麻生外交とスパイクマン理論 ~自由と繁栄の弧とリムランド理論~ | 朝倉新哉の研究室

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全ては日本を強くするために…

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/p/73/index1.html

からの引用です。

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麻生元外相の「自由と繁栄の弧」はものすごい思想攻勢

安倍晋三さんと麻生さんの意見が一致して、二人で取り組んだ「価値の外交」という概念がある。
日本から始まって、ベトナムを回って、シンガポールを通って、インド洋へ出て、
アラブ諸国に至るという、“お月様”みたいな弧があって、
それらの国々はみんな経済がうまくいっていて、繁栄している。
その繁栄の奥には「価値」があるということである。

価値とは、例えば「自由は尊い」ということ。
「民主主義は尊い」「言論の自由は尊い」「家族仲良く暮らそう」
「相手を侵略しない」「軍事力には金をかけない」といったことで、
それらの価値観が各国において共通していて、みんな繁栄している。

麻生さんはその「繁栄の弧」の上にある国々を回って、
「今の価値観でもっと一緒にやろう」という話をして大成功した。
そこで、それを「自由と繁栄の弧」と発表した。
しかし、日本ではそのことを誰も褒めていない。

中国やロシアはそれを脅威に思っているはずだ。
「自由と繁栄の弧」に囲まれたら勝ち目がない。
中国やロシアには、国内にそういう価値がまったくないのだから。

国内にないものを今からつくろうと言われても困る。
もしつくったら、共産党政権はなくなってしまう。
そうした意味で、麻生さんが発表した「自由と繁栄の弧」とは、実はものすごい思想攻勢なのである。
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自由と繁栄の弧
国家戦略研究
http://toriton.blog2.fc2.com/blog-entry-2206.htmlより転載


上記の引用記事を書いたのは、日下公人さんです。

「さすが」

と思わせる内容です。

「自由と繁栄の弧」には、思想攻勢という意味もあったとは…。

しかし、それだけではありません。

初めて「自由と繁栄の弧」という言葉を聞いたとき、私は、

「それって”リムランド”と同じことじゃないの?」

と思いました。

私に限らず、地政学の知識がある方は、

同じように思ったのではないでしょうか?

リムランドとは、アメリカの地政学者、ニコラス・スパイクマンが提唱したものです。

国家戦略研究
http://blogs.yahoo.co.jp/eraser1eraser/62658762.htmlより転載


アメリカは、1823年からモンロー主義と呼ばれる外交方針を採っていました。

”アメリカはヨーロッパ諸国の紛争に干渉しないから、ヨーロッパもアメリカに干渉するな”

という相互不干渉主義です。

アメリカだけの平和を保つなら、これでよさそうですが、現実にはそうはいきませんでした。

ヨーロッパには干渉しない方針だったはずなのに、

第1次世界大戦に、アメリカも巻き込まれました。

第1次世界大戦は、未曽有の大戦争で、

ヨーロッパでは今でも、The Great War と言うと、第1次大戦を指します。

犠牲者の数も、それまでの戦争より飛躍的に増えました。

毒ガスも史上初めて使われました。

そういう極めて悲惨な戦争であったため、

第1次大戦後のヨーロッパは、”平和万能主義”とでも言うべき”空気”が蔓延しました。


1938年のミュンヘン会談で、英首相ネヴィル・チェンバレンらは、

ヒトラーの要求をほとんど受け入れました。

国家戦略研究
ヒトラーと握手するネヴィル・チェンバレン
http://island.iza.ne.jp/blog/entry/1340757/より転載


これは現在では、”宥和政策”と呼ばれ、

「このとき譲歩したからヒトラーを増長させ、第2次大戦を招いたのだ」

と言われています。

しかし、当時は、

「これで戦争は避けられた」

と民衆は喜んだのです。

チェンバレンは、帰国直後、空港で、

ミュンヘン会談での合意文書を、誇らしげにかかげ、

「これで平和が保たれた」

と言いました。

国家戦略研究
文書をかかげるチェンバレン  
http://politician.prints.uk.com/ja/より転載


周囲にいた観衆は、拍手喝采を送りました。

国家戦略研究
チェンバレンを取り巻く民衆
ウィキペディアより転載


ウィキペディアにも

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これによって戦争の危機は回避され、
チェンバレンやダラディエ、ムッソリーニは熱狂的な歓迎で本国に迎えられた。
パリでは町の一つに「チェンバレン」という名前がつけられた。
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とあり、当時の”平和万能”の”空気”が窺えます。


