§漂う恋心は深海で 6
彼を好きだと思い始めたのは・・いつからだろう・・・
始めて会ったときに、他の誰とも違う・・とても綺麗で・・とても怖い人魚だと思った。
華やかな容姿と対照的な冷たい瞳。
それがクオン様の第一印象だった。
人魚族の中でも、地味な私はいつも浮いていた。
優しいお父様に、可愛がってくれる姉たち・・・。
周囲の人魚族の人々・・・。
でも知っている・・・私が怖いから優しくしてくれているということ。
私は海の荒神を司る宿命を背負って生まれた。
私の心が乱れると、海が乱れる。
嵐を呼び、海を・・深海を荒らす力を持って生まれてしまった。
みんな私が嵐を起こさないように、この海域を平穏にするために当たり障りなく優しくする。
けれど深くは入り込まない。
誰も・・・私を本当に必要とはしていない。
そんな風に自分の中に閉じこもりかけた時に、あなたはここに来た。
異端の人魚。
蛮族のイルカ種。
狡猾でニンゲンのような知識を持つ危険なもの・・・。
私のように突き放され、私よりも酷く追い立てられていた。
きっと直ぐにこの海域を出て行って、彼は自由を手に入れるだろう・・・
そう思っていた。
私の予想とは違った。
彼は自分の運命を受け入れていた。
そして自分に出来ることをし始めた。
頭脳があるなら知識を溜める。そしてそれを活用する。
尾ひれが強靭なら人魚族が困難な深い深い海の底へ、知識で得た薬の材料となるサンゴを取りに行った。
ただ閉じこもっていた私の目の前で、運命を受け入れて生きていくクオン様は眩しかった。
けれど・・・状況は私の思いを切り裂こうとしていた。
蛮族と馴れ合うなど危険だ。
成長も早く恐ろしい。
何より、薬の調合で何をしでかすかわからない。
自分たちのことしか考えていないヤツらが、彼の存在を消そうとしていた。
だから・・・・行動した。
私も。
私の力を使い、海を乱し遠くにあったはずの毒を引き寄せお父様を病気にした。
そしてクオン様に治療をさせた。
目録通り、クオン様は我が一族の薬師となった。
蛮族でもお父様に認められれば、私の思いを遮らない・・・そう思った。
クオン様の周りにいれる幸せ。
微笑みかけてくれる幸せ。
けれど・・・子ども扱いのままが・・イヤだった。
そんな時、あいつらがクオン様を落としいれようと画策しているのを聞いた。
だから・・・わざと罠にかかった。
元々つけられてなどいなかった・・毒を罠にこっそりつけて・・・。
死なない程度、後遺症も残らない程度。
誰にも見つからず出来たと思ったのに・・・・
ショーに見られていたのが誤算だった。
意識を取り戻した私の元に来たショーは、毒を塗っているところを見ていたと告げてきた。
どうしてクオン様のことでここまでするのかと煩かったから、お父様に頼みこの海域を追い出した。
元々クオン様にバカのように突っかかっていていたから、ちょうど良かったのに・・・・
まさか・・ニンゲンになっているなんて・・・・・・
私は頭が真っ白になった。
アイツが生きている。
なぜニンゲンに!?
その時、ふとクオン様がいろんな薬を作っていることを思い出した。
まるで遊び半分で、たくさんの人魚を惹きつける薬とか少しの間だけイルカ種の尻尾を手に入れられる薬とか・・・・・ニンゲンになれる薬・・とか・・・・
もしかしてクオン様は知ってしまっていたのではないだろうか?!
私の犯した罪も、その罪を着せてアイツを海域から追いやったことも・・・・
けれど優しいクオン様は彼を助けるためにニンゲンにしたのではないか?
どうしよう・・・知られてしまった・・・きっと彼に嫌われてしまった・・・。
その思いが私の体を操って、海を乱した。
木の葉のように海に舞い落ちるショーを冷めた目で見つめていた私に、ある考えが過ぎった。
堕ちるなら・・・堕ちてしまえ・・・・
この想いが叶わないなら・・・嫌われてしまったのなら・・・・
私も・・この海から出て行ってしまえばいいんだ・・・・・
次に瞬間、私は沈みかけたショーを救い上げ砂浜に寝かせた。
ニンゲンになった時、都合よく動くモノが欲しい思いでショーを助け私は運命渦巻く荒れ狂う海に飛び込んだ。
・・・・・・・彼に逢うために・・・・・・・
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