ウソコク【15】 | 虹色金魚熱中症

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虹色金魚の管理人カラムが詩とお話をおいています。

拙いコトバたちですが読んでいただければ幸いです。

知ってたのに。私は何で驚いてしまったの。

 
 

ウソコク【15

 

 放課後だというのにまだまだ日は高い。夕暮れにはまだまだ早く、上谷君は暑い暑いと文句を言いながら額を拭っている。そんな姿をこうやって眺めるのが当然になっている自分に気がついて、何故だろう、気恥ずかしさを感じて、それを隠すように慌てて声をかけた。

 
 「なんだかんだで、上谷君ってかっこいいよね」

 
 帰り道、並んで歩きながらそんなことを言うと困ったような笑みを向けられた。彼の照れ笑いはよくよく見ると可愛い気がする。男子に可愛いは失礼だろうか。

 
 「上谷君ってもてるんだね」

 
 「ホントに何。急に」

 
 照れた顔を無理に隠した真面目な顔で見返してくる。なんとなしに言ってしまった言葉にどうしようかと小さく迷った。
 

 ここで体育館裏呼び出し事件のことなんて話したら、片原さんたちのイメージ妨害になるだろうか。
 

 結局、名前を伏せて簡単に話した。今のうちに言っておいたほうがいいような気がしたからだ。わりと面倒見がよくて、わりと格好いい上谷君に関わっていたら、ああいうことがこれからもありそうだ。

 
 「なんか……周りはいろいろ思っているみたいだよ」

 
 ついさっきコンビニで購入したアイスをかじる。バニラをコーティングしたチョコがパリッと音を立てた。上谷君や小金沢君と帰ることも多くなって、買い食い、立ち食いが増えてしまった。

 
 これって、悪影響っていうのかな?

 
 けれどそれも悪くないと思っている自分がいる。

 
 「奈央や美弥だっていつもいるのに。私だけなんだよ。呼び出されたの」

 
 困った困ったと冗談めいて言いながら、彼を見上げるといつの間に食べ終わったのか彼のアイスは棒だけになっていた。棒から彼に視線を上げると、珍しく黙ったままの上谷君が立っていた。

 
 教室では真っ黒にしか見えない瞳と髪が、外では不思議と色を変える。彼の目も髪も光を取り込んで、薄く茶色がかって見えた。
 そんなこと、随分と前から気づいていたくせに小さく叫んでしまいそうなくらいに驚いてしまった。そんな自分に戸惑ってしまう。

 
 彼は真直ぐに私を見ている。

 
 たったそれだけの、その視線にすごく焦った。鼓動というよりは締め付けられるような、窮屈な感覚が体中に広がる。困ったように視線を泳がすと、彼もついっと視線を逸らしてくれた。
 逸らした先、自販機横のゴミ箱にえいと投げられたアイスの棒は軽い音を立てて見事に箱へと収まった。いつもならそこで振り返ってガッツポーズ。

 
 なのに上谷君は振り返っても、笑ってもくれなかった。

 

 
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