自由貿易を守るチャンピオン? | 朝倉新哉の研究室

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全ては日本を強くするために…

やあ、みなさん、私の研究室へようこそ。

 

本来なら、この記事は、先々週に出稿すべきでしたが、

タイミングを逃してしまいました。

3月21日発売の週刊エコノミスト(3月28日号)の表紙に、

 

日本は自由貿易で発展のウソ

米国の本質は保護貿易

比較優位は机上の空論

 

という文言があり、

歴史に学ぶ 良い貿易 悪い貿易

という特集が組まれていたのです。

エコノミストは、自由貿易礼賛だとばかり思っていましたが、

まさかこんな記事を載せるとは…。

で、

「タイミングを逃しちゃったなあ」

と思っていたら、

NHKで3月26日に『欲望の世界経済史』という番組が放送され、

さらに昨日、

『NHKスペシャル シリーズ マネーワールド 資本主義の未来

 ”トランプ経済”は世界を変えるのか!?』

が放送されました。

 

『欲望の世界経済史』では、
ジョセフ・スティグリッツの、

”神の見えざる手”(経済学の根幹の1つであり、資本主義の根幹でもある)

を批判する発言を放送していました。

昨日のNHKスペシャルでも、

自由貿易やグローバル化に懐疑的な意見が紹介され、

両番組とも、

自由貿易礼賛、グローバル化礼賛、

という内容ではありませんでした。

私はてっきり、

自由貿易は大事だ、保護貿易はだめだ、グローバル化は不可避なんだ、

という内容かと思っていました。

 

NHKも、週刊エコノミストも、

自由貿易やグローバル化に懐疑的な意見があって、

それが一定程度の説得力があることを認めているのは、間違いありません。

 

週刊エコノミストの特集では、

全部で9本の記事がありますが、その中の1つが

週刊エコノミストのサイトに掲載されていたので、以下に紹介します。

 

>>>
特集:良い貿易、悪い貿易 2017年3月28日号

 

◇自由貿易にウンザリ 沈みゆく中間層

 

「米中で貿易戦争が起きれば真っ先に被害に遭うのは米企業だ」。
中国で3月15日に閉幕した全国人民代表大会後の会見で、
李克強首相は、米国で高まる保護主義の動きをけん制した。

トランプ米大統領は、昨年の選挙期間中から
「自由貿易が米国の中間層を没落させた」
と繰り返し主張し、
とりわけ巨額の対米貿易黒字を計上する中国を名指しで批判してきた。

 

 

中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した
2001年12月から現在までの約15年間で、米国では約15万カ所の工場が閉鎖された。
毎年1万カ所ずつ消えていった計算だ。
トランプ氏は
「中国はアメリカ(市場)を強奪している」
と非難する。
トランプ氏を保護貿易に駆り立てる理由の一つだ。

もう一つは
トランプ政権が再交渉を求めている北米自由貿易協定(NAFTA)だ。
協定が締結された1992年ごろまで、
1700万人前後で安定推移していた米国の製造業労働者は、
15年には1200万人程度まで減った。
およそ4分の1の製造業雇用が失われたことになる。

 

◇すぐには新産業に移れない

 

自由貿易が米国の雇用を奪った
というトランプ氏の主張は、
製造業労働者に受け入れられた一方で、経済学者たちの強い反発を買った。
昨年の大統領選の直前に、米国の経済学者370人が連名で
「トランプ氏の掲げる経済政策は支持できない」
として
同氏に投票しないよう米国民に呼びかける書簡を
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』に寄せた。

書簡は
「米製造業の雇用の減少は70年代から始まっており、貿易ではなく自動化によるもの」
と説明し、
「NAFTA見直しは米国に悪影響を及ぼす」
との批判を展開。
米製造業を復活させ雇用拡大を目指すなら、
中国よりも製造業のロボット化を問題視すべきだと主張した。

「製造業を優先する」

というトランプ氏に対し、

経済学者らは

「歴史を巻き戻して生産性の低い仕事を生み出すような政策は持続しない。

 重要なのは、新たに必要とされる産業に人々が就けるようにすることだ」

と反発する。

 

ただし、経済学者の多くは、

そうした新しい市場に雇用が移動するまでは、20~30年はかかる

と見ていることも事実だ。

しかも、IT(情報技術)や人工知能(AI)といった新産業は、

多くの労働力を必要としない。

雇用を生む新産業が現れるのか、経済学者も見通せない。

その間、沈みゆく製造業のような産業に従事する者には、厳しい状況が続く。

 

◇新興国も保護貿易へ向かう

 

