幼いころ、生家の百姓家の庭の真ん中に<ゆずの木>があった。6月ごろに、白い花を咲かせ、夏には、もう大きくなり、青い実が生る。冬に向かって橙色に色づく。収穫期は果実の色が鮮やかな黄色になる秋から冬にかけてである。これが、見事なまでに鈴なりになるのである。柑橘果樹を庭に植えると代々家が栄えると言われるが、この橙からきている。冬にコタツで食べるみかんや夏の前に出回る夏ミカンと同じ色をしていて、この<ゆず>ちっとも甘くない。それどころか、トゲがあって、子供など寄せ付けない。せっかく採っても、酸っぱいことこの上もない。美味いものには、トゲがあるというが、子供心にちっとも旨いと思ったことがなかった。ところが、今では、このゆず特に胡椒とあわさると、夏の涼しいお料理から、冬の鍋や焼き物まで、どの季節の料理にも味の決め手だという。刺身につく、わさびみたいなもので、必須なのだそうだ。


 ある冬、父と一緒に村にあった一軒の銭湯に行った。なんと湯船にあのボール球のような<ゆず>が、一面にぽかりぽかりと浮いているのである。子供らは、キャッチボールに興じ、大人に叱られていたが、その叱責の仕方がきつくなかった。大人の遊び心もいくらか満足させていたに違いない。今の時代のように、アロマテラピーのリラックス効果などという言葉もなかった。香りを楽しみと同時に、冬至に湯治をかぶせて、冬の冷えた身体を温めていたと思う。


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 この秋、家内の実家の庭から、山とスダチをとってきたとこのブログにも書いた。そんな時、九州の僕の親戚から、今度は段ボール一杯のカボスが送られてきた。スダチより一回り大きい、もっと言うとピンポン玉よりちょっと大きめの肉厚の値打ちものである。北陸のスダチと南の国のカボス。ふたつをどう共存させるか迷った。バッティングされると困るのだ。スダチは、ジュースにして瓶詰めにした。鍋によし、秋刀魚などの焼き魚にキュッとひとふりすると格段の味わいになる。家内は、実家のスダチひいき。ボクは、カボスの味方。家内と僕の無言の攻め合いがあった。カボスは、僕のとっておきの酒の友にした。焼酎のオンザロックに一絞りすると、口の中に芳醇な味わいが広がり、香ばしい酸味とほのかな甘みがハーモナイズする。すこし安い焼酎でも、特級品に変える魔法の薬である。

kashi-heigoの随筆風ブログ-オンザロック

 そういえば、初めてアメリカに行ったとき、ライムをビール瓶に突っ込み、ラッパ飲みすることを覚えた。ずいぶんと洒落た飲み方をするものだと感心したものだ。僕は、日本のラガービールにカボスを入れて、同じように飲んでみようと思う。夢の飲みモノに変身させること請け合いである。
 ゆず、スダチ、カボス、ライムとそのままでは、食べにくいが、名脇役として、それぞれ、主役を引きたせる役割がある
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