中国、世界一の「公務員天国」年金は農民の90倍という「格差」 | 勝又壽良の経済時評

中国、世界一の「公務員天国」年金は農民の90倍という「格差」

中国のGDPが今年、世界2位になることは確実になった。日本のGDPが4~6月期と7~9月期と2期連続、中国を下回った結果である。中国が世界2位の座につくが、中国社会の心理面にどのような影響を与えるか。中国社会は、もともと上下関係がはっきりしている社会だ。GDP2位が中国人に対して、日本の「上」に立ったという意識をもたらしている。今回の「尖閣事件」で、日本を属国扱いした背景には、この意識が強く働いていたのだ。

単純と言えば単純だが、それが中国4000年のもたらしたものである。人間を平等な概念で理解せず、「上下」関係でしか捉えられないのは、不幸な話である。「長幼の序」や「金持ち」か「貧乏」で人間の価値を決めている。これは、近代社会で通る話でない。専制国家時代ではないのか、と錯覚するほどである。中国では今でも、都会の人々は極端に地方出身者を差別する傾向が強い。かつて、日本から北京大学に留学した学生の話を聞いたことがある。北京大の友人と歩いていると、地方出身者らしき人間を口汚く罵って驚いたというのである。同胞という意識が存在しないのだ。人間として恥ずかしい行為と思わないのである。「上下」意識の存在を窺わせるものである。

私はこれまで、GDPだけが福祉を説明する尺度でないと説明してきた。GDPは量の概念であり、生活の質である福祉を何ら意味しないからである。福祉とは、端的に言えば「自由な生き方」が可能かどうかに懸かっている。それを支える概念が、後述の「人間開発指数」に集約化されている。人々の「幸福感」を高める条件は、経済力(GDP)と社会福祉がほどよいバランスがとれていることである。中国の場合はどうか。GDPが2位で社会福祉は79位。どう見てもアンバランスである。中国の人々の「幸福感」はいかばかりか。問うまでもないだろう。『論語』で言うところの「乏しきを憂えず、等しからざるを憂う」(貧しいことを憂えず、平等でないことを憂う)精神は、すっかり忘れ去られている。

「社会福祉」とは、国連開発計画(UNDP)が毎年発表している「人間開発指数(HDI)」(寿命・教育・基本生活レベルなどの指標から算出)を指している。2010年版が11月4日に発表された。それによると中国は、135ヶ国中で79位なのだ。GDP世界2位の国が「人間開発指数」で79位である。この落差を、中国政府は国民にどのような説明するのか。ちなみに、日本は11位である。11月4日の本ブログで、2009年版の「HDI」を紹介している。これによると、日本10位、中国92位である。ランキングに変化が起こっているのは、指標の取り方が変更になっている結果だ。

中国流の「上下」意識から言えば、日本が11位で中国79位であるので、中国の「面子」が立たないはずである。事実、『人民網』では、「人間開発報告書:中国は発展スピード世界2位」(11月5日付け)と、日本の「大本営発表」(戦時中、日本軍部は負け戦にもかかわらず国内向けには勝利の嘘情報を流した)と同じ報道である。中国の79位も日本の11位であることも伏せられている。だが、過去40年間の「人間開発指数」推移で、そのランキング上昇度において、中国が2位であることは事実である。これに嘘はない。

「2位と79位」の落差は、これからどう埋められて行くだろうか。国連開発計画では、中国に対して次のようなコメントを残している。「中国の過去の経済成長率は驚異的な伸びを示したが、これが人間開発面には反映されなかった。社会福祉を犠牲にして、ひたすら経済成長を求めたことに起因している」。さらに、こう追い打ちをかけている。「社会福祉の進歩が遅かったのは、基礎的サービスに必要な資金を国家が十分に提供せず、家計への負担を増やすことなく、資金調達を地方政府に任せたことに関係している。公的社会福祉サービスは悪化し、一部の地域では崩壊する事態となった」(『Bloomberg』11月6日付)。

国連開発計画の指摘は、鋭く中国の弱点を突いている。軍備増強に狂奔して、内政面をほとんど顧みなかった咎めを、こうして指摘された。私がこれまで一貫して強調してきた点と、寸分も違わないのである。年金制度に視点を限っても、今後の高齢社会で、中国はどう対応するのか。その展望は全く見えないのだ。米国の年金コンサルティング大手マーサーは、中国の年金制度がすべての就業者に浸透していないと指摘。その結果、主要国では最下位の評価になった(『チャイナ・レコード』10月28日付)。

中国の高齢者と年金制度を見ておきたい、以下のデータは、『中国新聞社』(10月1日付け)の記事による。現在、中国の高齢者(60歳以上)人口は全人口の12.5%の1億6700万人。この高齢者だけで、日本の総人口を上回っている。2020年には2億4300万人になる。2050年には、全人口の31%(約4億3900万人)にもなるのだ。日本から見ると想像を絶する数である。問題は、「どこから年金を調達するか」である。2015年から「労働力人口」が減る。つまり「現役労働者数」が減るから年金負担者の減少となる。待ったなしにもかかわらず、「どこから年金を捻出するか」といった悠長なことを言っている。一体この国の国家経営はどうなっているのか。軍備増強だけに関心が向いて、他はあってなしがごとき状態である。

毎月の年金受給額は、農村住民が55元(約690円)、都市住民は1200元(約1万5000円)、事業単位が約4000元(約5万円)、公務員は約5000元(約6万2500円)である。事業単位や公務員は一切の年金負担が免除されており、大きな格差が存在している。中国は世界一の「公務員天国」である。しかも、多くは共産党員であろう。入党すれば一生涯、生活を保障されたに等しいのだ。現在の共産党員数は7799万人。総人口の5.9%にすぎない。彼らは、一般国民からすれば「天国の住人」である。庶民の苦しみなど理解できるはずがない。これでは既得権益にしがみつくはずだ。年金格差がそれを雄弁に証明している。繰り返すと、農民が1ヶ月55元。公務員が同5000元。ざっと90倍の格差だ。

「上下」意識が強烈な中国である。庶民は「軽蔑」の対象であっても、「同情」の対象ではない。最初から、「連帯意識」は生まれる基盤がないのだ。こうしたところに、共産党政権が成立したのである。共産党政権は「農民や庶民」の解放を目的に成立したはず。現実は理念倒れであり、「民族主義」=「軍事大国」のみが目標となった。孫文の思い描いた「三民主義」による最終理想の「大同社会」は、共産党政権下では実現困難と見られる。これでは、中国共産党の「一枚看板」がどこへ行くのだろうか。

(2010年11月29日)

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