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望みすぎていることは分かっていた。
それでも、傍にいられるだけで十分だと言い切れるほど私は謙虚じゃいられなかった。
私にとってそうであるように、亮司さんの特別になりたかった。
想いはいつだって溢れそうになるけれど、その度に裏切れない姉の顔を思い出して息を止める。
いっそそのまま呼吸を止めて死んでしまえれば楽なのに。
それなのに苦しみに耐えきれずに私は息を吸ってしまうのだ。
――貴方の愛を求めるように。
「亮司さん。」
名前を呼ぶと書類を見つめていたはずの顔がすぐに私に向く。
それだけで優越感。
「お茶、淹れましょうか?」
半分も残っていることは知っている。
私のカップのお茶は今飲み干したばっかりで、まだじんわりと熱を持っていた。
亮司さんは少し逡巡したけれどお願いと言ってくれた。
私は浮足立ってお茶を用意する。――まるで夫婦のようだと浮かれながら。
擬似的状況に浸るくらいは許してほしい。
そうでもしてないと、引き戻されてしまいそうなのだ。
私はお嫁さんどころか恋人にもなれないという事実と、亮司さんにとっては妹でしかないという笑えない現実に。
諦めることは不可能だった。
そもそも好きにならないわけがなかった。
この村の中で何のしがらみもなく私を愛してくれたのは彼だけだったのだ。
――たとえそれが友愛でしかないと知ってしまっても、私はその愛を手放すことができなかった。
だってそれを失くしてしまったら、私を愛してくれる人が誰もいなくなってしまう。
愛されないことほど恐ろしいことはないと、私は知っている。
孤独な日々の中で唯一の救いの場所で、私は恐怖と戦っていた。
一歩間違えば崩れ落ちてしまう、この幸せな日々の中で。
「お母さんは元気?」
お茶を飲みながら亮司さんは尋ねた。
「最近はちょっと疲れてるみたいです。梅雨が近いからでしょうか。」
梅雨のじめじめとした空気も私の憂鬱に拍車をかけているのかもしれない。
もう少し待てば夏が来て、この背徳がかった想いもマシになるのだろうか。
私は愛してほしいのだ。誰かに。誰でもいいから。
嘘、誰でもじゃない、特別な人にだ。その特別な人になってくれるのは亮司さんしかいない。
だって他に私をただの私として愛してくれる人なんていない。
何か気がかりがあるのか亮司さんは表情を曇らせ、窓の外に目をやった。
私もつられて窓に目を向ける。
――窓に映っている私の目は、確かに私を見つめていた。
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あとがき
珠洲を書こうとすると、無印を意識した繊細で不安定な少女が出来上がることがあります。
無印の亮司もなかなかすっとんだ発想をする方でしたが、これは真の亮司をイメージしています。ややこしい。
いい加減活用しようと昔上げたメモをタイトルに使いましたが、出来上がりかけたところでつけたのでお題ではないです。