓄積も少なく金融引締めや輸出不振の影響を受けている。合計すると、減益・赤字企業数は33.7%にもなる。

⑥では、「中小板」(中小企業向け市場)186社のうち、業績が伸張すると予想したのは74社で全体の39.8%を占め、112社が業績の下降を予想し、全体の60.2%を占めた。実に6割強が業績の下降予想になっている。

経営環境がここまで悪化しているが、第2四半期以降はどのような状態にあるのか。消費者物価上昇率が3月に再び上昇に転じていること。住宅価格の引下げが政治課題になっている現状からすれば、思い切った金融緩和策も財政支出も打ち出せないジレンマに立っている。今秋の習近平政権になれば、積極策が出るだろうという予想もなくはないが、それは中国政治の置かれた現状を理解していない証拠である。中国政治の喫緊の課題は、成長よりも安定に置かれている。共産党政権が所得格差を作り出す政治を平気で行なってきた、その無神経さが国民の怒りを買っているのである。

インド共産党からの批判
「友党」のインド共産党マルクス主義派が、中国共産党を厳しく批判している。『環球時報』(4月10日付け)は、次のように報じた。

⑦「インド共産党マルクス主義派(CPI―M)は、中国共産党の経済成長モデルは格差を拡大し、社会主義の道に反するものと批判した。第20回インド共産党マルクス主義派代表大会の席上、『一部思想認識の問題に関して』との議案が提出され、中国社会主義モデルの欠点について指摘された。中国モデルは資本家の入党を認める一方で、労働者の給与は低く、経済格差を拡大していると指摘。社会主義の道に反するものと批判された。また、汚職や失業率の上昇についても言及された。従来は中国モデルを称賛していたが、批判へと路線変更したことになる。インド紙『インディアン・エクスプレス』は、2011年の地方選挙で惨敗を喫したインド共産党マルクス主義派が、資本主義の搾取構造批判とその変革としての社会主義というメッセージを打ち出すことで、党員の士気を高めようとしていると評している」。

⑦では、「中国モデルは資本家の入党を認める一方で、労働者の給与は低く、経済格差を拡大していると指摘。社会主義の道に反するものと批判された。また、汚職や失業率の上昇についても言及された。従来は中国モデルを称賛していたが、批判へと路線変更したことになる」。これまで、「中国モデル」として高く評価されてきたが、かくも無惨な所得格差を生みだして一転して批判対象になったのだ。私がこれまで厳しく批判してきたように、私営企業家(資本家)を臆面もなく共産党へ入党させた無原則さが、毛沢東の共産党革命の精神をぶちこわし、台無しにしてしまった。その意味で、江沢民の責任は永遠に問われなければならない。

中国共産党の腐敗原因は、すべて私営企業家(資本家)を入党させ、札束で物事を決める「縁故資本主義」(クローニー・キャピタリズム)へと堕落させたことにあると言ってよい。「縁故資本主義」とは、政治権力者が親族や知人に利権を配分することで推し進める経済活動である。中国共産党こそ、「縁故資本主義」を実践してきた張本人である。外交という国家の基本戦略を決める過程までにも、「縁故資本主義」が入り込んでいるのだ。その最適例が、「尖閣諸島」事件での国有企業と人民解放軍の「合同作戦」であった。もはや何をか言わんや、である。ここまで腐敗堕落しきっている。

中国の政治的危機は深く進行している。政治改革もせずに経済成長率が下がったからといって、従来通りの景気刺激策を採ることがどれだけの意味を持つのか。胡錦涛政権としては在任10年間、これといった政治改革もせずに江沢民の言うままに成長政策を推進してきた。緊褌一番(きんこんいちばん:心を大いに引き締めて奮い立ってあたること)、ここで共産党革命の原点に立ち、「科学的発展観」を実現させなくてどうするのか。その決意のほどが今、問われているのだ。

(2012年4月17日)


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