白い泡、はじける | 風紋

風紋

鋼の錬金術師ファンの雑文ブログ



  リンとランファンに愛が偏っています


タイル貼りの浴室に響くのはごく微かなしゅわしゅわと泡のはじける音。
入道雲のような白い泡と湯気の向こうには、すねたように眉を寄せて目を
伏せているランファンの白い肩。恥ずかしさと気まずさをそうして誤魔化
そうとしているのが丸わかりなあたりが可愛い。おかげで余計に俺の頬は
ゆるんでしまい、子どもの頃によく言われたみたいなせりふで彼女に呆れ
られるのだった。
「しょうがない皇子さまですね。」





『白い泡、はじける』







「買い物をしたお店でこんなものをおまけに貰いました。」
夜食の買い出しからホテルの部屋に戻ったランファンが紙袋の一番上から
取り出したのは、ジェル状のものが入った小さな袋だった。
書かれた文字は『 BUBBLE BATH / Rose 』
・・・何だこれは?
「ウィンリィに聞いたら、入浴剤だそうです。薬湯のもとみたいなもの。
バスタブにお湯を張る時に入れたら泡がいっぱいになるんですって。」
よしよし、女の子同士なかなか上手くいってるみたいじゃないか。
それにしてもこれの実態がいまひとつわからないけど。
「泡って石鹸みたいな感じなのかな?」
「体を洗うためのものじゃなくて、いい匂いがしてお湯の感触が変わるの
を楽しむものだそうですよ。」
なるほど。
この国の生活雑貨は妙なところで凝っていて、石鹸などもごく普通の店で
さえ香りの違うものが数種売ってたりするけど、そういった日常の楽しみ
のためのものなんだろう。
泡でいっぱいになった風呂というのはなんだか面白そうだ。
「へえ、試しに使ってみたいな。」
「でしたら少し待っててください。」
ランファンは手早くバスタブを水で流して洗って栓をし、給湯口から湯を
出すと例のものをそこに入れた。
途端に白い泡がわきあがってしゅわしゅわとはじける音がする。泡は雲の
ように盛り上がり拡がって浴槽いっぱいが白く埋め尽くされていった。
「うわあ、なんかすごい光景。こんなの見たことない、面白い。」
「雲みたいですね。夏の入道雲みたい、もくもくしてます。」
手を差し出して触ってみると、思ったよりしっかりした手触りですぐに消
えたりはしない。シャボン玉なんかとは違う感じだ。


俺はバスタブのふちに両肘をついてしゃがみこみ、その横でランファンも
中を覗き込む。なんとなく目を離すのがもったいない感じがしてそのまま
観察。この泡の雲がどこまで成長するのか見ていたい。
二人してワクワクしながら、勢いよく注ぎ込むお湯の音がタイルの壁に反
響するのを聞く。薔薇の香りが湯気と一緒に拡がっていっぱいになった。
最初の勢いはなくなったけど、お湯の水位があがって泡の表面はバスタブ
を越してしまいそうになってランファンは給湯口を締める。
そこで俺はさっきから考えていたことを口に出した。


「ねえ、一緒に入ろうか。」
「え? な、なんでそうなるんですか。」
「だって俺がひとりで使っちゃったら、ランファンが楽しめないだろ。」
「あ、あの、えっと、私は結構ですから。」
「遠慮されて独り占めなんて、俺はしたくない。それとも俺なんかと風呂
入るのランファンは嫌?」
「嫌という訳じゃ・・・あの、でも、恥ずかしいですし。」
「誰でも風呂じゃ裸だよ。恥ずかしがることない。ランファンの裸、すご
く綺麗だし。」
ぶわっとすごい勢いでランファンの顔が茹だる。のぼせたように真っ赤に
なってしまった。
でも、本音だし。本当のことだし。
すんなり伸びやかですべすべしててやわらかくて、小さめだけどほわんと
丸くて可愛いおっぱいも、細い体つきからは思いがけないほどむっちりし
て豊かで白い太ももやお尻も、全部きれいだって知ってる。
もう何度も抱き合って知ってるのに、何言ってるんだよ今さら。
「だってお風呂は電気が点いてて明るいんですもの。無理です、そんなの
恥ずかしくて。」
「・・・そうかー。」
がっくり肩を落とす。
カーテンは閉めてたけど明るい時にしたこともあったじゃないかー、など
とごねることは止めた。余計に恥ずかしがって態度を頑なにするのが目に
見えている。ここは一度引いてみせないと。
「俺は裸見られても全然平気だけどランファン女の子だもんね。見られた
くないのはしょうがないか。」
理解を示して、でも失望は隠さない。いや、本気でがっかりするよ。もし
このまま逃げ切られたら。
「・・・はい。すいません。」
申し訳なさそうな顔で言ったところに、すかさず口をはさんだ。


