山本尚利氏コラムから | 若干蛇足

若干蛇足

世界・国・個人レベルを問わず:嘘・インチキ・騙しに反応します。

ベンチャー革命2008年1月27日
                           山本尚利
タイトル: 石油・穀物・防衛の国家戦略見直し急務

1.「成長の限界」が現実に
2008年1月26日、福田首相がダボス会議(世界経済フォーラム、スイス)に出席、地球環境問題について日本の方針演説(CO2排出削減の国別総量目標提案など)を行いました。本年7月に予定されているG8洞爺湖サミットにおける日本の議長国方針を事前に、ダボス会議で予告する格好となりました。
欧米各国のCO2排出削減要求に迎合するかのように、2007年10月、経済産業省は液化CO2の大規模地下貯蔵計画を発表したというニュースがありましたが、欧米各国の真の意図を考慮して、十分、慎重であるべきです。日本は原発大国かつ地震大国ですから(注1)。
 ところで筆者は1986年より2003年まで16年半、米国シンクタンク、SRIインターナショナル(スタンフォード大学系)に所属していましたので、ダボス会議と聞くと、すぐにローマクラブを連想します。ダボス会議は、どうもみてもローマクラブの発展的組織体にみえるからです。80年代当時のSRI幹部はローマクラブのメンバーでした。だから当時の筆者はSRIにてローマクラブの話題をよく聞かされていました。ローマクラブの成果とは、有名な「成長の限界」(1972)という報告にあります。このまま世界経済が成長していけば、石油消費が急増、地球環境が悪化して、21世紀前半、地球は破局を迎えるだろうという警告(一種の黙示録)です。外務省エネルギー統計資料によれば、1971年に世界の一次エネルギー消費量55億トン(石油換算)が2004年には112億トンと急増しています。特に、高度成長の真っ只中にある中国やインドの石油消費量が今後急増すると予想できます。現実世界は確実に、ローマクラブの予測どおりに推移していることは確かです。
 「成長の限界」によれば、中国、インドの高度経済成長が達成されれば、地球はエネルギー環境面で破局に向かうことになります。非常に深刻です。

2.世界の原油価格は誰かにコントロールされているか
さて、筆者がSRIにて修得した技術経営論(MOT)の骨格には、デシジョン・アナリシス(経営意思決定論)、シナリオ・アナリシス(ハイリスク経営事業環境予測法)、リアルオプション・アナリシス(技術価値評価法)に加えて、VALS(Values And Lifestyles)という(市場価値観分析プログラム)が存在します。これらの方法論は相互に関係します。
「成長の限界」報告と同時期、70年代初頭、SRIのフューチャリスト、ピーター・シュワルツ・チームは欧州石油資本、ロイヤルダッチシェルから委託されて、石油危機シナリオを開発しました。そのシナリオはずばり的中。1973年、第4次中東戦争勃発をトリガーに、1974年、第一次オイルショックが世界を襲いました。1バーレル、数ドルに過ぎなかった原油価格が一挙に10数ドルに高騰、1979年の第二次オイルショックでは30数ドルまで上昇しました。オイルショックを的中させたピーター・シュワルツは一躍、世界的に有名となり、現在、シリコンバレーで高名なフューチャリストとなっています。その後、21世紀に変わるまで、原油価格は20ドル近辺で安定化しました。クリントン政権時代、米国のガソリンは1ガロン(3.78リットル)、1ドル近辺と日本のガソリン価格の3分の一でした。国際金融資本に支援された民主党クリントン政権は、共和党系の軍事・エネルギー系寡頭勢力(戦争屋)を牽制し、米国を石油経済から金融・サービス経済に移行させたのです。そのために、石油価格をw)€ツ磴・泙┐拭・箸海蹐・☆・屋葦年、ブッシュ政権誕生とともに、再び、原油価格が高騰、2007年末、ついに、1バーレル100ドル突破を記録したのです。
ちなみに、この流れは以下の事例ともリンクしています。すなわち民主党優位のカリフォルニア州(加州)を支配するため、共和党支持の戦争屋が、90年代から2001年にかけて、子飼いのエンロンを使って、10年以上、テキサスから加州へ供給する天然ガス価格を低位に据え置き、加州の電源が大方、天然ガス発電に切り替わったところで、一挙に天然ガス価格を暴騰させ、加州の政府や電力会社を窮地に追いやったことがあります。
 さて2007年、ブッシュの宿敵、アル・ゴア元副大統領が「不都合な真実」というドキュメンタリー映画をヒットさせ、地球環境問題に警鐘をならし、その功績で彼は2007年度ノーベル平和賞を受賞しました(注2、注3)。この動きもマクロでは原油高騰とリンクしています。
最近の原油高騰の原因として、中東政情不安、中国やインドの経済成長によるアジアでのエネルギー需要の高まり、米国の石油精製設備の老朽化に加えて、サブプライムローン問題発覚で、投機マネーが原油市場の先物投資に流れているなどが挙げられています。どの理由もおおむね間違いないでしょうが、世界の原油価格を決めているのが米国産原油WTI(West Texas Intermediate)取引市場(ニューヨーク・マーカンタイル取引所)であり、WTI原油は世界生産量の1~2%でしかありません。WTI先物取引が1日1億バーレルとしても、1日当たり100億ドル(1兆円規模)程度の投機資金が動けば相場が決まってしまうわけです。この仕組みは80年代後半、OPECが価格決定権を放棄して(戦争屋が放棄させた?)以来、導入されたようです。つまり、1日当たり動かす金額が1兆円程度なら、その程度は端金(はしたがね)でしかない戦争屋によって、原油相場が自由に決められるはずです。このことから日本にとって原油高騰の根本的問題は戦争屋系米国覇権主義者に価格決定権を事実上握られているということw)€「任靴腓Α・尊檗∪鐐莢阿忙抉腓気譴特太犬靴織屮奪轡綫・△砲覆辰董・玉・然覆蝋眛④径海韻討い泙后・・w)石油価格は物価水準を左右しますから、石油が値上がりすれば、コモディティ物価が軒並み上がります。現実に、日本では物価が上がり始めました。