世界貿易は

トランプ大統領誕生の前から、保護主義に向かっていた

ことを示すデータがある。

英シンクタンクの「グローバル・トレード・アラート」によれば、

リーマン・ショック前に主要20カ国・地域(G20)全体で

100件に満たなかった保護貿易措置が、

ショック直後の08年11月から増加し、足元では6000件を超えている。

措置の7割は新興国で取られている。

 


 

保護措置の増加に合わせるように

世界の貿易量の伸び率は減速し、

世界経済成長の伸び率を下回る「スロー・トレード」の状態が続く。

 

自由貿易と保護貿易とでは、どちらが得策か。

自由貿易は

18世紀の英経済学者リカード以来、

多くの経済学者の支持を得てきたが、中間層の支持は急速に失いつつある。

(大堀達也、谷口健・編集部)
>>>


https://www.weekly-economist.com/2017/03/28/%E7%89%B9%E9%9B%86-%E8%89%AF%E3%81%84%E8%B2%BF%E6%98%93-%E6%82%AA%E3%81%84%E8%B2%BF%E6%98%93-2017%E5%B9%B43%E6%9C%8828%E6%97%A5%E5%8F%B7/から引用。

 

アメリカの経済学者は、トランプ氏に投票しないよう、呼びかけていたんですね。

それでもトランプ氏は当選しました。

アメリカの有権者は、そういう呼びかけに動かされることはなかったということです。

アメリカにおいては、

学者は自由貿易推進でも、

一般の有権者は、そうではないといえるでしょう。

 

>>>

リーマン・ショック前に主要20カ国・地域(G20)全体で

100件に満たなかった保護貿易措置が、

ショック直後の08年11月から増加し、足元では6000件を超えている。

>>>

 

8年ちょっとで、60倍ですよ。

それほど急増したら、世界経済は急激に縮小しているはずですよね。

自由貿易推進論者に言わせれば、

経済を成長させるのは、自由貿易であって、

保護貿易は、その逆のはずですから。

 

こちらをクリックすると、世界全体のGDPのグラフが見れます。

データ元は、世界銀行です。

そのデータによると、世界全体のGDP(名目GDP)は、
2006年 51兆0745億ドル(USドル 以下同じ)
2007年 57兆5834億ドル
2008年 63兆1286億ドル
2009年 59兆8355億ドル
2010年 65兆6478億ドル
2011年 72兆8431億ドル
2012年 74兆4284億ドル
2013年 76兆4313億ドル
2014年 78兆1063億ドル
2015年 73兆4336億ドル

です。

 

エコノミストの記事では、

リーマンショック後、保護貿易措置が増えて、スロートレードになった、

と言っていますが、

世界全体のGDPを見ると、増えていますね。

増える一方というわけでは、ありませんが、

全体として、上昇傾向にある、とは言えるでしょう。

細かく見ると、

2008年から09年にかけて減りましたが、その後14年までは、増え続けています。

15年には減りましたが。

自由貿易が経済を成長させるのだ、

経済を成長させるには、自由貿易は不可欠だ、

というのが正しいなら、

保護貿易措置が急増したら、世界全体のGDPも急激に縮小するはずです。

しかし、現実にはそうはなっていません。

リーマンショック後、保護貿易措置が増えて、スロートレードになった、

という話ですが、

保護貿易措置が60倍というすさまじい増え方をしたなら、

もっと貿易は縮小してもいいと思うのですが、

引用記事の図1のグラフを見ても、それほど縮小していません。

リーマンショック直後の2009年には、-20%ぐらいになりましたが、

その後は、ずっとプラスになっていて、縮小どころか貿易は増えているのです。

(図1のグラフは貿易の量とか金額ではなく、対前年比の伸び率を表しています)

そうなると、

”保護貿易をやると、貿易が縮小する”

というのも、怪しくなってきます。

 

>>>

保護措置の増加に合わせるように

世界の貿易量の伸び率は減速し、

世界経済成長の伸び率を下回る「スロー・トレード」の状態が続く。

>>>

 

あれ?

保護措置の増加に合わせるように

世界の貿易量の伸び率は減速し、

”伸び率は減速し”、ですよ。

ということは、減速はしたけど、伸びてはいるってことじゃないですか。

保護措置をとっても、貿易の量は伸びてるってことですよ。

 

>世界経済成長の伸び率を下回る「スロー・トレード」の状態が続く

 

ということは、

貿易の伸び率よりも、世界経済の成長の伸び率は上回っている、

ということですよね。

貿易が低調になっても、世界経済は成長している、

とも言えるわけです。

 

週刊エコノミスト3月28日号には、こんな図が掲載されていました。

 

