「憐れな、憐れな、パーヴェル」(2003) | ろしあん・あにめ

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бедный бедный Павел(2003)
http://video.yandex.ru/users/dr-lecktor/view/1447/


監督:ヴィタリー・メルニコフ
出演:
パーヴェル1世 ヴィクトル・スコルコフ
パーレン伯爵 オレグ・ヤンコフスキー
アレクサンドル1世 アレクセイ・バラバシュ



女帝エカテリーナ、対ナポレオン戦争を率いたアレクサンドル1世、その世界史的に有名な二人の偉大な君主に挟まれ、短い治世に終わったロシア皇帝パーヴェル1世。
そのパーヴェル1世の、即位から暗殺による死までを描いた映画です。
普通ドラマになりそうなのは、ピョートル大帝だったりエカテリーナだったり英雄的な人物の方が多いような気がしますが、、、
でも、、、英雄的な人物より、そうではない、英雄になれなかった人物の方が、「人間ドラマ」的には面白かったりしますよね、、、?



あらすじ:
女帝エカテリーナの後を継いだ息子パーヴェル1世、不仲だった母の後をついだパーヴェルはことごとく母の時代に反する方向を選び、偉大な母に対抗し、自らを権威づけようと、権力を振りかざす姿勢が宮廷内外で怨磋の的となっていく。
次第に孤立するパーヴェルに近づいてきたのが経験豊富なパーレン男爵。
知的で冷静沈着なパーレンをすっかり気にいったパーヴェルは彼を伯爵に取り立て、腹心として側に置くようになる。
しかし、そのパーレンこそが、実はパーヴェルを廃し、アレクサンドル擁立を目指すクーデター計画の首謀者だったのだ、、、



前から見たいとは思っていたのですが、映画「戦争と平和」の史実的予習にと思ってトロワイヤの「アレクサンドル1世」を読んだら、なんだかこのパーヴェル1世にも興味がわいてきて、勢い、見てしまいました。


それにしてもこういう「お貴族」なお衣装がお似合いになります、ヤンコフスキー。もう表情にも物腰にも、もともと内からにじみ出るような「高貴」さがある方ですからねぇ、かっこよすぎるっ!!
演技ももちろん素晴らしかったぁ。
内心の策謀を隠しながら、常に冷静沈着なパーリン伯爵を、冷たく燃える焔のような、抑えた知的なアプローチで演じています。
パーレンを信じていたパーヴェルですが、ある日、ついに謀反の疑いを抱くようになり、パーレンを呼びつけます。しかし、いつもと変わらぬ冷静さで皇帝の疑いをまんまと解いたパーリン。
部屋を辞そうとしたパーリンに、「私を愛しているか?」とすがるように聞くパーヴェル。
「愛しています」と顔色一つ変えずに答え、部屋を辞したパーレンが一瞬だけ、嫌悪というよりは、それを超えて微かな憐れみの表情を見せるところがあって、その表情がとても印象に残りました。
うーん、この抑えに抑えた演技が、真の名優の味わいですねぇ。
ヤンコフスキーは若い頃も素敵だったけど、少し年配になってからのその存在感が素晴らしかったですよねぇ。本当にもっともっと長生きしてほしかった人です。


皇帝の座についても、コンプレックスからくる不安をぬぐい切れず、常に苛立ちを抑えきれないパーヴェルの痛ましさ、憐れなまでの「人間くささ」を熱演したスコルコフも素晴らしかった。
この演技で国内でいくつかの賞を受賞したというのも納得です。
容姿も美しくなく、自分勝手で独裁的なパーヴェルの姿は見ていても、決して好きにはなれません、、、でも、その自分でもどうしようもない、「生き難さ」を抱えた、「歴史上の人物」というだけではない、一人のかくもリアルな人間としてのパーヴェル1世像、、、
映画の中で、彼自身が自分のことを「бедный, бедный Павел」(憐れな、憐れなパーヴェル)と自嘲気味につぶやくのですが、自分自身でも自分の周りであらゆることが空回りしてうまくいかなくなっていることは分かっている、、、でもどうしても、そういう風にしか生きられない、その本人の「焦り」やどうしようもない「息苦しさ」、、、が、もう痛くて、辛くて、、、
決して愛することはできないけど、何か不思議な同情を持ってこのパーヴェルを見るようになってしまっていました、、、
「凡人」として生まれることは罪なのかしら、、、?それが王家にあっては、やはり「罪」なのかもしれない、、、でも、あんなにむごたらしく殺されてしまうほどの、、、?
最後の夜、なぜか不思議な落ち着きを見せるパーヴェルの姿が痛ましく、運命の、歴史の過酷なまでのむごさが、苦しく、心に残りました、、、


史実に沿って作ってあるので「歴史物」としても楽しめると思うのですが、スコルコフとヤンコフスキーの、好対照の演技対決は見ごたえがありました。
パーヴェル1世対パーレン伯爵の迫真の対決を描ききっていて、「人間ドラマ」としてもとても引き込まれる作品だったと思います。