中国、「北のミサイル発射実験」日本の防衛態勢に筋違いの「警告」 | 勝又壽良の経済時評

中国、「北のミサイル発射実験」日本の防衛態勢に筋違いの「警告」

中国が恐れるミサイル迎撃
アジアMD網が敷かれると
得意なのは日本威嚇だけか

鳴り物入りの騒ぎであった。北朝鮮のミサイル発射実験は4月13日早朝、発射後1分で空中分解に終わった。この「事件」をめぐって、中国は筋違いな警告を日本にしていたのだ。北朝鮮のミサイル発射実験に備えた、自衛隊のイージス艦やPAC3配備による「打ち落とし」態勢が、いたく気に入らなかったのである。それ故に、はっきりと「威嚇」していたのだ。

本来ならば、中国は友好国の北朝鮮に向けて、発射実験を思い止まるよう、強力な説得を行なうべきである。日本に対して「威嚇」しながら、北朝鮮には「遠慮」した言い方に終始していた。北朝鮮を「恐れ」、日本を「恫喝」する。中国の外交感覚はいったいどうなっているのか。多分、人民解放軍が強力は北朝鮮説得に反対しており、それを取り繕うべく「遠慮」していたのだ。

問題の発端は、『朝鮮中央通信』(3月16日付け)が、故金日成主席の生誕100年にあたる4月15日、観測衛星「光明星3号」を打ち上げると報じたことから始まった。人工衛星という触れ込みだが、実際は「長距離ミサイル」の発射にほかならないと見られていた。すでに、米国、ロシア、日本、中国、韓国を初めとして、ASEANまでが実験に反発している。この中でなぜか、中国は及び腰での中止要請である。北朝鮮に対しては、中国が最も影響力を持つとされている。朝鮮戦争以来、「中朝」は血盟関係にあるからだ。

中国が恐れるミサイル迎撃
実は、中国が最も神経を払っているのは、日米が強力なミサイル迎撃態勢を敷いていることにあった。日米にとっては、またとないミサイル迎撃の共同訓練の機会になるからだ。『チャイナネット』(3月27日付け)は、次のように伝えていた。

①「1998年に北朝鮮が発射したミサイルが日本上空を通過し、日本を震撼(しんかん)させる事件があった。その後、日本は迎撃ミサイル技術強国ではないが、日米軍事同盟を頼りにイージス艦を土台とする迎撃ミサイル体制の構築に向け全力を注いだ。これまで日本は「こんごう」型イージス護衛艦4隻からスタンダードSM-3迎撃ミサイルを発射する迎撃実験を行い、いずれも成功している。また、日本が新たに建造した「あたご」型イージス護衛艦2隻も将来SM-3迎撃ミサイルを発射する能力を備える可能性がある」。

②「防衛省は迎撃ミサイルを発射できる護衛艦を5隻保有するのが目標で現在、日本は世界第2位、アジア随一の海上迎撃ミサイルの実力を備えている。陸上から発射する迎撃ミサイルと違い、迎撃ミサイルを搭載した護衛艦が海上を巡航することで、非常に高い機動力を備え、射程的に大型地上迎撃ミサイルの距離を補っている。日本が北朝鮮のロケットを撃墜すると宣言したことは非常に重視すべきことで、日米両国の迎撃ミサイル体制の初歩的形成を示している。これに韓国が入れば、米国が西太平洋で約10隻のイージス艦からなる海上迎撃体制を構築することが可能となる」。

③「艦船1隻の迎撃ミサイル半径が500キロと計算すると、10隻の艦船がカバーする範囲の広さは想像に難くない。これほど大規模な作戦体制が北朝鮮だけに念頭をおいているとすれば少々大げさだ。こうした状況下において、日米の太平洋における積極的な海上迎撃ミサイル構築の動きに、中国は警戒する必要がある。ある専門家は、可能であれば、中国は東北アジアおよび西太平洋の迎撃ミサイル問題に関する会談をいち早く米国と行って関連制度を確立し、大国の戦略的バランスが崩れる局面を回避するべきだと指摘した」。

①では、日本のミサイル迎撃態勢が、1998年に北朝鮮の発射したミサイル事件以来、急速に整備されていること。いずれも迎撃に成功している事実を紹介している。

②では、日本が迎撃ミサイルを発射できる護衛艦5隻保有を目標としていること。現在、日本は世界第2位、アジア随一の海上迎撃ミサイルの実力を備えているなどを紹介している。こうした迎撃ミサイルを搭載した護衛艦が海上を巡航するので、日本は非常に高い機動力を備え、射程的に大型地上迎撃ミサイルを補っている、というのだ。

