中国、軍拡で窮地へインドの「NATO加盟説」日韓が包囲網敷く | 勝又壽良の経済時評

中国、軍拡で窮地へインドの「NATO加盟説」日韓が包囲網敷く

昨年9月の「尖閣諸島」事件は、アジアで対中包囲網を形成させきっかけになった。私は1年前、この衝突に伴う中国の日本への「威嚇」「恫喝」が、中国外交にとって取り返しのつかない後遺症を残すとたびたび強調した。それが今や現実の物になっており、大きな圧力になって中国を包囲し始めている。中国は、なんと愚かなことをしたのだろうか。胡錦涛政権は、日本のみならずアジア諸国へ一様に、軍事的な警戒心をかき立ててしまった。

日本については、南西諸島の与那国島へ100名程度の小規模守備隊の設置計画を発表している。「100人程度」が意味のある数字である。つまり、中国に対して直接の軍事脅威を与えるものでなく、あくまでも尖閣諸島を防衛する意思表示をしたからである。軍事的な意味を理解する専門家からすれば、日本の不退転の「尖閣諸島」の防衛決意をくみ取るはず。中国の軽はずみな軍事的な挑発余地は、全く効果のないことを内外に明らかにした。この意味は大きいのである。中国は今さら引っ込みがつかなくなっている。「平和発展白書」なるものを最近出したが、「衣の下の鎧」であって、各国が真面目に取り上げる気配もない。実は尖閣諸島事件が起こってから、インドが中国への鋭い警戒心を見せていたのだ。

インド紙『ザ・タイムズ・オブ・インディア』(2010年12月23日付け)は、論説記事で「尖閣問題を見よ 中国の平和台頭は表面だけ」を発表していた。同紙は、「中国問題は世界の心配事でインドにとっては頭痛の種」などと主張した。

①「中国が唱える『平和台頭』は表面だけの現象であって、実際は異なる。中国の民族主義感情は極めて強い。日本と中国の領土問題(尖閣諸島問題)、インドと中国の領土問題をみても分かる。インドと中国の力関係については、中国の経済成長は2015年に減速する。インドは中国を追い抜ける。さらに民主こそがインドのブランドである。世界にインドが受け入れてもらえる。インドは対中関係で弱気になるべきでない。巨龍と自称する中国人に対して、インドは改めて“猛虎”になるべきだ」。

この①を見て分るように、インドは中国の実態を詳細に分析している。「中国の経済成長は2015年に減速する。インドは中国を追い抜ける。さらに民主こそがインドのブランドである」との指摘は、その通りである。私が平素用いる「生産年齢人口比率」では、中国が今年から下降に向かっている。インドの経済成長率が、恒常的に中国を上回るのは2013年以降になる見込みだ。ちなみに、インドの「生産年齢人口比率」は2035年まで上昇カーブを描き、「人口ボーナス期」のメリットを享受する。はるかににインドが有利な立場である。さらに、「民主主義」ブランドのインドは普遍的価値観をもつ国家であり、中国よりも外交的に有利な立場にある。中国はこれも理解していない。「井の中の蛙」そのものなのだ。

米紙『ニューヨーク・タイムズ』(9月1日付け)は、インドは中国との比較を好むが、中国は相手にしていないとし、両国間の相手を見る態度には大きな温度差があると指摘した。

②「インド人は自国の経済発展を中国と比較するのが好きである。インドメディアには中国との比較記事があふれる。一方、中国人はインドの動向にはほとんど興味を示さず、欧米諸国に関心が向いている。中国は米国に次ぐ世界第2の経済体であり、インドは世界9位。中国人が前を見て追いかけ、わざわざ後ろを振り向いてインドと比較しないのは自然なことだ。中国はインドにとって最大の貿易国だが、中国の貿易の大部分(注:2割弱)は米国と行われている。(略)多くのインド人が遠くない将来に経済分野でインドが中国を追い越すと信じている。中国人にとっては、インドは経済だけでなくその他の分野でも脅威ではないという。しかし、インドの政治学者は『中国の政治家、企業家、さらには学者もインドに対する真の理解が不足している』と語っている」。