3.原油高騰のインパクト
 これ以上の地球環境悪化を防ぐため、人口大国の中国、インドのこれ以上の経済成長は困りものであることは、日本を含め、先進国の人々の本音でしょう。ただ、自分たちは経済発展の恩恵を受け、中国、インドの経済発展は困ると表立って表明できないのです。
 石油値上がりは、あらゆる物価を押し上げ、われわれ日本人の生活を直撃するのは確かですが、同時に中国、インドの経済成長(地球温暖化を促進する)にブレーキをかけてくれます。
 その意味で、福田首相がダボスで演説したCO2削減目標を各国に割り当てる提案より、戦争屋による原油高騰戦略の方がはるかに、CO2抑制効果があるでしょう。
 500兆円にのぼるドル債権大国の日本は幸い、原油が相当程度、高騰しても、中国やインドに比べれば、経済的に耐えられると思います。しかしながら、近年、台頭著しい石油産出国ロシアなど(周辺産油国含む)が、こっそり中国、インドと取引して、戦争屋に独占された価格支配権をゆさぶる可能性もあります。ただ、今のところ、戦争屋の原油高騰戦略はロシアなどにも追い風となっていますから、あえて、戦争屋を裏切るようなぬけがけ(危ない橋を渡ること)はしないでしょう。