③では、韓国を加えた日・米・韓三カ国は西太平洋で約10隻のイージス艦による海上迎撃体制を構築することが可能となる。艦船1隻の迎撃ミサイル半径が500キロと計算すると、10隻の艦船が太平洋でカバーするミサイル迎撃態勢は、5000キロにも達する。網の目のように張り巡らしたミサイル迎撃態勢は、中国にとってきわめて不利だというのである。これは、いささか妙な論理であって、中国は真に「平和発展論」に徹する積もりならば、あえて日米韓のミサイル迎撃態勢を不安視する必要はないはず。中国は先に戦争を仕掛けないと宣言しているからだ。中国が先制攻撃をしない限り、民主主義陣営が戦争をすることはあり得ない。平和主義は思想的に言って、民主主義陣営こそ本物である。それは、哲学者カントが『永遠平和のために』(1795年)において、力説しているからだ。

アジアMD網が敷かれると
韓国紙『朝鮮日報』(3月30日付け)は、次のように報じている。

④「中国国営紙『環球時報』は3月29日、米国のアジアMD(注:ミサイル防衛)構想を取り上げた長文の記事で『米国国防総省はこのシステムについて、北朝鮮を念頭に置いたものだというが、実質的には中国とロシアの核能力を弱めるための“新たなミサイル防衛のとりで”を構築する意図があることは明白。アジアの安定に対する大きな挑発で、強く反対しなければならない』と報じた。同紙は、『米国主導の欧州MDシステムにロシアが反対した過程を手本にして学習すべき』とも主張した」。

⑤「同紙は、別の社説で『決心と行動が重要だ。米国主導のアジアMDとの間で戦略的バランスを取るためには、中国の戦略核兵器の生存能力や防衛網突破能力を大幅に拡大しなければならない』と指摘した。米国がMD構想を共同推進する同盟国として挙げた韓国や日本、オーストラリアについては『もし、これらの国々がMDシステムに参加すれば、アジアで悪性の軍備競争が起こるだろう。中国の立場からは決して良いことではないが、恐れもしない』と言及した。週刊誌『世界報』も、3月28日付けで『米国と日本のミサイル防衛システムは、ほとんどが中国の戦略核ミサイル部隊である第2砲兵を狙っている。米国と日本は、MDを中国の目の前まで近づけようとしている』と報じた」。

④では、中国が米国のアジアMD(注:ミサイル防衛)構想を警戒していることを示している。米国主導の欧州MDシステムにロシアが反対した過程を手本にして、米国は学習すべきだと、すっかり弱気になっている。

⑤では、米国がアジアでMD構想を共同推進する同盟国として、韓国、日本、豪などを上げている。もし、「これらの国々がMDシステムに参加すれば、アジアで悪性の軍備競争が起こるだろう。中国の立場からは決して良いことではないが、恐れもしない」としているのだ。このアジア版のMD構想に日本、韓国、豪州が加わるとなれば、中国は「第二のソ連」になりかねない。中国1国で米、日、韓、豪というMD網に立ち向かうことは、経済的にも厳しい局面を迎える。まさに「軍拡」が、中国を自壊させる「ミリタリズムの自殺性」のワナに陥るのである。

アジア版のMD構想が仮に実現するとなれば、中国はどうやって立ち向かう積もりだろうか。「中国は恐れない」と強がりを言ってはいるが、③では次のように「本音」を漏らしているのだ。「可能であれば、中国は東北アジアおよび西太平洋の迎撃ミサイル問題に関する会談をいち早く米国と行って関連制度を確立し、大国の戦略的バランスが崩れる局面を回避するべきだ」と指摘しているのだ。ここまで来れば、中国も本気で「軍拡」に伴うプラス・マイナスを冷静に秤量することになろう。今は、向かうところ敵なしといった思い上がりに取り憑かれている。だが早晩、中国経済が「下り坂」に入っている実態を認識させられるはずだ。それが、中国を「第二のソ連」へ追い込むことに気づくはずである。

中国は、決して表面的に弱気を見せずに、強気を言い募るのがこれまでのパターンである。その裏では、アヒルの水かき同様に水面下で相手と交渉するのである。『チャイナネット』(3月31日付け)は、「中国 朝鮮半島の事変に驚かない」という妙な記事を掲載した。一読したのでは何を言っているのか分らなかったが、上記の①から⑤までの記事を頭に入れれば、彼らが日本を「威嚇」している理由が読み取れる。その記事を次に紹介する。

⑥「3月31日付けの『環球時報』社説によると、日本の田中防衛相は30日、(北)朝鮮の『運搬ロケット』を迎撃する命令を発令し、朝鮮の衛星をめぐる北東アジアの緊張がいっそう高まった。衛星が本当に迎撃・破壊されれば、北東アジアは今よりもさらに大騒ぎとなるだろう。中国は当然そうなることを望んでいない。まず朝鮮(自身)は衛星打ち上げによる弊害を真剣に評価したほうがいい。必ず打ち上げが必要な場合、周辺国は感情を抑え、衛星打ち上げを大陸間弾道ミサイルの発射だとし、朝鮮という一つの小国の特殊な姿勢を地域全体の中心的事件とするべきではない」。

