軍事ジャーナル(4月4日号)

 米大統領候補の一人と目されるトランプ氏が、日本と韓国の核武装を容認する旨の発言をして内外に波紋を広げている。だがこの人は極論を言って選挙戦を有利に運ぼうとする意図が明白であって、この発言も選挙戦のエピソードの一つだと言っていいだろう。
 オバマ大統領は、この発言に反論したが、今度の選挙に立候補しない現職の大統領が野党の候補者の一人に過ぎない人物の発言に反発したところに、この発言の本質が現れている。
 オバマは核安保サミット後の記者会見で反論したのだが、そもそもこのサミットは核無き世界を目指すと言ってノーベル平和賞まで貰ったオバマ大統領が、その公約実現の為に開催してきた。

 ところが1月に北朝鮮は4度目の核実験を実施した。2月9日の米上院情報特別委員会の公聴会でファインスタイン議員は「北朝鮮はウラニウム型とプルトニウム型と合わせて10〜20発の核兵器を保有している」と証言した。
 つまりオバマの核無き世界の公約は完全に破綻したのである。トランプは核安保サミットの直前に日韓核武装を容認する発言をしたわけだが、これはオバマに対する当てつけで「お前さんは核無き世界と言ったけど実際には北朝鮮の核武装を容認したじゃないか。だったら北朝鮮の核兵器に怯える日韓にも核武装を認めるしかないな」という訳である。
 オバマはトランプが「外交、核政策、朝鮮半島、世界をよく分かっていない」と批判したが、これは「核無き世界は、そんなに簡単に実現できるものじゃない」という言い訳であろう。

 米国の国防政策の現実主義から考えると、かりにトランプが大統領になったとしても韓国はともかく日本に独自の核武装を許すことはあり得ない。広島、長崎への原爆投下が国際法違反であり、従って日本は米国に核報復する権利があることを日本は忘れているが、米国はよく覚えている。
 もし日本が独自の核兵器を持てば、米国は毎日、日本にその権利を行使しないでくれと跪いて哀願しなければならなくなる。トランプもよくそのことを知っている上での選挙戦の一つのパーフォーマンスに過ぎないのである。