軍事ジャーナル(9月2日号)

 ロシアはしばしば北方の熊と呼ばれる。熊は巨体ゆえに動きが鈍そうに見えるが、実は素速い。案外臆病なところがあり、驚かすとあわてて走り去るが、遠くから獲物に狙いを定めると瞬く間に駆け寄って物にする。これはロシアの性格を言い当てている。
 ロシアは冷戦終了後、怯えた熊のように北方に引き籠った。だが熊の素速さを取り戻したのは2008年8月にグルジアに侵攻した時だった。世界中が大国ロシアの復活を実感したものだ。
 そのロシアの最大の国営石油企業ロスネフチが米石油最大手エクソン・モービルと提携して北極海の油田開発に乗り出すと言う。調印式にはプーチン首相も出席したというから、ロシアが最重要の国家プロジェクトと位置付けている事は間違いない。エクソンも私企業とはいえ現実には米国の国策企業と言っていい企業だから、米露同盟の礎がここに築かれたと見ていい。
 福島の原発事故はロシアにとっては追い風だった。反原発の声は石油天然ガスの価格高騰を導きロシア経済を潤すし、国内世論は抑圧されているから自国の原発は増設できる。米石油資本にも同様の読みが働き、資本提携となったに違いない。まさに21世紀のエネルギー市場の独占を狙っての米露提携であろう。
 折しも9月上旬にはロシア海軍は米海軍および海上自衛隊と合同演習を行う。ロシアの軍艦は舞鶴に立ち寄りグアム島周辺で米海軍と再び合同演習し、その後カナダのバンクーバーに向かうと言う。
 中国の空母就航を意識した動きである事は明らかだが、傲慢な中国に手を焼く米国に巧みに取り入って米露同盟への道筋を付けたと言える。昨年まで中露軍事同盟で米国を牽制していたロシアの豹変ぶりは特筆に値する。

 ロシアの戦略の特質はエネルギーと軍事を絡めている点にある。8月24日に開かれたメドべージェフ露大統領と北朝鮮の金総書記の会談では北の核実験凍結と同時に天然ガス・パイプラインの露朝さらに韓国までの敷設が議題となった。ロシアはもはや原発を増設できない日本にも天然ガスの売り込みを狙っている。
 ちなみにロシアはロシアの情報部員を金正恩の側近に置くように提案したそうである。19世紀後半、朝鮮王朝にロシアの勢力が入り込んだ時代を彷彿させる光景である。ロシアは既にフランス製の強襲揚陸艦の購入および極東配備を決めている。防衛目的を強調しているが強襲揚陸艦は敵地へ兵力を上陸させるための軍艦である。
 ロシアが空軍力の支援を得て上陸作戦を敢行できるのは日本海周辺すなわち北朝鮮、韓国そして日本である。