この②でのインド人の指摘は正しいと見る。私も一貫してこれを主張しているが、中国は「唯我独尊」であって、インドよりも優れていると錯覚しているだけなのだ。拙著(篠原勲氏との共著)『インドの飛翔vs中国の落陽』(同友館 2010年)で明らかにしたように、「ゼロを発見した国」がインドであり、科学技術面での才能はとうてい中国が及ばないのだ。中国が「模倣」でしか生きられない宿命は、科学技術を生みだす精神基盤の「高尚な精神的自由」への飛躍が存在しないためである。すべての行動の背後にあるものは、「短期的利益」だけである。中国人は、それ以外に「自己実現」の手段を持たない点で、人間としての哀しみを感じる。だが彼らには、その自覚さへない点がなんともお気の毒である。こうした精神的構造からいえば、中国がインドを冷静に分析することはあり得ないのだ。当然に、インドの民主主義も理解の外であろう。中国は民主主義の価値を知ろうともせず、共産党独裁が絶対的な存在と信じている。こうした中世的な世界に真の発展があるとは思えない。

9月19日のブログで、閻学通・清華大学現代国際関係研究院院長のインタビュー(『日本経済新聞』9月4日付け)を取り上げて、私はそれへの批判を加えている。

③「中国が米国に並ぶ超大国になるには、周辺国との戦略的な同盟関係を強化しなければならない。中国に安全保障を提供してもらってもいいと考えている国は少なくない。パキスタンが典型例だが、最低でも10カ国はあげられる。北朝鮮もそうだし中国の西の国境に接するカザフスタン、キルギス、タジキスタン、東南アジアではミャンマー、ラオス、カンボジア、南アジアではネパール、バングラデシュ、スリランカが中国と安保関係に違和感を覚えていない」。

これに対する私の批判は、「この10ヶ国(正確には11ヶ国)のうちで、パキスタン、ミャンマー、バングラデシュ、スリランカはいずれもインド隣接国である」。「ここで中国は重大な判断ミスを犯している。インドが将来、中国を上回る経済力を擁する国家になる可能性を秘めている。こうした潜在的『強国』を、自ら中国の『仮想敵』に追いやる危険性を全く考えていないのだ」とその無思慮を嘆いているのだ。

インドは中国の軍拡路線を冷静に分析している。インド紙『フィナンシャル・エクスプレス』(9月5日付)の記事がそれだ。

④「インドの軍備は徐々に中国に引き離されており、両国の国防力における格差の拡大にインド軍上層部が懸念を示している。インド陸軍のある退役中将によれば、インドの国防予算は320億ドル。しかし、中国の国防予算は915億ドルにも上り、これでどうやって中国に対抗していけばいいというのかと国防力の格差拡大に懸念を表し、急激な軍拡を続ける中国に対して危機感を抱いている」。

④では、もともとインドはガンジーの「無抵抗主義」が象徴するように、「軍拡」路線には精神的に不向きな面があるのかもしれない。インドが民主主義政体であるから、軍備よりも内政充実を掲げざるを得ない。その点では、中国とは全くの対極にある。中国は独裁だから内政よりも軍拡に簡単に舵を切って、皮肉にも周辺国から警戒される立場に身を置いている。

こうしたインドの防衛力が中国に比べて弱体という認識から、次のような「NATO」へと組み込む案が報道されている。露ラジオ局『ロシアの声』(9月12日付け)が報じたものだ。

⑤「ロシアの軍事専門家は、インドがNATO(北大西洋条約機構 28ヶ国加盟)ミサイル防衛システムの配備を認める可能性が高いと見ていると報じた。欧米の協力を得て、中国やパキスタンの軍事的脅威に対抗しようとしているのだ。インドはアフガニスタン情勢の安定化や反テロ、麻薬撲滅などで欧米各国と協力してきたことから、インドがNATOミサイル防衛システムを配備する可能性についても自然な流れだとしている。NATO常駐アメリカ政府代表のアイヴォ・ダールダー氏は、インドはNATOに加盟すべきだとの考えを明らかにしている、ただ、ロシアのある専門家は、インドは防衛ミサイルの独自開発を進めているが、欧米との協力関係を結べば米国の軍需産業に市場を開くことになると指摘。中国やパキスタン、イラク、ロシアなど周辺各国はこれに配慮せざるを得なくなるだろうとも指摘している」。

