ドライバーH氏とチョロンに行った後、

私は、D氏の家に行き、

若い親族が10人程集まる中、
楽しい時間を過ごしました。

そして、次の日の夜も、皆で会う約束をしました。

そんな訳で、翌朝。

私は、ホテルに来たドライバーH氏に
「夜に約束があるので、夕方までなら大丈夫」
と伝えて、出かけることにしました。

ただ、昨日、安全に過ごせたからといって、
今日もそうだとは限りません。

小心者の私は、夕方まで大丈夫、と話した直後に

拳を握り小指だけを立て、
約束のジェスチャーをしながら、

 

「約束してほしいことがある。
 

友人と約束しているので、夕方の5時までに必ず、

無事にホテルに戻ってほしい。
 

それから、私は、この旅を無事に終えて、

家族の住む日本に帰りたい。
 

だから、無事にホテルに戻ってほしい。

 

約束を守るなら、行く。」
と伝えたのでした。

同じジェスチャーをしながら
「約束する」
と答えたH氏。

じゃあ、どこに行こうか。
 

特に希望がなかったので、
「ミトーに行こう」という、
H氏の提案に乗ることにしました。

でも、この時、ちょっと思ったのです。
「あれ。ミトーってカントーよりも遠くなかったっけ。」

こういう、自分の中で生まれた疑問って、
本当は無視したらダメなんですよね。

「でも、ドライバーのH氏が言うなら、行ける場所なんだろう」
勝手に解釈した私は、H氏に問いかけることなく、
ミトー行きに合意したのでした。

途中、私は、例のカフェに寄り、日本人の店長Sさんに
「今日、ちょっと出かけてきます」
とだけ伝えて、手持ち現金を入れた財布を預かってもらいました。

私のハラマキの中には、
パスポートと150ドルの入った、ねぶた財布がスタンバイ。
 

当時、ベトナムの平均月収が50ドルと言われていたので、
150ドルあれば大丈夫だろうと思ったのです。

ドライバーH氏には、
「財布はカフェに預けたから、支払いは、ホーチミンに戻ってから。」
と伝えました。

「大したお金は持っていかない」と知らせることで、、
犯罪の可能性を減らして、自分の身を守りたかったのです。

バイクが走り出し、しばらくしてから目の前に広がった
日本では見ることのない光景は、今でも忘れられません。

舗装がされていない、信号がない道路に、砂埃が舞う中、

おびただしい数のバイクが、進んで行ったり、交わったりしています。


バイクに乗っている多くの女性は、

帽子や腕カバー、マスクなどをしているのですが、

私はTシャツ一枚で無防備な状態。
まあ、いいんだけれど。

風を切って走るのは気持ちがいい。


そんな感じで進んで行くと、人だかりが見えました。
バイク同士が衝突したのか、

転倒した男性が、頭から血を流して亡くなった状態で

道路に横たわっているのが見えました。

青ざめた私は、運転しているH氏に向かって、
「気を付けてくれー気を付けてくれー気を付けてくれー」
念仏のように、ささやき続けました。

それがうるさかったのか
しばらくすると、バイクは右折。
 

野外カフェで、休憩することになりました。

睡眠薬などをを入れられるのを防ぐため、H氏に
「私の目の前で、飲み物の蓋を開けてほしい」
と伝えたのですが、

笑顔の素敵な女性が持ってきた瓶入りの飲み物は

丁寧に蓋が開いています。

「これ、大丈夫かな。

多分、大丈夫だと思うけれど・・」
疑っていると、キリがないけれど、

自分の身は自分で守るしかないしね。
 

結局、一口、二口飲んで、

あとは持ってきた水に切り替えました。
 

H氏といろいろ話をしつつ、

落ち着いた所で、再びミトーに向かいます。

ミトーに到着したのはおよそ4時間後。
一日が終わった気分だ。

ここから(小型)ボートに乗るという話になり、
業者の所に連れていかれました。

H氏と男性がニコニコして、
一艘50ドルと言っています。

「50ドルって・・平均月収じゃ・・。」

瞬時に思ったのは、
実際はどうかわからないけれど、
業者とH氏はつながっているのかもしれないということ。

 

だとしたら、マージンが発生している可能性はある。
もし値切ったら、双方に入るお金が減る・・。

うん。

ひとまず、落ち着こう。
 

「ちょっと待って。その前に、トイレに行ってもいい?」

そう声をかけて、トイレを借りました。
恐らく業者さんの家のトイレ兼お風呂。
 

一人になり、お守りのねぶた財布を触りながら、

どうするのかを考えました。

ボートに乗らないといったら、双方にお金が入らない訳で・・。
 

逆上して、川に投げられたり、帰り道の道路で何かあっても困るな。

この時、初めて、
「私が今日、ミトーに来ていることを、誰も知らない。」
と気づきました。

そうだ。
私は、無事に日本に帰るんだ。
 

たかだか10ドルを値切って、危険な目にあうのは、割に合わない。
「50ドル出し渋って、殺された」なんてシャレにならんわ。
誰も私を探せないし、行方不明者になってしまう。

「とにかく無事に帰る」
そう思った私は、ねぶた財布から50ドル抜き取り、
何食わぬ顔で二人の元に戻り、

50ドル払って、ボートに乗ったのであります。
 

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