始関正光裁判官(36期部総括)のクラブママ枕営業判決の衝撃 | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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 法律家の常識を覆す(といってもよい)、破壊力のある東京地裁2014/4/14判タ1411号312頁(控訴無く確定、ちなみにYは本人訴訟です)が、SNSで話題になっている。
 破壊力抜群すぎて、あまり巧みに解説するとあらぬ誤解を招き、自爆しかねないので、判決文や解説文を簡略に紹介するにとどめる。

 クラブのママである被告Yと、クラブの顧客だったAとの間に、7年間にわたる継続的な不貞行為があったことより、精神的苦痛を被ったと原告X(Aの妻)がYに対し400万円の慰謝料を請求した事案である。
 AとYとは、月に1~2回の頻度で土曜日に昼食をとった後、ホテルに行って夕方に別れるというパターンを繰り返していた。AはYのクラブに月1~2回には定期的に通い、同業者を連れていくこともあったという優良顧客であった。
 YはAとの不貞行為の存在そのものを争っているが、裁判官は「仮にAとYの間に継続的な不貞行為があったにせよ、、、Xとの関係で不法行為は成立しない」と説示した理由づけに、ものすごい破壊力がある。

1、AとYとの性交渉は典型的な枕営業に該当する。
2、一般に、夫婦の一方の配偶者Aと肉体関係を持った第三者Yは、故意または過失がある限り、配偶者Aを誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、AY両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者Xの夫または妻としての権利を侵害することになり、その肉体関係は違法行為となり、他方の配偶者Xの被った精神上の苦痛を慰藉すべき義務がある(最高裁1979/3/30判タ383号46頁)。

3、しかし、ソープランドに勤務する女性のような売春婦Zが、対価を得て妻Xのいる顧客Aと性交渉を行った場合、当該性交渉は当該顧客Aの性欲処理に商売として応じたにすぎず、何らAX間の婚姻共同生活の平和を害するものではないから、たとえそれが長年にわたり頻繁に行われ、そのことを知った妻Xが不快感や嫌悪感を抱いて精神的苦痛を受けたとしても、売春婦Zは妻Yに対する関係で慰謝料支払義務を負わない。最高裁1979/3/30は枕営業であっても、女性YはAの妻Xに対する関係で不法行為を構成すると説示したものではない

4、ところで、クラブのママやホステスが、自分を目当てとして定期的にクラブに通ってくれる優良顧客や、クラブが義務づけている同伴出勤に付き添ってくれる顧客を確保するために様々な営業活動を行っており、その中には、顧客の要求に応じて性交渉をする、いわゆる枕営業と呼ばれる営業活動を行う者もいることは公知の事実である。


5、クラブのママYが枕営業として顧客Aと性交渉を反復継続したとしても、売春婦Zの場合と同様に、顧客Aの性欲処理に商売として応じたにすぎず(枕営業の対価は顧客がクラブに通って馴染み客として支払う代金の中に間接的に含まれている)、何らAX間の婚姻共同生活の平和を害するものではないから、そのことを知った妻Xが精神的苦痛を受けたとしても、妻Xに対する関係で不法行為を構成するものではない。
 原告Xが挙げる大阪高裁2009/11/10や最高裁1979/3/30、さらには、最高裁2006/3/26判タ908号284頁は事案を異にする。

 おまけに、説示の中には、ソープランドと枕営業の違いは、前者は性行為に対する対価が直接的に支払われるが後者はそうではないとか、後者は顧客を女性の意思で選択できるが前者はそうではないとか、両者の違いを真面目に論じている箇所もある。
 
 破壊力の所在は、始関裁判官が、多くの法律家が2☆から導いてきた伝統的見解(=慰謝料支払義務は、AY間の性交渉に自然の愛情があるかないかで変わるものではない)を、3★でひっくり返した点にある。
 普通の夫婦関係なら、夫が売春婦と家庭外でしょっちゅう性交渉していたら婚姻共同生活の平和は害されるはずなのだが、そうではないといいきるところも、ものすごく特徴的。
 仮にソープランドの場合、妻は性交渉した女性に賠償請求できないと結論付けるにせよ、まだ正当業務行為による違法性阻却という法律構成をとったほうが、伝統的見解になじむのではないか。
 その物差しを使うなら、本件のクラブのママYの枕営業が果たして正当業務行為の範疇にあるのかという判断も可能だから。
 もっともクラブのママやホステスによる枕営業が行われるのは公知の事実といいきられてるから、この裁判官にかかれば結論ありきの議論になっちゃいそうだけど

追記:原告X代理人青島克行弁護士に朝日新聞がインタビューしたようです
 《裁判ではX側は不倫だと訴えたのに対し、Yは性交渉の事実を否定している。双方とも主張していない枕営業の論点を裁判官が一方的に持ち出して判決を書いた。訴訟も当事者の意見を聞かず、わずか2回で打ち切られた。Xの意向で控訴しなかったが不当な判決だ》
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