サミュエルソンが、

「比較優位の原理」は不滅の理論である

と言っていますが、

エコノミストの記事に、

『揺らぐ比較優位説

 現実離れした自由貿易モデル 「新古典派」の過度な数学信仰

 自由貿易を擁護する経済学の「原理」に疑問の目が向けられている』

というのがあります。

リカードが、

すべての国が自由貿易から利益を得ることができる

と言っていますが、

現実にはそうなっていません。

むしろ、

自由貿易は、

勝ち組の国と負け組の国が形成されていき、

その格差も拡大していく、

というのが、現実の状態です。

上の図の左側は、

抽象的で現実を見ていない人たちの意見で、

机上の空論を並べ立てている、

という感じがしますね。

右側は、現実を見ている人たちの意見、

という感じですね。

ケインズが主張を変えたのも、

最初は、経済学の理論を学んで、机上の空論ぽいことを言っていたのが、

現実の経済を見て、理論とは違う、と気づいたんじゃないでしょうか。

”自由貿易は純粋な仮定の領域以外には存在しない”

まさにその通りだと思います。

 

こんなことを言っていると、私が、

自由貿易=悪、保護貿易=善、

という図式で考えているかのように見えるかもしれませんが、

以前にもちらっと言ったと思いますが、

自由貿易が絶対的に正しくて、保護措置なんか一切やっちゃだめだ、

というような考え方が間違っているのであって、

自由か保護か、

という二者択一ではないのです。

その国の事情にあわせて、ここまでは自由にする、ここからは保護する、

というのを決めればいいのです。

100%自由、100%保護、

などというのはありえないのです。

何%自由にして、何%保護するかは、

それぞれの国がそれぞれの事情にあわせて決めればいいだけのことです。

NHKにしても、週刊エコノミストにしても、

自由貿易=善、グローバル化=善、

というふうには、決めつけられなくなった、

という現実を認めつつあり、

双方の意見を取り上げるようになってきた、というのが現状でしょう。

(自由貿易を絶対視する立場と自由貿易に懐疑的な立場)

 

問題なのは、

NHKや週刊エコノミストでさえ、気づき始めているのに、

日本の政治家は気づいていないことなのです。

学者や評論家が、

ああでもない、こうでもない、と言い合っているだけなら、

一般の人々には関係ない話です。

しかし、経済政策を決める立場の人が、

間違った考え方に立脚して、政策を決めてしまうと、

下々の我々が困るのです。

 

>>>

2017.3.20 08:22更新

 

安倍晋三首相がドイツ到着

「自由貿易を守るチャンピオンでありたい」

と保護主義にクギ

情報通信機器展示会であいさつ

 

【ハノーバー=石鍋圭】

安倍晋三首相は19日夕(日本時間20日未明)、

政府専用機でドイツのハノーバー空港に到着した。

同日夜にはメルケル独首相とともに、

ハノーバー市で20日から開かれる

世界最大級の情報通信機器展示会の開会行事に出席。

「自由な貿易と投資の恩恵を受けて伸びた日本は、

 ドイツとともに開かれた体制を守るチャンピオンでありたい」

とあいさつし、自由貿易の重要性を訴えた。

トランプ米政権が鮮明にする保護主義の動きにクギを刺した形だ。

首相は自由貿易に関し

「公正で民主主義の評価に耐えるルールが必要だ。

 一部の人に富が集まり、無法者が得をする状態を作ってはならない」

とも指摘。

日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)について

「早く結ばなくてはならない」

と述べ、早期大枠合意に向けた協議加速に意欲を示した。

首相はまた、

日独のデジタル分野の協力などを盛り込んだ

「ハノーバー宣言」を担当閣僚間で署名すると表明。

「ドイツ人も日本人も、モノをつくることに誇りを託し、無上の喜びを感じる人間だ」

と述べ、

経済成長のために技術革新が最重要だとの認識を示した。

>>>

http://www.sankei.com/politics/news/170320/plt1703200005-n1.htmlから引用。

 

”自由貿易を守るチャンピオン”!!

 

もう笑うしかないですね。

 

”自由な貿易と投資の恩恵を受けて伸びた日本”

と言っていますが、

週刊エコノミストには、

『「自由貿易で成長」のウソ 戦後日本は保護貿易で発展した』

という中野剛志さんの記事が載っています。

その中に、

 

>>>

「自由貿易は経済成長をもたらす。

 戦後日本は、自由貿易のおかげで成功した。」

これは疑う余地のない説として広く信じられている。

しかし、そんな通説を鵜呑みにするような知的怠惰では、

ドナルド・トランプ氏が米大統領になるような混迷の時代を乗り切ることはできまい。

自由貿易が経済成長をもたらすというのは、自明ではないのだ。

>>>

 

とありました。

中野さんに言わせれば、いまだに

”自由貿易のおかげで日本は伸びた”

と思っている安倍総理は、知的怠惰ですね。

 

