なぜ私は、MTBで走り続けるのか(その5)
「おはようございます。」
「良く眠れたかい?」
「おかげさまで、久しぶりに熟睡できました。本当にありがとうございました。」
「あの~、お父さんは?」
「もう仕事に行ったよ。あの人は朝が早いんだよ。」
そう。じっちゃんは、もういなかった。
不思議と自然に出た、「お父さん」という言葉。
「いいんだよ。親子なんだからよう。」
どか声で笑う、昨夜のじっちゃんの顔。
じっちゃんがいなくて、少し淋しかった。
ずうずうしくも、温かい朝げをお腹いっぱいいただき、
そして、家を出た。
「お父さんに、よろしくお伝えください。
また、いつか戻ってきますからって。」
「そうかい、体に気を付けてや。」
「はい。お母さんも。」
お母さんは、姿が見えなくなるまで、ずっと手を振ってくれていた。
お母さんの姿が見えなくなって、
そして、涙を拭った。
空は、雲一つない、紺碧色だった。
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「ただいま。無事、帰ったよ。」
苫小牧港から大洗港までのフェリーのデッキで、
10日あまりをかけた北海道自転車旅行のことを振り返る。
帰りは独りだから、他にすることもなく、思いにふける時間はたっぷりあった。
広大な大地を駆け抜けた日々。
初めて覚えた煙草の味。札幌。
自転車を折りたたんで、電車にも乗った。石狩。
2度パンクもした。旭川。
無人駅のベンチでも寝た。根室。
大きな公園で一夜を過ごしたりもした。釧路。
大地に消えゆく太陽に向かって走り続けた。十勝。
ミツバチ族ともたくさん出会った。帯広。
そして、じっちゃんとの出会い。千歳。
行きとは何だか違う自分が、そこにいるような気がした。
「ただいま。無事、帰ったよ。」
大洗港のゲートをくぐると、帰りをずっと待っていてくれた
家族が出迎えてくれた。
「おかえり。」
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ここまでお読みいただきありがとうございます。次の更新は1週間後??人生は徒然なるままに。