”現場力”復活のために | 朝倉新哉の研究室

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全ては日本を強くするために…

やあ、みなさん、私の研究室へようこそ。

前回の記事に続いて、
日本企業の”現場力”について考察してみたいと思います。

日本能率協会コンサルティングのシニア・コンサルタント
宗裕二氏は、
現場力劣化の要因として、次の5つを挙げていました。

1 雇用形態の多様化で一体感の喪失

2 リストラによる人材不足で技能継承されず

3 海外移転で日本に「現場」がなくなった

4 経費削減で教育コストを究極までカット

5 IT化によるコミュニケーション不足


1,2,4の原因になっているのは、デフレです。
また、1の雇用形態の多様化の本質は、非正規雇用の増加だと言えます。
なぜ非正規雇用が増えたかというと、その原因の1つもデフレであると言えます。
デフレが、いかに恐ろしいものかが、わかります。
安倍内閣がデフレ脱却を掲げているのは、いいのですが、
脱却の手段が問題です。
金融緩和だけで、政府の支出をさほど増やしていない、
財政再建のために、むしろ減らそうとしているのが、問題なのですが、
このあたりのことは、三橋貴明さんが、さんざん言っておられるので、
これ以上は触れません。

非正規雇用が増えた原因は、デフレだけではないと思います。
もう1つの大きな要因として、3とも関連しますが、
株式持ち合いの解消があるのではないか、
と思うのです。

株式持ち合いとは、
複数の株式会社が、お互いに相手方の発行済株式を保有する状態をいいます。
株式を持ち合うことで、
いわゆる系列と呼ばれる企業グループを形成しているのが、
日本的経営の特徴の1つでした。
互いに株を持ち合うことで、
敵対的買収を気にする必要がなくなるので、
その分、技術開発などに集中できるようになります。
また、長期的視野に立った経営が可能になります。
     ↑
これは日本企業の大きな強みでした。

日本経済がまだ弱かったころは、
敵対的買収は大きな脅威であったようです。
ウィキペディアには、
株式持ち合いが生じた原因について、
丸山夏彦の説が挙げられています。
>>>
第一次ブームは、
1940年後半~1950年代のGHQによって、
財閥各社の株式が大量に分散した事を起因とする
敵対的買収からの防衛策が行われたこと。
第二次ブームは、
1960年後半~1970年代のIMF8条国、GATT11条国への移行。
そしてOECDへの加盟に伴う
「貿易外経常取引および資本移動の自由化」の義務を負う事となり
"第二の黒船襲来"と外資からの買収に対する危機感が強まったこととしている。
一次二次どちらも買収に対する危機感があったと述べている。
>>>

ウィキペディアから抜粋して引用。

日本的経営の長所を支える核の1つであった株式持ち合いですが、
アメリカから、閉鎖的だとか不公正だという指摘がなされ、
株式持ち合いは解消されていきました。
1989年からの日米構造協議、それに続く日米包括経済協議において、
日本企業同士が、株式を持ち合い、”系列”を形成しているため、
アメリカ企業の参入を阻む障壁になっている、
として、槍玉にあげられたのです。
(持ち合い解消の原因は、アメリカの圧力だけというわけではないようですが)
テレビ東京の
『ワールドビジネスサテライト』
という番組がありますが、
思い出してみると、90年代前半の株式市況のニュースで、
「持ち合い解消売り」
という言葉が何度も聞かれました。

上場企業の株式持ち合い比率










https://www.nikkei4946.com/knowledgebank/index.aspx?Sakuin2=146&p=kaisetsuより転載

持ち合いが解消されていった期間は、バブル崩壊と同時期です。
バブル崩壊とともに、どういうわけか、
バブルが発生、崩壊したのは、
それまでの日本的なもの、システムの全てが悪い、
みたいなことを言う評論家とか学者が、メディアにたくさん出ていたように思います。
バブルの発生と崩壊に、系列や株式持ち合いは、関係ないんですが、
”捨てるべき日本的システム”の1つにされてしまったようです。

持ち合い解消と同時期に、外国人株主の持ち株比率が上がっていきました。



http://www.garbagenews.net/archives/946348.htmlより転載

株式持ち合いの解消と外国人株主の持ち株比率の上昇(=外国人株主の影響力の増大)
によって、何が起こったかというと…。

国家戦略研究

http://www.hoshusokuhou.com/archives/12840028.htmlより転載

持ち合い解消がまだ起こっていない「いざなぎ景気」とバブルの時期は、
企業の利益の増加とともに、従業員給与も上がっています。
それに対して、今回の「景気拡大局面」では、
企業の利益は増えているのに、従業員給与は全く上がっていません。

>>>
「上場企業における外国人投資家の影響力増加と共に、
 『利益の従業員への還元より株主への還元を優先しろという』圧力が強まり、
 企業の利益が積み上げられても従業員の手取りには反映されなかったのではないか」
とするのがレポートの推測による一要因。
確かにこの15年ほどの動きをみると、
影響力は2倍強にまで拡大しており、
(たとえ外国人投資家全員が頑ななまでに配当重視を声高に訴えるだけではないとしても)
推論を裏付けるようなデータではある。
>>>

http://www.garbagenews.net/archives/946348.htmlから抜粋して引用。

企業の利益が増えているのに、給料が上がらなかったのは、
外国人株主だけのせいではないと思います。
日本人株主だって、配当は多いほうがいいに決まっています。
株主の国籍に関係なく、
国全体のことを考えず、自分のことしか考えないバカな株主が多ければ、
持ち合いを解消して、一般の株主の影響力が強まるほど、
給料は上げられなくなっていきます。
株主の影響力増大→配当を増やせ、給料を上げるな、という圧力の増大
という図式ですから、
正社員より、非正規雇用のほうが、(株主的には)いいに決まっています。

