晩秋にはまだ日がある。晩秋と言えば、柿の葉はすべて落ちて、丸裸になる。公孫樹だってそうである。家の生垣のどうだんつつじが真っ赤に彩るのだが、まだ少し先であろうか。それでも、最近の冷え込みは厳しい。北陸に移り住んでから、初めて迎えつつある今、冬の準備をしなければと心が急くのである。
寒くなると魚の脂がのり美味しくなる。すでに、鰤の話をしたから、違う魚を取り上げてみよう。昨日の夕方、街の魚屋に顔をだした。いつもの威勢のいいカミさんの声が店内に響く。今日は安いよ安いよと。アオリイカ20センチクラスが、三杯350円。生カニが一杯100円だという。カニと言ったって、甲羅が大人の手のひらサイズである。当節「お足」でモノを計るのも品がないが、それにしても安い。流通コストをかけて、遠くへ運ぶほど大漁でないということだろうか。イカは、アオリイカは刺身にしても、身が厚くて甘い。カニは、とりあえずカニ汁にして頬張ってみた。秋の夜長、酒の肴に合うのである。独りいつまでも食卓から離れられなかった。
だんだん寒くなると田舎の百姓家のこと、雨露をしのぐだけの陋屋。すき間風が、どこからともなく入って来る。先日、縁の下を覗いたら、畳の下の板敷きが朽ちていた。このすき間から、冷たい冷気が、風にあおられて舞いあがって来る。この冷気を止めるために、分厚い板を敷き詰めた。障子も襖も師走を待たないで、張り替えねばなるまい。部屋と廊下を遮る仕切りとのないところには、厚手のカーテンを吊るそう。
子供のころ、暖をとるのにコタツしかなかった。寒いと言うと一枚余分に羽織れと親が言う。それでも寒いから、股引を履いて、ドテラを着た。ドテラは寝具である。綿の入った半纏は何と言うのだろうか。遊びに行くときは、綿入れを着て外に出たものである。青洟垂らして、裸足で走りまわった。