「仕方ない、電気消すよ。見えなければいいだろ?」
「え、ええっ?」
「風呂の電気消したらいいよね。部屋のだけ点けといて。」
「あの、そういう問題じゃないと思うんですけど!」
「えー、俺、明るいのが恥ずかしいって言うから譲歩したのに。」
くだらないことかもしれないけど、男ってホントしょうがないって思うだ
ろうけど俺、今すごく真剣だよ。それ突っぱねたりするの・・・?
「・・・一緒に入るだけ、ですよね。」
上目づかいに真意をさぐるようにおそるおそる聞いてくる。あー、こうい
うところ無意識なんだろうけどすごく可愛い。俺の欲望わかってて、でも
応えられる自信がなくて、そのくせ心の一番奥底では寄り添いたいって思
ってくれてるんだ。憶測だけど、きっと、たぶん。
「確約はできないけれど、でき得る限り努力する!」
至極マジメな顔で力強く答えたけれど、下心が隠せるわけはないだろう。
それでも正直すぎる態度は彼女の警戒心を解かせるには良かったらしい。
一瞬ふきだしそうな顔をして、気をやわらげて彼女は言った。
「じゃあ若がお入りになったら、後からご一緒します。」




「ランファン、電気消したし入ってきていいよ。」
シャワーで髪と体を洗ってから、明かりを消して部屋にいる彼女に声をか
ける。かなり暗い。これじゃランファンは髪洗ったりするのに苦労するん
じゃないかな?夜目が効くから大丈夫か。まあ、俺も彼女ほどじゃないけ
ど暗がりに目を慣らすことは知っている。いきなり暗くなったときは一旦
目をつむって瞳孔をリセットしてから目を開けると闇に慣れやすい。
扉が開く音に続いて髪をおろした白い裸身が現れた。
「あの、シャワーの間はこっちを見ないでいてもらえますか。どうしても
やりづらいので・・・」
ちっ、先に牽制されたか。
「わかったよ。見ないようにする。」
安心して。あからさまにそっち向いて見つめたりはしないよ。横目で鏡越
しには見ちゃうけど。さっき石鹸で湯気で曇らないようにしておいたし。
何事も用意周到なのが俺のやり方。
コックを開けて湯温を確かめ、彼女は頭からシャワーを浴びる。
顔も髪も水流にずぶ濡れにして、でも気持ちよさそうに目をつむってる顔
は相当にそそる。濡れ髪ってほんと色っぽいよな。俺が風呂あがりに濡れ
た髪のままでいるとランファンは早く乾かしてくださいとうるさいけど、
もしかして俺もそういう時、色気があったりするからだったりして。
鏡のなかの彼女はベッドの中で裸になったときとは違って、妙に生々しい
感じがして新鮮だった。シャンプーをしてると脇が無防備に空くし、体を
洗う手つきは本人は別にそんな気ないんだろうけど、すごくなまめかしい。
眼福ってまさにこういうことを言うんだろう。


ちょっとヤバい感じになってきた俺の意識を遮るように、ザーッとシャワ
ーを勢いよく流す音が響いた。しばらく水音は続いたけれど、キュッとコ
ックを締めてランファンはシャワーを終えたらしい。

「終わった?おいでー。」
「やっ!! 入りますからその間だけ後ろむいてて下さい、お願い。」
俺が歓迎するように開いた両腕はむなしく拒否されてしまったが、それで
も止めて出ていくつもりはないらしい。ちょっと浮わついていてヘマをす
るところだったのを反省し、おとなしく後ろを向いて彼女を待つ。
俺がいるのと反対側のふちから、ランファンはそっとバスタブに入って身
を浸していく。水面があがっていくらかお湯が溢れだし、止まった。
「もう、いいですよ。」
さっきの拒否の声とは半分以下の声量で彼女の許しが出た。
バスタブの対岸に、濡れ髪のランファンが縮こまっている。泡は肩のあた
りまできていてその下は見えない。あー、夜目がきいても泡で見えなけれ
ばいいかというつもりでOKしたんだな。残念な気もしたけど、せっかくあ
ったかいお湯に浸かってるのに居心地悪そうに小さくなってる姿に、無理
させてしまったかなと少し後悔した。


「あのさ。」
どうフォローしようかと迷っているとふいにランファンの顔が笑み崩れる。
「やだ、若ってば。」
そのままクスクスと笑い出す。
「え、なに?何かおかしい?」
「あ、頭に。」
笑いにむせかけて言葉に詰まっている。
「泡のかたまりが髪についてます。」
「へ?」
言われた内容よりもランファンの笑う顔のほうに気をとられてしまって、
間の抜けた返事しかできない。
「ほら。」
まだ笑いの消えない顔のまま、彼女は手を伸ばしてくる。
「ね?」
俺の頭へ伸びた手はそっと髪に触れすぐ離れる。目の前に差し出された白
い泡より、その直前に見た無防備な脇の白さのほうが目に沁みた。
「ありがとう。」
なんだか俺のほうがドキドキしてきたんじゃないか。反対にランファンは
今のですっかり緊張がとけたみたいだ。よかった。


