サラリーマンの生涯獲得賃金の嘘 ~ユースレスな統計~ | 「かつのブログ」

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ごく適当なことを、いい加減に書こうかとw

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生涯賃金というのは、時々話題になりますので皆さんも目にしたことがあると思います。
そういうのを見て「ああ、自分は一流大卒で超一流企業で極めて優秀なんだから、一生に稼ぐ金は 4億円ぐらいだな」なんて本気で考える おめでたい人の中に、本当に優秀は人はいませんw

このデータは通常、労働政策研究・研修機構という独法の出す、「ユースフル労働統計」 という統計データを用いているようですが、この推計の元になっている平均年収は、厚生労働省が発表したデータ 「賃金構造基本統計調査」 に基づいています。国税庁も平均年収を出していますが、国税庁がパート等を含むのに対して、厚生労働省のそれは含みません。

その計算方法ですが、下記に書かれていました (1)
http://www.jil.go.jp/column/bn/colum0117.htm
 
現在40歳の労働者が10年前にもらった賃金額として、実際の10年前の賃金データを使用するのではなく、現時点の30歳の賃金額を用いるという考え方をとっている。その意味で、試算した生涯賃金は、労働者が長年にわたって現実に受け取る賃金を積み上げたものではない。

でも、それすらも実はとてもおかしいのです。 例えば、
http://nensyu-labo.com/heikin_syougai.htm
を見ると、一番下のところに、1000人以上の大卒男子は4億0,550億円となっていますが、ちょっと考えれば分かるように、これは1000万円を30年貰っても追いつかない額です。定年後の収入を含むとなっていますが、定年後に多額の収入がある人は役員などに限られます。

元データの『ユースフル労働統計-労働統計加工指標集-2008』を当たってみると、これですが
http://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/kako/2008/documents/useful2008.pdf
3億5千万円ぐらいになっており、これが定年前の収入、ということでしょう。
しかし 3億 5千万でも十分にあり得ない数字 (大学院でも出ていたら、修了して入社後すぐに年収一千万円になり、定年まで 36 年間ずっと一千万貰ってもぎりぎり) なので、やはり元資料がユースレスだということですね。年収で一千万円貰っている人は、全体からみると 5% 程度しかいないのです。更に、一千万以上の平均年齢は 50歳ぐらいになっていますので、30代など(ごく一部を除けば)あり得ません。何故こうなるんでしょうね?

企業別のそれは後述しますが、平均的に見て現在の大卒初任給が 20 万円ぐらいですから、毎月 20時間残業しても 300 万にも届きません。どう計算してもあり得ない数字になっています。5年後に3倍の給与が貰えるわけもないです。
(尚、同条件で人事院の資料も見つかったのですが、もしかして公務員の給与ってこんな数字を元にしていたりして?)

つまり、最初から生涯獲得賃金の期待値としてあり得ないのですが、更に問題があります。
統計の専門家である筈の人たちが、給与という極めて大きな変動のあるものに対して「平均」を用いているということ自体からして、何やら恣意的な臭いを感じるのです。
例えば成人の身長は、高くても 2m どまり、低くても 1.4m ですから、これを平均するのは意味があります。でも給与は、下は最低保障額があるにせよ、上は最低保障額の十万倍にもなり得ますよね。

つまり標本値(もちろん母集団全てを調べてはいない)が百万人から得られて、大部分が最低保証値であっても、そういう人が一人いれば平均値は一割り増しになるのです。だから普通に考えて「統計学的に意味のある」データにするなら、メジアン(中央値)をとるべきである、と考えます。

私が調べた範囲では、サラリーマン男性の年収の中央値(メジアン)を示す、そのものズバリのデータは見つかりませんでした。
しかしながら、国税庁の発表している 民間給与実態統計調査(2010年) からの推定では、サラリーマン男性の年収はメジアンを取る事で、平均よりも一割程度低くなると考えています。
つまり、これが意味するところは、非正規社員の含むことによる平均値の低下よりも特に高収入のいわゆる統計で言う「外れ値」を含むことによる誤差の方が大きい、ということになります。つまりはサラリーマンの中央値を遥かに上回る一部の人達がいる、ということでして、それを平均に含ませるより、中央値を取るほうが信頼性が高いのは言うまでもありません。

下図は上記国税庁のデータをグラフにしたものですが、これを見ると、明らかに1500万円以下と2500万円以上で大きく正規分布から外れています。
かつのブログ-国税庁:年収/人数

給与として 1500万円以上を得ている人は 3.8%ぐらいのはずなんですが、その人達の取り分が給与全体に占める割合は 13.6%、2500万円以上の人達が 0.22%で、全体の 2.2% の給与を得ています。



会社別の数字は、民間企業が出しています。
http://yoikaisha.com/kodawari/entry-79.html
30歳の年収がもっとも高いのはキーエンスで 1133万円。これなら 3億5千万ぐらい軽く超えそうですが、「30台で家が建つ、40台で墓が立つ」と言われるぐらい厳しい会社でもあり、果たしてどれぐらいの人がずっと居られるのか疑問ではあります。

ここの示す数字を信じると、40歳で一千万に届くのは 23社しかありません。車メーカで一番良いトヨタですら、30歳で 585万円。 50歳で 979万円です。
ソニーは工場を分社化しているので、本社は大概大卒ですが、それでも 30歳で 680万円、50歳で 1137万円。このソニーの数字を当て嵌めて試算してみても、3億 5千万円には届きません。千人規模と言うと準大手ですが、それも含めた平均がソニーより高いなんて事がありうるのでしょうか?

前述した国税庁と厚生労働省、それぞれの統計での、男性の平均年収をグラフで示します。但し厚生労働省のそれは千人以上の会社規模のみの統計です。
かつのブログ-年齢別平均年収

実際に、厚生労働省のこのデータを元に、(データが無いので大卒という限定だけを外して)(1) の方法で計算してみると、1000人以上の企業の男性で、2009年のデータで 2億 6千万円。これに実質経済の伸びとかを加味すると、現在 40歳の人なら 2億 3千万くらいになりました。いきなり 1億 2千万円減りました(爆)。
メジアンで計算すれば更に一割減ると想定されます。多分、2億円ぐらい。

これぐらいが現実的な数字だと思われます。実際、元の厚生省データの(未だ転職した人は少ないだろうと予想できる)若年層の数字をみると、25~29歳で平均年齢 27.6歳、平均勤続年数 4.3年となっていますので、工場分社化が普通になっている昨今では大卒の占める割合が高いであろう事が予想できます。この時の年収は 444万円と計算できて、大卒27歳男子で一定以上に大きな会社ならそんなもの、という感じですね。但し、これも一部の恵まれた人の話です。

なぜなら、今は定年まで同じ会社で働ける人は一握りだからです。
この先の話は、また別の話になるので、近いうちに別に Up します。

ユースレスなデータを作るために、厚生労働省の天下り先の独法に我らの税金が使われているという事実。そうした金が日本を借金国家に貶めているという現実の一例としてあげました。

続きはこちら:終身雇用制の崩壊と転職