なぜ私は、MTBで走り続けるのか(その3)
「待てない。行くしかないな。」
茨城県の田舎からやってきて、北海道を1周する旅も7日目を過ぎた頃、
所持金もギリギリとなり、翌日には苫小牧からフェリーに乗らなければならない状態に追い込まれた。
私は、当時ではまだ珍しかったスコットバーをあしらえた、トライアスロン用のバイクに乗っていた。
スカイブルーのシャフトで、漕ぎに心地良い粘りと反発があって、最高のドライビングを提供してくれた。
1日250km走った日もあった。
この日も、できるだけ苫小牧港の近くまで到達しておきたかった。恐らく200km近くは残っていただろう。
午前中は爽快だった。ところが、午後になってどでかい積乱雲が迫ってきていた。
「こりゃ来るな。」
案の定、けたたましい雷鳴が鳴り響く中、休まずペダルを扱ぎ続ける。
今にも背中に雷が落ちそうな音だ。
大粒の雨が一粒、顔を叩いた。そうなるともう一気にバケツがひっくり返されたような土砂降りとなった。
自転車ツーリングにとって、雨は大敵だ。
荷物は着替えも含めてびしょびしょになるし、それ以上に車が高速で行きかうロードは、命の危険さえある。
通常ならば、雨宿りをするところだ。しかし、この日は行くしかなかった。
槍のような雨が、顔を突き刺す。特に目が痛くて、見開くことができない。
この分だと、着替えは全て水浸しだ。ナップサックが雨で重くなっていくのが分かる。
それでも側道を時速40km近くで突っ走る。体中はもうボロボロで、意識も朦朧としてきた。
その数十センチ脇を大型トレーラーがクラクションを鳴らしながら追い越していく。
何台も、何台も。
「こいつに巻き込まれたら、俺はここでお陀仏だ。それもまた人生か。」
体は冷え切り、筋肉も悲鳴を上げていた。そういえば、昼食も摂っていない。
私は、明らかにゾーン(言葉では説明のできない未知の状態)に入っていた。
体が軽い、軽いのだ。
ひょっとしたら時速50km近く出ていたかも知れない。
「俺は生きている。こうして自分の力で生きている。」
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「おい、おいあんた。」
突然、聞こえてこないはずの右肩後方から、男の人の声がした。
「おい、あんた。乗っていくかい?」
それは、ばかでかい大型トラックの運転席からだった。
真黒に日焼けした人の良さそうなじっちゃんだった。
荷台には、確か建設機械のようなものが積んであった。
「え?いいんですか?」
「なんでこんな雨の中走ってんのさ。何か事情はあるんだろうけど、あぶねえよ。」
「あ、ありがとうございます。宜しくお願いします。」
そのばかでかい大型トラックは、ハザードを付けてゆっくりと左に寄って、そして止まった。
「とりあえず荷台にその自転車乗せな。」
突っ走って、硬直した足がガクガク言っていた。自分の身長よりも高い荷台に愛車を乗り上げた。
バケツ一杯分くらいは絞れるんじゃないかというくらい雨を吸い込んだ荷物を助手席に放り込み、
そして私は、そのじっちゃんのトラックに乗り込んだ。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。次の更新は1週間後??人生 は徒然なるままに。