この報道のように、インドがNATO軍の一環に組み込まれる事態は、中国にとって容易ならざる状況に立ち至る。「アジアの盟主」気取りであった中国は、インドがNATOの一員として帰属するようになると、もはや強力な米欧同盟軍と対峙せざるをえないのだ。③で取り上げたインド隣接国の「パキスタン、ミャンマー、バングラデシュ、スリランカ」等に、中国が手を伸しても、その結果はNATOという巨大な軍事勢力を相手にせざるを得なくなるからだ。これに対抗して、中国が主体で防衛費を分担する「同盟軍」ではもはや勝負にならないのである。中国がここまで計算し覚悟しているとも思えない。清国時代の軍備を持って周辺国を従えたい。こういう児戯にも見える軍事戦略は、中国破滅の原因に十分なりうるのである。中国は軍拡という「火遊び」を止めて、冷静になるべき時期なのだ。

韓国も対中軍事戦略では、手を拱いていない。韓国の「ハワイ」とされる済州島に海軍基地を建設中である。中国紙『北京日報』(9月14日付)が、次のように報じている。

⑥「韓国・済州島に建設が予定されている海軍基地は中国・上海から直線距離にしてわずか499km。2014年の完成後は大型艦20隻が係留できる規模となる。有名なリゾート地である済州島になぜ海軍基地を建設するのか?それは、米国が中国を牽制するための拠点をアジアに持ちたかったからだ。日本の外交専門誌も『済州島は今後、アジア太平洋地域の紛争を解決する先導者になる』との見方を示しているほか、済州島の地元紙も『韓国のハワイ』と呼ばれる同島は、間もなく本物のハワイと同じように米国の海軍基地になると論じている。 済州島は2005年、『世界平和の島』と命名された。それが、軍事基地の建設地になるとは(予想外である)。軍事アナリストの間では、基地は名目上国家安全に必要とされているが、本当のところは米国、日本、オーストラリア、韓国、インドによる対中包囲網を形成し、米国を中心とした軍事同盟を強化して中国に対抗したい考えだと見られている」。

⑥では、中国が済州島の海軍基地建設を非常に警戒している様子が手に取るようにわかるのだ。「中国・上海から直線距離にしてわずか499km」という立地に、大型艦20隻が係留できる規模の基地が建設されることはなんとも不気味であろう。こうした「種を蒔いた」のは、他ならない中国であることを忘れてはならない。昨年9月の「尖閣諸島」事件こそが、中国の「平和的台頭論」の欺瞞性を白日の下に晒したのである。「衣の下の鎧」が世界中に明らかにされた。戦後、「平和国家」として歩んできた日本を、こともあろうに手玉にとってたぶらかす中国の姿は、民主主義国家にとっては「共通の敵」と認識されたのだ。私が昨年9月に論じた中国外交戦略の大失敗が、こうしてアジア各国で一致結束した対中軍事戦略の構築に拍車をかけたのである。

中国外交は可笑しいほど無定見である。最近、SMAPの北京公演が中国政府の肝いりで成功裏に終わった。これで日本人の対中感情が少しでも緩むことを期待しているとされる。だが、こんな小細工をする前に、なぜ、尖閣諸島事件でもっと冷静な振る舞いができなかったのか。日本人の心を全く理解していなかった証拠である。中国は、時間を置いて派手な歓迎でもすれば、日本人の心が簡単に緩むと見ていたのだ。日本人の高尚な「スピリット」を理解しない、成り上がり者根性特有の「札びら」外交の失敗なのだ。

(2011年9月29日)


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