[目の痒い鼻炎に半夏写心湯]
こういう患者さんが来られました。
小学校のころから、鼻炎とのお付き合いが始まって、春のスギ花粉から始まって、ヒノキ、イネ、ミカン、ブタクサなどの花粉につぎつぎ反応して、真冬以外は鼻炎が収まりません。
最近、海外旅行に行ってみると、向こうにはもっとすごい反応を引き起こす花粉か何かがあって、くしゃみと鼻水がひどくて、ティッシュ箱を抱えていなければなりません。
もっと辛かったのが、目が痒くてまぶたが赤く腫れて、それが夜中にいちばん悪くなって、目が痛くて眠れません。朝は目ヤニで目が開きません。
鼻炎には、多少とも目の痒みはあるものです。花粉症なんだから、花粉のよく飛ぶ日中とか、外出したときに悪くなるはずなのに、夜中にいちばん悪くなるというのは、初めての経験でした。
夜中にいちばん悪化するというのは、どういうわけなんでしょうか。こういうことを漢方では、「陰陽」という理屈で考えます。
一日のうち、昼間が陽なら夜は陰。夜中は陰が極まったときです。人体を「陽気」という熱性のエネルギーが循環して生理活動を行っていると考えます。昼間は体表面をめぐって外の風や寒さから身を守っています。夜間は体内に入って、内臓を働かせます。
もし夜中に内部に陽気が入ってきたとき、内部にすでに熱がこもっていたら、熱に熱が加わって、症状は必ず悪化します。
内部でも、いちばん深い内臓に熱が詰まったときの特徴を、昔の本には「煩躁」(苦しくって手足をばたばたする)と書いてます。単に痛いとか痒いではなくて、どうにも堪らないほど辛い、という状態です。
夜中に眠れないほど目が痛む人は、心臓の熱と考えて、黄連を主とした処方を考えました。いちばん古い本草書に、黄連の効能として腹痛、下痢などの胃腸症状より先に、目痛、涙出、明目など眼科の症状が出てきます。
この方は、食欲にムラがある、食べ過ぎて下痢をするなど、胃腸の弱い体質だったので、黄連を含む処方の中から、半夏写心湯を選んで、黄連の量を少し増やしました。
上の写真の左が黄芩(オウゴン)、右が黄連。半夏写心湯は両方を含んでいます。どちらも黄色い生薬ですが、見ての通り、黄連のほうが黄色味がずっと強く、作用がきつそうな気がしませんか。それに黄芩はほんとうは、もう少し白っぽいものなんですが、うちで少し焙烙で炒ったので色が濃くなっています。
お値段も黄連は黄芩の2倍します。黄連は心臓の熱を取り、黄芩は肺と大腸の熱を取るといわれます。
どちらも苦い味ですが、黄連の苦味は身が縮むほど強烈です。しかし、苦いけれどもさっぱりして、吐き気のするようなしつこい苦さではありません。
昔の本には半夏写心湯の煎じ方は、ある程度煎じて、汁を取ったら、更に汁だけを煮詰めて量を減らすように書いています。二度煎じをすれば、さすがの苦味も少し角が取れて飲みやすくなります。
この方はそうやって飲んでも、泣くほど苦かったけど、3日ほどで目の痛みも、鼻水、鼻詰りもうんと楽になりました。十年も付き合った病気なので、ほんとうに治るまでは、何ヶ月かかかりますが、いましっかり治しておけば、元に戻ることはありません。
半夏写心湯は、本来は嘔吐や下痢、胸焼け、胃の痞えなど、胃腸症状に使う処方です。胃が冷えて弱り、熱が上の心臓などにこもった状態に適用します。上の熱が鼻や目の炎症として現れた場合に、鼻炎や結膜炎に応用できます。
鼻炎の人も、胃が痞える、食欲にムラがある、下痢しやすい、口内炎が出る、という場合には、有効な処方です。