しかし、それからほぼ1年後、第2次世界大戦が勃発します。

”平和を願うだけでは、平和は保てない”

スパイクマンは、そう確信したのではないでしょうか。

”こちらが干渉(侵略)しないのだから、相手も干渉(侵略)はしないだろう”

モンロー主義の根底には、そういう”消極的平和主義”とでも言うべきものがある

と思います。

(戦後の日本の平和主義=エセ平和主義とそっくりですね)

第1次と第2次の、2つの大戦の勃発により、

消極的平和主義では、平和は保てないことが明らかになりました。

必要なのは、むしろ

”やられる前にやる”

という考えだと、スパイクマンは気づいたのです。

スパイクマンは、南北アメリカ大陸を”西半球”と呼び、

それ以外を”東半球”と呼びました。

スパイクマンが亡くなったのは、1943年で、第2次大戦の真っ最中です。

ドイツ、日本というアメリカにとっての敵対勢力が、

東半球で勢力を伸ばしていました。

これを放置していると、西半球は包囲されてしまう、

という現実の脅威が存在していました。

国家戦略研究
東半球による西半球の包囲
『平和の地政学』 ニコラス・スパイクマン著 奥山真司訳 芙蓉書房出版 より転載

だから、

”西半球を防衛するためには、こちらから先に、東半球を包囲してしまおう”

という発想の大転換をしたのです。

西半球による東半球の包囲
国家戦略研究
『平和の地政学』 ニコラス・スパイクマン著 奥山真司訳 芙蓉書房出版 より転載


東半球に包囲される前に、西半球側が東半球を包囲してしまう、

”西半球による東半球の先制包囲”

これを実現することが、西半球を防衛し、平和を保つことになる、

とスパイクマンは考えました。

そのために、リムランドを押さえることが必要、と考えました。

リムランドとは、ユーラシア大陸の沿海部のことです。

国家戦略研究
http://blogs.yahoo.co.jp/eraser1eraser/62658762.htmlより転載


ピンク色の部分は、ハートランドと言い、マッキンダーという人物が考えたものです。

国家戦略研究
http://blogs.yahoo.co.jp/eraser1eraser/62658762.htmlより転載

ハートランドを支配した国は、必ず周辺に勢力を広げようとします。

だからこれを抑えなければならない、

とマッキンダーは主張しました。

スパイクマンは、西半球の防衛という視点からユーラシア大陸を眺め、

ハートランドの膨張を抑えるためには、リムランドを押さえることが必要だ、

そうすれば、東半球による西半球の包囲は避けられる、

と考えたのでした。

『平和の地政学』には、

リムランドのほうが、人口が多いとか、資源が多いとか、

(リムランドのほうが)条件がいいから、ここを押さえたほうが有利だ、

ということが書いてあります。

ハートランド側にリムランドを押さえられたあとでは、

ハートランド側が絶対優位になるので、西半球の防衛は不可能です。

そういう事態になる前に、リムランドをこちら(西半球勢力)が押さえて、

西半球包囲という最悪の事態を予防しようという考えなのです。

自由と繁栄の弧も、スパイクマンのリムランド理論を考慮に入れて考え出されたものです。

(”思想攻勢”という意味ももちろんあります)

ハートランド勢力にリムランドを支配されたら困る、

という点では、日本とアメリカの利害は一致しているのです。

・リムランドを日本に敵対的な国に支配させない

・リムランドは日本に友好的な国に支配させておく

日本の安全を保つためには、上記2つは鉄則なのです。

リムランドには、中国が含まれていて、中央アジアは含まれていない、
国家戦略研究
http://blogs.yahoo.co.jp/eraser1eraser/62658762.htmlより転載

自由と繁栄の弧には、中国は含まれていないが、中央アジアが含まれている、
国家戦略研究
http://toriton.blog2.fc2.com/blog-entry-2206.htmlより転載

という細かい違いはありますが、おおむね両者は同じと考えてよいでしょう。


モンロー主義という”消極的平和主義”が外交の基本方針だったということは、

アメリカも”平和ボケ”していたのです。

しかし、その誤りに気付いたアメリカは、

スパイクマンの理論どおりの外交方針をとるようになりました。

スパイクマンは、アメリカの目を覚まさせたと言えるでしょう。


平和を願うだけでは平和は保てない

麻生副総理も安倍総理もそれがわかっているからこそ、

自由と繁栄の弧の大方針に沿って外交を展開しているわけです。


日本も消極的平和主義(=戦後のエセ平和主義)を捨て、
積極的平和主義に転じるべきだ!

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