4.米国の対日攻略奏功:自前の石油調達権を奪われた日本
ところで戦前の日本はなぜ、満州や東南アジアに軍事進出したか。それは艦船や航空機の燃料を自前で調達するためでした。石油を米国からの輸入に全面依存していては、永久に米国の言いなりにならざるを得ない。この状況から何とか脱したいという戦前日本の国家意思は、結局、日米太平洋戦争に発展し、原爆投下などによって米国に完膚なきまで叩きのめされたのです。
戦後、民族資本の石油会社、出光興産は、石油調達の対米依存から脱却するべく、1953年、国産の原油タンカー、日章丸にてイランから原油の直接輸入を断行しました。このとき、米英覇権主義者から反発され、日章丸は米軍や英国軍から攻撃される危険があったのです。幸運なことに、この時期、朝鮮戦争末期で、米朝緊張状態にあり、日本船の攻撃によって、日本国内が反米化することは米英にとって絶対に回避したかったのです。そのため、日章丸は攻撃されずにすんだのでした。つまり、この頃から米英覇権主義者は日本が自前で石油調達することを断固阻止するハラであったのです。
1970年代、日本の産官コンソーシアムの計画したIJPC(イラン・ジャパン石油化学)によるイランからの直接石油調達プロジェクトは1979年のイラン革命で頓挫しましたが、この背後に戦争屋によるIJPC潰しがあった可能性もゼロではありません。なぜなら、1986年に発覚したイラン・コントラ事件から、戦争屋が戦後、イランで長期に渡り、おおがかりな政治工作していたと思われるからです。
 さらに1976年に発覚したロッキード収賄事件で失脚した(失脚させられた?)田中角栄は、戦後の総理大臣のなかで、日本を米国の支配から脱却させようとした画策した愛国派政治家のひとりでした。一方、ロッキード・マーチンは戦争屋の実質所有する企業ですが、暗殺されたケネディ大統領(注4)とならび、田中角栄は彼らにとって不都合な日本の首相だったのは確かです。
 戦後生まれた日の丸石油資源会社、アラビア石油は1957年以来、中東での石油資源開発事業に挑戦してきましたが、2000年にサウジとの利権協定終了、2003年にクウェートとの利権協定終了の憂き目に遭っています。このように日本資本による中東石油資源開発は必ず、何者かによって邪魔されているように感じられます。
 さらに、2003年、ブッシュ政権の忠犬ポチ内閣、小泉内閣によって石油公団が廃止されました(注5)。これも筆者は戦争屋系の米国覇権主義者の差し金ではないかと読んでいます。
また、日本の油田地帯、長岡地域で戦前から石油探査を続行しているのは日本資本ではなく、フランスのシュルンベルジェです。国産石油資源の開発がメインの国際石油開発帝石HGの活動もまったく目立ちません。釣魚島(東シナ海尖閣列島)周辺の海底油田開発においても、領海問題で中国と示談が成立する可能性は極めて低いわけです。
 このような経緯から、今日の日本は国家の生命線である石油、天然ガスのほぼ100%を輸入に依存しています。しかも、中東石油に輸入の90%近く依存し、極めて偏っています。そのため、中東石油の輸送シーレーンがどこかの国に軍事封鎖されたら、たちまちアウトです。
 要するに、日本は国家としてのエネルギー・セキュリティが極めて危ういのです。
一方、石油価格とリンクする穀物の自給率においても、日本は先進国最低レベルの28%です。世界の先進国において、どこの国も、地方経済は農業あるいは観光によって支えられています。農地の少ない島国日本の地方のみが世界でもまれの、道路中心の公共事業によって支えられています。
さらに国家安全保障の要である国防も日米安保条約に下、在日駐留米軍に全面依存しています。要するに、今回の原油高騰で気がついたら、日本は国家存立の基本である石油、食糧(穀物)、防衛すべて、自前で調達できなくされていることが露呈してきたのです。このままだと米国覇権主義者に戦前の日本と同じく、兵糧攻めされたら一発でアウトです。背筋が寒くなります。とりわけ石油と穀物はいくら値上げされても、現在の日本国家には、半年分の石油国家備蓄の取り崩しを除き、まったく打つ手がありません。完全にアンコントロラブル状態に置かれているのです。戦後、60数年経て、日本国家は米国覇権主義者のさじ加減ひとつでいかようにも料理されてしまう属国に成り下がっていたのです。これは戦後の政官財指導層の大失政にほかなりません。もちろん、そのような指導層を許した国民にも責任があります。米国が来年、ポスト・ブッシュで民主党政権が実現し、戦争屋がおとなしくなったのを見計らって、日本は至急、石油・穀物・防衛の安全保障に関する国家戦略を抜本的に見直すべきです。

注1:ベンチャー革命No.234『直下型地震の襲われた東電柏崎原発の不運』2007年7月22日
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr234.htm
注2:ベンチャー革命No.221『不都合な真実:アル・ゴアの復讐』2007年2月7日
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr221.htm
注3:ベンチャー革命No.245『ノーベル平和賞:小泉氏ではなくアル・ゴア氏』2007年10月14日
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr245.htm
注4:ベンチャー革命No.68『20世紀最大の謎:ケネディ暗殺』2004年4月6日
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr068.htm
注5:ベンチャー革命No.251『日本国民名なぜ、貧乏化しているのか』2008年1月4日
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr251.htm

山本尚利(ヤマモトヒサトシ)
hisa_yamamoto@mug.biglobe.ne.jp
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/melma.htm
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/magazine-menus.htm