§だから・・・24 | なんてことない非日常

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§だから・・・24




 程なくして、車は『だるまや』近くに停車した。

すれ違ったままの考えをお互い感じ取ることが出来ずに、別れの時間が迫った。


「そ・・それじゃあ・・・ありがとうございました・・・」


「あ・・・うん・・・気をつけて・・」


今までと変わらない挨拶に、お互い落ち込んだ。
付き合った途端に溝に嵌まるなど想像もしていなかった。


「「はあ・・・・・・」」


同時に出たため息に二人は顔を見合わせた。


(や・・やっぱり・・・こんなお子様とはキスできないと思って・・・)


(やっぱり・・昨日性急過ぎた俺とはキスできないと思って・・・・)


互い、見つめ合ってそう思っていると寂しさだけが胸に込み上げてきた。


(やだ!敦賀さんとようやく想いが通じ合ったのにっ)


(嫌だ!最上さんとようやく想いが通じ合ったのにっ)


((このまま別れたくないっ))


「最上さんっごめん!!」


「敦賀さんっごめんなさいっ」


「「・・・・・・・え?」」


同時に謝った言葉は外に漏れ出るくらい大きな声で、狭い車内で二人はぶつかりそうなほどの勢いで下げた頭をゆっくりと上げた。


「あ・・・あの・・謝るのは・・・私の方かと・・・」


「え?俺の方がもっと君に合わせていればよかったのに・・・」


そう言い合っているうちに、緊張が張り巡らされていた車内の空気は一気に和らいだ。


「すみません・・・私、敦賀さんがもう愛想を付かされたのかと思って・・」


「ええ!?そんな訳無いだろう!?・・それを言うなら、俺の方が君に怯えられて逃げられてしまうんだって・・・怖くなった」


蓮は、温かそうなキョーコの手をぎゅっと握り締めた。


「・・・・あの時は・・・緊張してしまったのと・・・教えが頭の中に沸いてきたので・・・」


「教え?」


「あっいえ!?・・それも間違ったみたいですし・・・・・・・」


キョーコは落ち着きを取り戻した途端、蓮に手を握り締められているのを改めて意識して真っ赤になった。

それでも、昨日の様に逃げてはダメだと自分を鼓舞した。


「・・・・も、もう・・・逃げません・・・から・・」


キョーコは勇気を振り絞って、驚いて目を見開いている蓮を見つめた。
絡み合う視線を感じるうちに、頬が真っ赤になっていくのがわかる。
握られている手が微かに震えてしまうのは、怖いからではなく何か期待していることがこれから起こりそうな気がしているから・・。


「・・・・キョーコ・・ちゃん・・・」


蓮の控えめだけれど、意思を持った声で名前を呼ばれキョーコはピクリと体を揺らした。
近づいてくる気配は、期待していることを蓮が実行しようとしてくれていてキョーコはゆっくりと瞼を落とした。

微かに入ってくる夜の灯りに照らされたキョーコの目を閉じた顔に、蓮はコクリと喉を小さく鳴らしようやく受け入れてもらえた喜びを噛み締めながら待ちに待った感触を味わうためキョーコの唇に自分の唇を寄せて行った。

あと、数ミリ・・息がかかるほどの距離まで近づいた。その時


『俺の店の前で何してるんだお前らはっ!!!』


「「!!??」」


車の外から少しくぐもった声でそう叫ばれ、二人は物凄い勢いで両極端に飛びのいた。


「た・・・大将・・・・」


「・・・すみません・・・」


店の中に招き入れてくれた女将さんの話しによると、最初の二人の大声に気づいた店の客に促されて外を確認した女将さんと共に大将までも様子を見に来たら先程の状態に出くわしたということだった。


「ごめんなさいね~すっかりお邪魔しちゃったみたいで」


「いえっ・・・・」


蓮は恐縮しながらも、あれから一言も発さない大将を伺った。
むっすりとした表情は、いつも通りなのか怒っているのか・・・なんにしても。


(・・・・・物凄く・・・居た堪れない・・・)


娘の父親にラブシーンを見られたような居心地の悪さに、蓮は立ち上がった。


「最上さんとは先日からお付き合いしています・・・ご挨拶が遅れました・・申し訳ありません


頭を下げて大将にそう述べると、女将さんに笑われてしまった。


「あはは、この人に承諾取らなくても大丈夫ですよ~それに敦賀さんのことはキョーコちゃんからよく伺ってるし・・ただこの人、キョーコちゃんを娘のように思っていたからあんな場面に出くわしたのがショックなのよ~」


カラカラと笑いながら全てを曝け出されてしまった大将とキョーコは真っ赤になってあらぬ方を見て誤魔化すのだった。

少しの間、会話をして夕食は帰ってからキョーコの作ったのを食べたいと伝えると大将に『今度はうちで飯食え』と言ってもらえ蓮は一安心し車に戻ることが出来た。


「すみません・・・敦賀さん、お気を使わせてしまって・・・」


見送りしておいでと女将さんに促されたキョーコは、車に乗り込んだ蓮に頭を下げた。
ウィンドウを下げた蓮は、笑顔を見せ首を振った。


「いいや・・できれば早いうちに挨拶しておきたかったから・・・」


キスできなかったことは残念だけど・・・と内心小さくため息をついたが、以前のように落ち込むことは無かった。


(も・・キョーコちゃんの気持ちもわかったし、これからはいつだって出来るだろうから)


ホクホクと顔を緩ませながらエンジンをかけた蓮に、キョーコは突然言わなければいけないことを思い出した。


「そうだ、敦賀さん・・私明日から一ヶ月沖縄でロケになるんです・・・今日椹さんに言われて・・突然なんですけど夕食は当分作りにいけそうも無いのでちゃんとご飯食べて下さいね?」


「・・・・・・・・・・・・・・・え?」


ニッコリと笑顔でそう言われた蓮は、夕食どうの・・ではなく違う事実に呆然とした。


「い・・・一ヶ月も・・いないの?」


「丸々というわけではないのですが・・・ほぼ沖縄ロケでして・・・予定では一週間先ったのが早くなったそうです」


さらっというキョーコに、蓮は泣きたい気分を隠して微笑んだ。


「そうか・・じゃあ、頑張って・・・・気をつけて行ってくるんだよ?」


「あ・・・はい・・・あ!電話!!・・します」


「うん、俺も時間見つけてするから」


「はいっ」


少し寂しそうに微笑むキョーコを見てしまうと、連れ去ってしまいそうな気がした蓮は、ギアを入れなおすと最後に挨拶をしようと振り返った。


「それじゃ・・・おや・・『チュウ』」


その頬に柔らかな感触が触れて、キョーコのシャンプーの香りがフワリと鼻腔をついた。


「おっおやすみなさい!帰って来たときはちゃんと、直ぐに会いに行きますから!!」


そういい捨てて『だるまや』に戻っていくキョーコを、蓮は魂を抜かれた状態で見送るのだった。


「・・・・・一ヶ月・・・もつかな・・・・」



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