ウソコク【13】 | 虹色金魚熱中症

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虹色金魚の管理人カラムが詩とお話をおいています。

拙いコトバたちですが読んでいただければ幸いです。

君との関係

 
 

ウソコク【13

 

 

 まさか体育館裏に呼び出されようとは。

 
 暗鬱な現実から遠ざかるためにぼんやりと天を仰いだ。雲ひとつない空は体育館と校舎の隙間からしか見えない。視界に伸びた青い隙間。青い線。折り紙を切り取ったようなその色に一瞬、夢かもしれないと瞬きをした。

 視線を戻すと夢だと思える要素は一つも無く、腕を組んだ女子が三人、灰色の壁を背にまるで果し合いでも挑んでくる形相でこちらを見ていた。

 
 ――私っていつからいじめられっこになったのかな。

 
 振り返っても思い当たる節はなかった。
 

 移動教室から帰って来ると仕舞っていたはずの教科書が一冊、これ見よがしに机の上に置かれていた。首をかしげて手に取ると、教科書に挟まれてい二つ折りのメモ紙がひらひらと足元へ降りていった。

 

 『放課後、体育館裏で待ってるから』

 
 ファンシーなピンク色の手紙にしては味気ない一文で、まるで果たし状みたいに見えた。その差出人を前にしても彼女らの顔と名前もあやふやで、三人に向かって首を傾げることしかできない。
 逆三角形のような配置で先頭に立つ少女が、更にずいと一歩前に踏み込んだ。その意志の強そうな眉を見て、彼女のスコート姿が浮かんだ。
 

 ああ……片原さんだ。

 
 テニス部員だったかなと薄くて曖昧な記憶を辿る。ぼやけた思考の私をおいて、彼女はつんけんと尖った物言いで眉を上げた。
 

 「あのさ、小波さんたちって付き合ってるの?」

 
 捕食者ぜんとした眼差しの彼女は早口で瞬きもしない。猫みたいに少しだけつりあがった大きな目が私を見ていた。

 
 「たちって……」

 
 漏れた言葉に噛み付くように今度は一歩後ろの女子がキャンと吼えた。

 

 「上谷君のこと!」

 
 勢いあまって裏返った声に、ひょろりと背の高い少女は顔を真っ赤に染めた。その横ではまるで壊れた人形のように首を縦に振り続けている小柄な女の子がこれまた真っ赤な顔をしていた。
 当事者じゃなければ充分に滑稽なこの場面、笑っていいような気すらした。それをぐっと堪えて眉を寄せた。

 
 「上谷君……が?」

 
 「だから! 小波さんは上谷君と付き合ってるのかってきいてんの!」

 
 苛立ちを露に、片原さん輪をかけた早口を伴って睨んでくる。ようやく彼女たちの言いたいことが理解できて、ゆっくりと瞬きをした。

 
 「ああ、なんだ」

 
 なるほど、と一つ頷いて三人の顔を順番に見た。この中の誰が上谷君を好きなのかは知らないけれど、つまりそういうことだ。

 
 小さく微笑み返すと何故か三人がつばを呑み込んだ。まるで死の宣告でも受け取るような面持ちだったものだから長引かせるのは良くないと、間をおかずにさらりと返した。答えは決して嘘じゃない。

 
 「付き合ってないよ、私」

 
 今でこそ言われないけど、クラスの女子にも同じことを聞かれたことがある。奈央は男子にも聞かれたと言っていた。けれど今ではクラスメイトの関心も薄くなっている。
 多分、ただの 「友達」 なんだと認識したからだろう。

 
 「もう、戻ってもいいかな」

 
 もう一度微笑む。三人にとって一番良いはずの答えを返したのに、後ろの二人はうろたえるように目をあわせた。まるで予期してない言葉だといわんばかり瞬きを繰り返している。私には分からないだけで、瞬きで会話でもしているのだろうか。
 

 もし、『付き合ってる』 なんて答えてたら私……何かされたのかな。

 
 妙な沈黙に笑顔が少し固まった。けれど、片原さんだけは私の返事を飲み込んで薄く笑った。
よく見ると綺麗な顔立ちをしている。けれどその笑みはどこか薄暗く感じてじわりと手に汗をかいた。

 
 「……そう。よかったぁ。だよねぇ。そうだとは思ってたのぉ。だって小波さん、彼氏いるもん、ね」

 
 最初よりもぐんと落ち着いた声には、何故か甘みまで含まれたようだ。そのべたつく声がよく知っている図書館の名前を挙げるのを受けて、
勝手に背筋が伸びた。

 
 「ちょっと前までね、私のお姉ちゃん、そこでバイトしてて。私、行ったことあるんだけど」

 
 血液が流れるように動悸が体中を這っていくのを感じる。

 
 「小波さん、彼氏とデートしてたでしょ」

 
 無表情の私に片原さんは意味深に口端を上げた。

 

 
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