⑦「この願いはおそらくムダになるだろう。中国は北東アジアの主宰者ではなく、すべての力は時流のままにある。ここで何か起きれば中国は逃げられないが、幸い矢面に立つこともなければ、先に倒れることもない。中国は朝鮮に対しても、日韓米に対しても説得できるなら説得するが、北東アジアの軍拡競争や、朝鮮とどこかの国との直接摩擦や衝突など深刻な事変への対応力は強化する必要がある。それでこそ中国の説得により効果があり、衝突による行き詰まりに中国が巻き込まれることもない」。

⑧「朝鮮半島問題は中国にとって非常に重要ではあるが、いくら重要でもそれは外交利益の一部に他ならない。中国は半島情勢の安定に最大限努める必要があるが、半島の混乱を恐れるわけではない。混乱すれば混乱したで中国が情況に対応するだけだ。現在、各国は情勢のエスカレートに中国が最も憂慮していると錯覚している。これはある意味、中国に対する善意的な解読ではあるが、そこは間違ってはならない。実際、中国より懸念している国がある。彼らは互いに強硬な姿勢を示しているが、実際に手を出すときは慎重だ。中国は他の多くの国より行動の余地がある」。

⑨「中国は北東アジアの安全に対し地域の大国としての責任を果たす必要があるが、この責任で身動きが取れなくなることはない。中国はより強大な海空軍力と迅速な対応力を身につけ、半島の事態が非理性的方向へ発展しないよう戦略的抑止力を強化する必要がある。中国の国力は日韓朝の合計をすぐに上回り、米国が北東アジアでスマートパワーを使う余地はだんだん小さくなる。北東アジアの外交は複雑に絡み合っているが、中国はそれに巻き込まれてはならない。最終的には実力勝負となる。臨機応変に対処できればいいが、他国の変化が早くて追いつかなければ、不変によって対応すればいい」。

得意なのは日本威嚇だけか
⑩「日本に忠告したい。日本も北東アジアの重要な国だ。日本が軍事力発展の理由にするなど半島の混乱は日本の短期的な需要に即しているが、北東アジアの混乱の中で利益が得られることはまずない。日本は半島の安全に尽力すべきだ。日本はずっと『大国』になりたがっているが、『大』か『小』かは日本によって決まる」。

一読して分ることは、中国が北朝鮮に対する「抑止力」を失っていることである。中国は「大国」であるから、北朝鮮のような「小国」がしでかすことには簡単に対応できる、という自信をひけらかしているのだ。返す刀で、日本に警告しているのが不思議である。日本はミサイルが予定通りフィリピン近海に落下するならば良いものの、間違って沖縄近海に落下して被害が出るのを未然に防ぐ。それに備えて、イージス艦やPAC3を配備しているに過ぎないのだ。

⑧では、「中国より懸念している国(注:日本と米国)がある。彼らは互いに強硬な姿勢を示しているが、実際に手を出すときは慎重だ。中国は他の多くの国より行動の余地がある」と啖呵を切っているから可笑しいのだ。日米がイージス艦を配備しているのは、北朝鮮へ攻め込む目的ではない。今後、予想されるミサイル発射に備えたデータ取得という狙いもあるのだ。中国は日米が北朝鮮に対して軍事行動をとれば、「参戦」すると言外に示唆している。明らかに、中国は問題の本質をすり替えている。北朝鮮がミサイル発射を中止すれば、なんら問題は起こらないのだ。中国がその影響力を行使せず、責任を日米に転嫁させるのは実に「巧妙」である。だが、それはすでに見透かされているのだ。

⑩では、「日本に忠告したい。日本は朝鮮半島の安全に尽力すべきだ。日本はずっと『大国』になりたがっているが、『大』か『小』かは日本によって決まる」と大段平を切っているから、さらに腹の底から可笑しいのだ。北朝鮮のミサイル発射がなぜ、日本の問題になるのか。飛躍も甚だしいのである。中国の本音をズバリ指摘すれば、内心ではミサイル発射問題で困り果てている。日米が、いち早くイージス艦を配備して万全の態勢をとっていることが羨ましいのである。「大国」になりたがっているのは中国ではないか。戦後、偶然に米国のルーズベルト大統領が中国に同情して、第二次世界大戦後の「世界の警察官」にしてくれたのだ。アジアで唯一の国連常任理事国として、国連決議事項を北朝鮮に履行させる責任と義務を負っている。それが「大国」としての中国がとるべき道であろう。日本を批判して、その責任を回避しようというのは、「大国」として最も忌避されるべき姿勢である。ならば、中国は国連常任理事国の椅子を降りる決意があるのか。

私のほうこそ中国に忠告しておきたい。中国外交の基本は可能な限り国益を追求し、できる限り「大国」としての義務や負担を回避したい。こういった理不尽さにあるが、それでは世界の理解は得られないのである。中国が切望するところの他国から尊敬される条件は、「大国」らしい行動が裏付けになったとき初めて可能になる。このことを、拳々服膺(けんけんふくよう)すべきであろう。ただ、人口と国土だけが他国から尊敬される条件ではない。要は、その言動が決めるのだ。

(2012年4月16日)


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