株式持ち合い解消

日本人、外国人問わず株主の影響力増大

人件費抑制、配当増加のプレッシャー増大

正社員減、非正規雇用増加

現場力劣化

こういう流れで、株式持ち合い解消が、現場力劣化につながっていると思うのです。
人件費を安く抑えろ、ということなら、
そもそも人件費の高い日本でものを作るな、という話になっていきます。

現場力劣化の要因の3つ目
海外移転で日本に「現場」がなくなった
と関連してきますが、
これには、外国人株主の影響力増大が、主要因として考えられます。
日本人の株主なら、日本での雇用が減ったらまずいな、
と考えてくれる人もいるでしょうが、
外国人には、そんなことは関係ありません。
「日本人の雇用なんか知るか。もっと人件費の安い国に製造拠点を移せ!」
当然そう考えるでしょう。

株式持ち合い解消

外国人株主の影響力増大

人件費抑制、配当増加のプレッシャー増大

製造拠点の海外移転

日本から現場がなくなって、現場力劣化

この流れと、先にあげた
株式持ち合い解消から、正社員減、非正規雇用増加
の流れが、重なって、
日本企業の現場力を劣化させる大きな要因の1つとなっていた、と思うのです。

現場力復活のためには、株式持ち合いの復活が欠かせないと思います。
それと同時にデフレを脱却しなければなりません。
持ち合い復活とデフレ脱却が実現し、
人材派遣業への規制強化がなされれば、
企業は、人件費抑制のプレッシャーから解放され、
正社員は増え、現場力は復活できるでしょう。

>>>
経済学者の野口旭、田中秀臣は
「日本的雇用システムが維持できなくなった原因は、
非効率性ではなくデフレーションによる実質賃金の上昇である」
「『日本的雇用システム』自体は、
マクロ経済が2-3%程度のインフレ状態であれば健全に機能する」
と指摘している。
野口、田中は
「1990年代後半に日本で起きた名目賃金の低下は、
 日本経済にとって長年にわたって洗練化されてきた日本の雇用システムを破壊する
 という大きな代償を払った」
と指摘している。
>>>

ウィキペディアから抜粋して引用。

これを見ると、
デフレ脱却と賃金上昇と雇用の安定化は、どうやら連動しているらしいことがわかります。
それはまた、現場力とも関係があるというわけです。

しかし、困ったことに、株式持ち合い解消は、現在でも続いています。

>>>
主要企業の持ち合い株、6割が削減 14年度
旧財閥系や金融も


2015/7/16 2:00

上場企業による持ち合い株式の売却が一段と加速している。
2014年度は主要企業の6割が持ち合い株を減らし、
削減の動きは歴史的に結び付きの強かった旧財閥系の企業グループ、
保有資産の多い金融にも広がった。
資本効率の改善を求める株主に背中を押され、持ち合い解消は最終段階に入ってきた。

株式市場で外国人投資家が存在感を高めるにつれ
「持ち合いは経営規律を緩ませ、資本効率を悪くする」
との批判が高まった。

今年6月導入の企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)は、
持ち合い株の保有意義についての説明を企業に要求。
これまで売却をためらっていた企業も
保有を見直さざるを得なくなるとされ、
持ち合い解消に取り組む企業の裾野がさらに広がる可能性がある。
>>>

http://www.nikkei.com/markets/features/09.aspx?g=DGXLASGD09H61_10072015MM8000&n_cid=TPRN0004から抜粋して引用。

持ち合いを解消していったら、外国人の株主が増えてきて、
その外国人株主が、持ち合いを批判する、
となれば、ますます持ち合いはやりにくくなります。
そうなれば、持ち合い復活による現場力復活は、望めなくなっていきます。
持ち合い復活を阻むような
企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)なるものは、
導入すべきではありません。
こんなもののせいで、
持ち合い解消がさらに進行→現場力がさらに劣化
ということになりかねません。
今すぐ廃止すべきです。
やるべきは、株式持ち合いを奨励する法律の制定です。
以前の記事でも提唱した資本提携促進法です。
株式持ち合いは、言葉を変えれば、資本提携です。
資本提携して何が悪いの?
資本提携を広範に進めることで、
(主に外国人の)株主の影響力を弱め、
人件費抑制、配当増加のプレッシャーを弱め、
給料を増やしたり、正社員の雇用を増やすように誘導する、
並びに、安易に海外に製造拠点を移させないようにする
のが、
資本提携促進法の主旨です。
(製造拠点を海外移転させないためには、円高にならないようにすることも必要です。
 ただし、外国から円安誘導をしている、と批判されないように注意が必要ですが。)
それと同時に、適切なデフレ対策を打ち、デフレを脱却すれば、
日本企業の現場力は再び強くなっていき、
日本経済全体も健全な成長を取り戻せるでしょう。
以前の記事でも述べましたが、
資本提携促進法は、少子化対策にも有効だと思うのです。

少子化の原因は、
婚姻件数の減少による出生数の低下。
婚姻件数減少の原因は、
非正規雇用の増加による収入の低下と雇用の不安定化です。

非正規雇用に頼る経営から正規雇用中心の経営へと転換させるためには、
株式持ち合いの復活は欠かせないと思います。
同時に、デフレから脱却すれば、
雇用の安定化と社員の給料の継続的上昇が実現できるでしょう。

ですから、
株式持ち合いの復活は、
日本企業の現場力復活と少子化の解決の両方に寄与すると思うのです。


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