きらきら琥珀【前編】 | 虹色金魚熱中症

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それは太陽の欠片


きらきら琥珀【前編



 チャイムが長々と響いた。

時計塔を思わせる古びた鐘のようなその音は、無色透明に透り抜けて、ひたすらに広いこの屋敷のどこに居ようとも耳に入る。自分が知っているどんなチャイム音よりも大きく、どこか懐かしかった。もう聞きなれたはずのその音に肩がびくりと跳ねた。
 気だるげな昼下がり。お腹も満たされ、空調は完璧。ゆったりと流れるクラシカルな音楽に頬を撫でれられていれば、眠くなっても仕方がない。別段、頭を悩ますような作業もない上、たとえうたた寝をしていても叱りつけるような雇い主もいないのだから尚のことだ。
 そんな不真面目極まりない自分に気づいてか、雨宮はいつものおっとりとした微笑みを口元に飾りながら細い首を傾けた。
「来客の予定なんてないですよね」
 誤魔化すように早口で告げると、頭を掻きながらカレンダーに目を向ける。
随分と前に雨宮が購入してくれた自分用の机には、少し型の古いパソコンと卓上用のカレンダーが置かれている。手帳を持つような柄でもないので予定は全てカレンダーに殴り書いてあった。
 仕事に関して、赤のボールペンで記してあるのだが、他に黒字で自分の給料日と借金返済日、休日、あとはお取り寄せマニアである雨宮の為の宅配予定日などが、古代文字の様相で並んでいた。もはや自分でも読解できるのか怪しい。
 しかし、今月は先週末に終わらせた仕事が一件書かれているだけで、カレンダーは綺麗なものだ。珍しく宅配予定もない。もちろん予定がなくとも仕事が舞い降りてくることもある。
 部屋にあるインターフォンのカメラ画面を覗いたものの、そこに人影は無かった。首を捻っていると再びチャイムが鳴った。
「え? あ、はい、はい」
 人影は無いが確かにチャイムは鳴らされている。取り急ぎインターフォンのボタンをオンにして声を掛けるが応答はなかった。
「悪戯ですかね」
 そう言ってみたものの、わざわざこんな辺鄙な場所に悪戯目的で誰が来るだろう。

事務所というには違和感があるこの屋敷から、少なくとも五キロ圏内に民家はない。まして、映画のセットを思わせるようなこの屋敷に気後れせずにピンポンダッシュなどという不届き者の存在も考えにくかった。
 そうこうしているうちに催促するようにチャイムが響いた。無駄に考えるよりも、見てきたほうが早い。小走りで玄関横の使用人出口から顔を出すと、門のほうへ目を凝らした。
 自分の主である、雨宮泉(あまみやせん)の事務所兼自宅である屋敷は建物のみならず、庭も広い。

自宅に噴水があると答えられる日本人が、果たして何人くらいいるだろう。少なくとも自分の知る限りでは雨宮が最初で最後だろう。
 広いとはいえ目視は充分可能だ。剪定したばかりの庭木を掻い潜り、うまい具合に門までが見渡せた。敷地を囲う柵越しに影が見えた。その訪問者らしき人影に首をかしげながら、門扉へと走って向かった。




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