安倍総理は、

トランプ大統領に、

自由貿易の意義を訴えて、TPPを批准するように説得するとかなんとか言っていました。

トランプ大統領は、

はっきりと反自由貿易を打ちだし、有権者の支持を得て当選した以上、

安倍総理が、自由貿易の意義を訴えても無駄なことです。

NAFTAで壮大な社会実験が行われ、

少なくとも一般の国民(とりわけ労働者)の間では、

NAFTAは失敗だった、

俺達の雇用を奪った、

という評価がもう定まっているのです。

 

週刊エコノミストには、

自由貿易が米国の「雇用」「経済」「賃金」に与える影響についての世論調査

2015年 出所 ビュー・サーチ

というデータが紹介されています。

それによると、こういう結果が出ています。

 

・自由貿易は賃金を…

上げる   11%  

下げる   46%  

変わらない 33%  

わからない・無回答 10%

 

・自由貿易は経済を…

成長させる 31%

減速させる 34%

変わらない 25%

わからない・無回答 10%

 

・自由貿易は雇用を…

生む     17%

失われる  46%

変わらない 28%

わからない・無回答 9% 

 

イギリスもEU離脱を決めました。

にもかかわらず、

安倍総理、安倍内閣は、

グローバル化は不可避な流れだ、

自由貿易は大切なんだ、

という考えに凝り固まっています。

そんな考えは、もう古いのです。

 

”1周遅れのグローバル化推進”

”1周遅れの自由貿易推進”

と言われても仕方ないですね。

 

三橋貴明さんによると、

昨年2月を除くと、18か月連続で、日本の実質消費は減っているそうですね。

実質消費が減るということは、国民が貧しくなるということです。

 

>>>

日本の憲政史上、一年半もの間、国民の実質消費を減らした総理大臣は存在しません。

安倍総理大臣は、

憲政史上、最も国民の消費を実質的に減らしてしまった総理大臣なのです。

各年の2月に絞ってみると、

2013年2月を1とすると、17年2月は0.96です。

国民は四年前と比べ、

100個買っていたパンが、96個しか買えなくなっているという話になります。

>>>

http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12261799689.htmlから抜粋して引用。

 

 

今、安倍内閣の支持率は、62%あるようですが、

支持してる人たちは、どこを見てるんでしょうね。

支持してもいいですが、批判すべきところは批判しないと、

経済はよくなりませんよ。

自由貿易は正しい、

グローバル化は不可避だ、

なんていう間違った考えに立脚して

経済政策を進めているから、

間違った結果(実質消費が減る=国民が貧しくなっている)

が生まれるんですよ。

アベノミクスは、

金融緩和はやっていますが、財政政策が不十分なんですよ。

それに、やらなくてもいい成長戦略をやっています。

やるべきなのは、もっと政府の支出を増やすことです。

 

 

http://grandpalais1975.blog104.fc2.com/blog-entry-181.htmlより転載

 

見てください。

政府の支出と民間企業の給与は、これだけ連動してるんですよ。

安倍内閣は、ろくに政府支出を増やしていません。

だから、給料が十分に上がらず、実質消費も伸びないのです。

アメリカでは、

自由貿易やグローバル化を進めると、

国民は貧しくなってしまう、という結果が出ています。

成長戦略は、主に、自由貿易やグローバル化を進めよう、という話です。

安倍総理は、成長戦略によって経済を成長させる、と度々言っています。

国民を貧しくしてしまう成長戦略を進めているんですから、

実質消費が減るのも当然の話です。

成長戦略よりも、政府の支出を増やすことです。

上のグラフで一目瞭然、

政府の支出が増えれば、給料が増えるのですから。

 

それにしても、

自由貿易を守るチャンピオンとは…。

自由貿易を守っても、国民が貧しくなってしまったら、本末転倒ですよね。

この論理は、護憲派とそっくりです。

憲法は大事だ。憲法を守れ。

憲法を守ったおかげで、十分な防衛力がもてず、

外国に侵略されてしまったらどうするんでしょう。

まあ、護憲派は、憲法を改正させず、

日本に十分な防衛力をもたせず、外国の侵略を助けるためにやってるわけですが。

この護憲派の論理では、

憲法は守ったけど、日本は侵略されてしまった、

となるのは、自明です。

自由貿易を守るチャンピオン、というのも、同じ論理です。

自由貿易は守ったけど、

国民の雇用は奪われ、所得も下がってしまって貧しくなった、

となるのは、まず間違いないと思います。

安倍総理には、

このあたりのことをよく知ってもらわないといけません。

政治家の知的怠惰は、国民を貧しくし、国の経済も弱くしてしまいます。

 

 

安倍総理に自由貿易礼賛をやめてもらいたい方は

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