§ルートX 4
「・・・・そう言えば・・・ちゃんと自己紹介してなかったね・・・」
蓮の言葉にキョーコもきょとんとした後、見る間に顔が赤くなっていった。
「ほ・・・ほんと・・・・」
「先に・・・体の相性を知っちゃたけどね?」
「もう!!コーンっ」
イタズラっぽくウィンクする蓮にキョーコは今にも噴火しそうなほど真っ赤になって蓮を可愛く睨みつけた。
そんな顔も可愛いなあ・・・などと蓮が思っていると、キョーコが畏まって頭を下げた。
「えっと・・・最上 キョーコ19歳です」
「えっ!?19・・・・・・」
「え?・・・・・・・・・・・」
まじまじと見詰め合って蓮は額に手をやった。
「・・・・未成年・・・だったんだ・・・・」
蓮の言葉にキョーコはハッとして青ざめた。
「あ・・・あのっ・・・私もなんで酔っ払っていたか・・・解らなくて・・・・」
「え?・・・・自分で飲んだんじゃないの?」
「はい・・・夕食をバイト先の居酒屋で頂いていて・・・・最後にお水を一気に飲んで・・・・そこから記憶が曖昧で・・・・」
「・・・・・・はあ・・・・・」
蓮のため息にキョーコはびくりと肩を震わせた。
「あ・・・・・あの・・・・・」
「ああ・・・いや・・・・・君を責めているわけじゃないんだ・・・ただ・・・俺が軽率だっただけで・・・条例に引っかからないにしても・・・・・・・」
蓮はきょとんとしているキョーコを見つめ、また深くため息をついた。
(昨夜は酔ってたからわからなかったのか・・・・今は逆に中学生のように見えるよ・・・・)
そう思ってため息をつく蓮にキョーコがびくびくと不安そうな表情をしていると、蓮が苦笑いをした。
「・・・俺・・・・風呂の中で自己紹介されたのは初めてだよ・・・」
「!!・・・そんなの私だってそうです!!!」
蓮の一言でキョーコが興奮したように喚いて動くと湯船がパシャリと跳ねた。
今までの会話は全て湯船に二人で入りながらのものだったのだが、外はすっかり高く日が上っていた。
昨夜、体を重ねた後、朝にも仲良くしていたらあっという間にお昼近くになってしまい、ふらつくキョーコを抱きかかえて蓮は怒られながら共に入浴する事にしたのだ。
そして・・・。
「・・・・・・・・・・ひどいです・・・・・・」
「・・・・・・・・ごめん・・・・・・・」
風呂から上がったら上がったでキョーコは昨夜、無残な状態で床に放られた自分の洋服や下着を目の前に不貞腐れると、蓮が自分のトレーナーを持って謝った。
「・・・・洗えば・・・元の状態に戻ると思うから・・・それまではこれ着てて?・・・・下着は・・・無いんだけど・・・」
「何であんなに・・がびがびに・・・・・」
「・・・・・・・・まあ・・・・それは・・・・いろいろと・・・」
先ほど洗濯機に入れる前の下着の状態にキョーコが首を傾げながらそう呟くと、蓮からそう返されキョーコはさらに首を傾げた。
「ま・・・まあ・・・・乾くまで2時間はかかるからそれまで座ってるといいよ・・」
そう言いながら蓮はキッチンに行くとコーヒーを淹れて戻ってきた。
「はい・・・」
「あ・・・ありがとう・・・・・」
ぎこちなくソファーに座ってマグカップを受け取ったキョーコはラグに座りコーヒーを飲む蓮をじっと見つめた。
「・・・なに?」
「え!?・・・あ・・・いえ・・・・・・・」
「?」
「・・・・・・・コーン・・・・なんだよね?」
キョーコは昨夜、キスした時に思い出した。コーンは碧眼で金髪だった事を。
しかし、今の蓮は黒髪に黒目。
今更ながら・・・と思いながらも、そう訊ねると蓮から逆に質問が返ってきた。
「・・・・君は・・・・どうして俺だって・・・気がついたの?」
昨夜から聞きたくても聞けなかった事を蓮は少し緊張しながら訊ねた。
「え?・・・・・えっと・・・・耳の形・・・・かしら」
「・・・・・え?」
「耳の形と言うより・・・全体的な骨格の形成かしら・・・」
「・・・・・・・・・・・・は?」
「全体の雰囲気と言うか・・・スケールが合うというか・・」
「・・・・・・・・それは・・・つまり・・・・・勘?」
「あのね!!」
呆然とする蓮に急に目を輝かせてキョーコは骨格形成の何たるかや、成長期における筋肉の付き方、幼少期の運動神経からの未来予測的推察、云々をつらつらと述べられて蓮は頭を抱えた。
「・・・・うん・・・・もう・・・・解ったから・・・・もう・・・・いいよ・・・・・・・」
まだ話したそうなキョーコに蓮は苦悶の表情で止めると大きく息を付いた。
「・・君は・・・人間工学の学生か?」
その蓮の一言にキョーコは固まり、やがて項垂れた。
「・・・・行ってません・・・学校・・・」
「ああ・・ごめん、大学通ってないんだ」
蓮の言葉にキョーコは項垂れたまま頭を左右に振った。
「・・・・行ってないんです・・・高校も・・・中学を卒業してすぐにアイツに連れられて東京に来てしまって・・・生活していくので精一杯で・・・・・」
「・・・・・・・・・・そうなんだ・・・」
重い沈黙が流れ、キョーコは蓮から仄かに怒りのオーラが流れてきているような気がして慌てて顔を上げた。
「そ、それよりもコーン・・」
「久遠・・・」
「・・・・・へ?」
「コーンじゃなくて俺は久遠・・・・・久遠・ヒズリ・・・・」
「くおん・・・ひずり?」
「そう、それが俺の本名・・・・・昔、俺の英語の発音がちゃんと聞き取れなかった幼い君に合わせてコーンのままでいたんだよ・・・・俺にもその方が都合・・・よかったしね・・・」
蓮の説明にキョーコは小さく眉根を寄せて謝った。
「・・・ごめんね?ずっと間違えてて・・・」
「いいよ・・・えっと、漢字の表記は久しいの『久』に永遠の『遠』で『久遠』だよ」
「・・・・素敵な名前ね!!・・・・私とは大違い」
蓮の名前の説明にキラキラと表情を輝かせていたキョーコは、またもやしゅんと項垂れると蓮は微笑みながらそっとキョーコの黒髪を撫でた。
「俺は好きだよ?君を・・キョーコちゃんって呼ぶの」
そう甘く柔らかい笑みを溢し囁く蓮に赤面していたキョーコだったが、やがて嬉しそうに微笑めば、その凶悪なほどの愛らしさに蓮の方が打ち負かされた。
「・・・・とりあえず、これから作戦会議をしないといけないけど・・・・・」
「作戦会議?」
「うん・・・でも、その前に・・・・・」
蓮は徐にテーブルに飲みかけのコップを置くと、キョーコの物も手から奪いテーブルに置いた。
そして首を傾げているキョーコにずいっと近寄った。
「へ?・・・・・・えっ!?きゃああああああ!!!」
突然、真昼間に夜を統べる帝王の如くの表情になった蓮はキョーコをソファーの上に押し倒すのだが、キョーコの服の洗濯乾燥が終わったブザーが部屋に鳴り響く頃、蓮はキョーコにこっぴどく怒られているのだった。
5
へ
《・・・・・なにこれ・・・・(笑)話・・・進んでない・・・orz》