「いい匂い。すごく華やかな香りですね。」
彼女はうっとり目を細める。
「確か薔薇だったよね。西の国って感じがするよ、こんな風呂。」
水面の泡を撫でお湯をかき混ぜるようにすると、またバスタブのふちから
お湯があふれる。
「やっぱり二人で入るには狭いですね。脚、伸ばせないですもの。」
「構わないよ。」
「でも若に窮屈な思いをさせたくないです。」
「ならランファン、こっち来て。」
「だめですよ。ドキドキしすぎてのぼせてしまいますもの。」
すねたように眉を寄せて目を伏せている。拒否のつもりだろうけど、媚し
か伝わって来ない。まいった。
「何それもう可愛いすぎるよ。ランファン俺をどうしたいの?」
「若には気分よく快適にしていただきたいです。私のできる範囲で、です
けれど・・・」
後半はどんどん声が小さくなってて、「気分よく」に含まれるあれやこれ
やを考えてしまったのが丸わかりだ。あー可愛い。
「じゃあ脚伸ばそうよ。同じ向きになったら脚伸ばせるし。」
「は、い・・・」


三度目にしてやっと俺の腕のなかに入ってきたランファンを膝のうえに抱
いた。すべすべしてやわらかい体。俺はおおきなためいきをつく。
「あー、なんか俺いますっごくシアワセ。」
「大げさですね。」
ほんとに困ったひと、とでも言いたげな口調。でも目の前にある頬も耳も
紅潮していて照れてることは隠せていない。頬ずりしちゃうよ。それくら
い、問題ないよね。
「大げさなことないよ。こうして好きな娘と二人きりで風呂で裸でくっつ
いていられるのに幸せ感じない男なんていないって。」
「あの、若。もしかしたら今日思いついたんじゃなく、ずっと前から一緒
にお風呂に入りたいとか思ってたんですか?」
「そりゃ俺も男だしさ、それなりにいろいろと。」
言いながら頬をかすめるキス。
「抱っこ、いいよなー。こうしてると俺のものー!って感じがする。」
「何をおっしゃるんですか。私はとっくに若のものです。」
ランファンは首をまわして俺の顔を見るといきなりキスをしてきた。


不意打ちもいいとこだ!! これだけ恥ずかしがっておいて、狭いバスタ
ブの中でもなるべく離れようとしてたくせに「私は若のものです。」って
なんてこと言って、してくれるんだ。破壊力最高じゃないか!!
すぐにキスを返す。不自然に首を廻していたのをこちらに向かせて、何度
も繰り返し、角度を変えて唇をあわせて吸い付く。呼吸を奪うように開い
た口のなかをいいように舌でかきまわす。


息があがりそうな口づけを終わらせると、ランファンは何かに気づいて俺
の顔を見た。真っ赤な顔でちょっとうらめしそうな目をして、もじもじ何
か言いたいのに言い出せない顔して。欲しいのはきっかけ?それとも・・・
「なに、どうしたの?」
「あの、その・・・あたってます・・・」
すっかりその気になってしまった俺のものは硬く立ち上がって欲望を伝え
ていて。それをなだめられるのは、今ここにいるランファンでしかないの
は決まりきったことで。だから。
「ごめん、あんまり可愛いくて我慢できなくなった。しよう。」




体じゅうのどんなところも全部さわりまくって、舐めて吸って、そのたび
にしゅわしゅわと音を立てていた泡が気がついたら消え始めていた。
でも慣れない俺たちはバスタブではうまくできなくて、ベッドに移動した
から薔薇の匂いはシーツのあいだへも移っていたことは、秘密。









あとがき:

昨年の2月6日/ふろの日に向けて書きかけて挫折し、放置してたssです。
先日の『ティータイム』の続きのR-18を書いているのですが、私が書くと
若が15歳らしからぬ、けしからん男になってしまいがちで軌道修正を兼ね
てこちらの作品に手を入れてたら、先に完成してしまいました。
こちらは冗舌体とでもいうのか、オトコノコという感じの文体で書いたの
で若者の可愛さが出ると思っていたのですが・・・若さが別の方向に暴走
してしまって・・・リン様ごめんなさいランファンもごめんなさい・・・
でも謝罪はするが後悔はしていない!
だってみんなお風呂ネタ好きだよね!! いいよねお風呂ネタv
みんな俺のあとに続け! 風呂ネタで作品書いて&描いてくれ!!

いえ、違います。書いて(描いて)くださいお願いします!