『暁の寺』 三島由紀夫 | Talking with Angels 天使像と石棺仏と古典文献: 写真家、作家 岩谷薫

『暁の寺』 三島由紀夫

暁の寺1 この本は2部構成になっています。1部は、第一巻、第二巻の各主人公である、清顕、勲の3度目の生まれ変わりである、タイの女王、7歳のジン・ジャン姫との再会と、タイ、インド紀行になっています。
 誰が再会なのかというと、清顕、勲の生まれ変わりを、その人生に関わりながらつぶさに青年の頃から目撃し続けていた47歳になる本多という弁護士です。『暁の寺』の主人公はこの本多です。

 第2部は、58歳になった本多が、18歳になったジン・ジャン姫と日本で再会し、その姫に邪に恋いこがれる変態物語です。笑

 第1部は、非常にいいです! 
 十代の頃、これを読んだ時は、タイの情景などテレビや写真等では知っているけれど、いまいち想像出来ず、三島さんがいくら言葉を労しても、どうもイメージが湧かず苦労したものです。でも今となっては、タイの暁の寺にも訪れたことがあるので、三島さんがどの風景を語っているのかもよくわかり情景が華やぎました。
 そして7歳のジン・ジャン姫との再会。ジン・ジャンは前世、勲であったことをはっきり憶えており、本多に泣きながらしがみつくシーンは、素直に泣きそうでした。
 私にとっては『春の雪』『奔馬』供、興味の無い辛~い人生のような読書だったので、その苦労もしのばれ余計に涙が!爆!

 それよりも良かったのは、三島さんの、転生論です。
 第二巻『奔馬』の中に『神風連史話』が入れ子として歴史書が入っていたように、第三巻『暁の寺』では、本多の口を借りて、三島さんの転生論が延々と語られています。
 十代の頃は、必死で解ろうとしてなかなか解らない難解な文章でしたが、今では、私がこれまで長年、写真集や自分の為に培ってきた文化人類学や仏教の知識を総動員すると、8割~9割はなんとか解るのがすごく楽しかったデス。
 読みながら「これよ~、コレコレ!私が待ってたのは…」とニマニマ呟いてしまうほど。
 私の好きな、「識者、三島由紀夫」「評論家、三島由紀夫」全開。 小説家としての三島由紀夫は、あまり好きではないが。

 こんなブログで、その長い転生論を要約することはできないけれど、西洋にも目立ちませんが昔から転生論があったことがよく解りました。転生論は、キリスト教では基本否定されがちなので、どうだったんだろうと気になっていたところだったのです。

 この転生論を読んでいると、私が、三冊目の天使の写真集で書こうとしていたことも部分的に含まれており、三島氏とある面、同じ視点の良書なんだけどなぁ~と、歯がみしたくなる思いも……
 編集者は解らんのかね… いや、解っている人々も多くいるのですが、良い本だけじゃ出版出来ないんですよ… 出版はどうしても経済活動ですから。特に写真集は経費がかさむので。 もったいないことに……

 話を小説に戻し、本多はタイから転生論の本場であるインド、ベナレスへ向かいます。そこでの、ヒンドゥー教の生け贄のシーン、ベナレスでの死人の野焼きのシーン、ガンジス河に流される子供の死体などを見て、生命の深遠な混沌を感じるのです。
 これらの描写はすごくいい!なかなかこういう経験はできませんからね。
 アジャンタでは『豊饒の海』で象徴的に出て来る滝のシーンが再び。仏教書の『唯識三十頌』(ゆいしきさんじゅうじゅ)には阿頼耶識(あらやしき)のことを「恒に転ずること暴流のごとし」と書かれてあり、阿頼耶識の恒常性と、今、今、今、今の連続が時間になっていることを示しています。
 これを読んで、一時期、横尾忠則さんが、滝の作品を沢山創っていたのは、この『豊饒の海』の影響ではないか?と思ってしまいました。
(追記:そー言えば滝のシーンは、以前、指摘しましたがトーマス・マンの『魔の山』にもあったな。市ヶ谷の光景とオーバーラップするのですが。また、本多の立場は、トーマス・マンの『トニオ・クレーガー』を思い出した。勿論、三島さんはトーマス・マンも大好き。)

 
 それに引き換え第二部は、愚劣……。変態、三島由紀夫。全開。笑
 一時期は裁判官にまでなって、私も信用していた理知的な本多さんが、ただの覗き魔に…。
 自分の別荘の、部屋に覗き穴を作って、隣の部屋に泊まる、ジン・ジャンを覗くという、ほとんど性犯罪行為…。
 法律の生粋のプロがそこまでやらないと思うのですが… 三島さんは法律家だからこそみたいなこと書いてますが?? そうしないと面白く物語りが書けなかったのか… 悪趣味…。

 フランス文学や、谷崎潤一郎、トーマス・マンの『ベニスに死す』の悪い影響かと。笑。 

 興味深いのは、18歳になったジン・ジャンが、前世の記憶を一切、忘れてしまっているところ。これは、あり得そう!
 よく子供は5~6歳児くらいまでなら、前世の事を語ることがあると『新釈 中国古典怪談』でも書いた通り。

 でも、たとえ忘れていても、前世でこれだけの縁があれば、お互い必ず何か魅かれるものはあるはずで、老人の歪んだ性描写よりも、そっちを書いて欲しかったと思うことも。
 
 そして、変態な本多さんから離れて、ジン・ジャンはタイでコブラに噛まれて再び20歳であっけなく死んでしまうのです。おわり。

暁の寺2
 装丁も、絹張りの深紅でとても美しい本です!!
 本に貼っているピンクの付箋の多さからも、私がこの本の第1部をどれだけ楽しく読んだかが解ります。今まで舞台が陰鬱な日本ばかりだったのが、タイとインドに変わり、エキゾチックになったのもとても良かったです。本に太陽の光を感じます。
 この第1部のみが、今のところ『豊饒の海』の中でやっと、読んでいて楽しいと思える読書なのでした。疲。

 あと、もう一冊ぅ… がんばって読んでみますかぁ……よくここまで来たものです。笑

 あっ、そうそう、今晩の歴史秘話ヒストリアは『遠野物語』だね!見てみよ。笑
 獣姦の話が、写真になってるね!笑
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