ティータイム | 風紋

風紋

鋼の錬金術師ファンの雑文ブログ



  リンとランファンに愛が偏っています

「セントラル滞在は伸ばせ、でもあまり出歩くな。」
そんな勝手なことを言われて(スカーのとばっちりを受けちゃいけないし
機械鎧が壊れたときにすぐ修理してもらいたいから、などという諸事情を
話せるエドではなかったので当然だが)ウィンリィの機嫌はよくない。
「街でお茶ぐらいしたっていいでしょう?」
「我慢しろ。お茶ならルームサービス頼めばいいだろ。」
「ひとりで部屋にこもってお茶飲んで何が楽しいのよ!」
「だったらランファン、ウィンリィちゃんにつきあってあげなヨ。俺たち
のほうはなんとかなるからサ。」
「でも、もしホム・・・いえ、危険が迫ってきたらと考えると若をお一人
にはできませン。」
「初日からビンゴは出ないと思うし、もし何か起きたら信号弾上げるヨ。
大丈夫だいじょうブ。」
「ごめんランファン。君がウィンリィと居てくれればボクたちも安心なん
だよ。お願いだから今日はそうしてくれない?」


そんなリゼンブールの幼馴染三人とシンの主従のやりとりの結果、ウィン
リィとランファンは一緒にティータイムを過ごすことになった。
ここは軍のホテルなのでお姫様気分にさせるような優雅なサービスではな
いけれど、ぴかぴかの銀器や上等な薄手の陶器のカップと一緒においしい
お茶と香ばしいバターの香りのするお菓子が部屋に届けられるのだから、
ウィンリィの気分が回復するのは当然だろう。
ティーポットや砂糖壺や菓子を満載するワゴンと共に現れたホテルマンは
洗練された物腰でウィンリィとランファンの前に紅茶をサーブしてくれる。
機能重視の素っ気ないツインの部屋でも、清潔な白いテーブルクロスを広
げそこに茶器が並ぶととたんに優雅に寛いだ雰囲気に変わった。黒いベス
トのホテルマンはティーポットの湯をカップに入れ、温めているあいだに
茶葉にゆっくりと湯をそそいだ。ふわりと花のような芳香がたちあがる。
蓋をして香りと蒸気を閉じ込めると彼は砂時計をひっくり返した。
「本日のお茶は今年の一番摘みですので、3分ほど蒸らします。」
その間に丁重にかつ手早く、レースの敷紙ののった菓子皿や銀器が並べら
れていく。銀のトレイから取り分けられた菓子は小ぶりなケーキが2種。
「こちらのサクランボのパイにはキルシュが使われております。こちらは
洋ナシとカスタードのタルトです。」
「うわあ、おいしそう。」
ウィンリィは相好を崩し、ランファンも無言ながら目を輝かせている。
砂時計の砂がぜんぶ落ちる頃に丁度セッティングは終わり、ソーサーの上
の白いカップに赤みがかった琥珀色のお茶がめいめいに注がれた。
「ミルクや砂糖はお好みでお入れください。おかわりはこちらのポットに
冷めないようこのティーコージーをかぶせておきますので。もし濃くなり
すぎてしまったときはこちらのジャグの白湯を足して調節してください。
ではごゆっくりどうぞ。」
訓練された正確な30°角の礼をしたホテルマンが部屋を出てゆくと二人の
少女たちは顔を見合わせて一斉に声をあげた。


「いただきまーすv」
それぞれにカップを掲げ、口をつける。
「おいし~い!!」
満面の笑みで言ったのはウィンリィだった。
「おいしイ。」
ランファンは目をみはり、しみじみカップの中を覗き込んでいる。
「やっぱりホテルで出すお茶は違うわ。昨日のお昼に行ったデリのお茶も
結構おいしかったけど、これはもう別格って感じねー。」
「私はこの国のお茶を知ったのは最近だガ、こんなに美味しいものだとは
思わなかっタ。すごイ、素晴らしイ。」
「ミルク入れて飲むとまろやかになって美味しいのよ。試してみて。」
「ありがとウ。お茶だけじゃなく菓子のほうも味わいたイ。」
「もっちろん、食べましょたべましょ!」
菓子を頬張ったふたつの顔がほころぶ。
「おいしいー!」
また二人の声が重なった。
「やっぱりお菓子食べてるときってしあわせ。」
「うン、私も甘いものは大好きダ。」
「食べ過ぎはいけないけど、どうしたって止められないわよねー。」
「甘いものを食べると気持ちがやわらぐのはなんでだろうナ。」
「脳の疲れには糖分の補給が一番なのよ。」
「体が疲れた時にもいいゾ。飴や干果物は旅の必需品ダ。」
「シンの飴ってどんなのがあるの?」
「こっちのドロップスみたいな固い果実味のも、あとヌガーって言ったか
あれみたいな歯にくっつきそうなベタ甘いのもあるゾ。」
「へえ~、すごい!」


そのまま女の子ふたりの会話はお菓子談義に花が咲いた。
ウィンリィはリゼンブールの村の広場に建つ店の名物である羊乳チーズと
レモンと砂糖を中に入れた焼き菓子と、ピナコが初夏にだけ作るベリーを
たっぷり入れたプディングの美味しさを語り、ランファンは祭りの屋台で
買うサンザシの実の飴がけと、蒸籠の中から湯気とともに現れる桃饅の楽
しさを語る。ランファンがアメストリスでタフィーを食べて腰菓塔という
シンの菓子を思い出した話をすれば、ウィンリィは工業の街・ラッシュバ
レーにはあまり小洒落たお菓子屋さんがなくてつまらないけど、アイスク
リームだけはおいしい屋台が多いという話をした。
機械鎧オタクと皇子の護衛、どちらも普通の女の子という括りからは少し
外れているが、仕事から離れればお菓子に目がない10代半ばの少女だった。
たわいのない話で意気投合し、お互いの距離がずっと近くなったようだ。


そのとき部屋にノックの音が響いた。ウィンリィがドアまで行き応対する。
「はい、なんですか?」
「ウィンリィ・ロックベル様に書店からお届け物です。」
「あ、もしかしたら注文してた本が届いたのかも。」
ドアを開けたウィンリィは、ベルボーイから紙袋を受け取ると待ちかねた
ように中身を取り出す。
「わあっ!ホントに幻の本・『クラシック機械鎧の真髄』だあ。最高!」
本を胸に抱いて頬ずりでもしそうな勢いでウィンリィは喜んでいる。何の
ことやらわからぬまま、つられてランファンも笑顔になった。ウィンリィ
はよく怒るけどそれ以上によく喜び笑う。
「さすがセントラルの大規模書店だわー。この本ってもう絶版になってて
ラッシュバレーでも手に入らないのよ。うれしい!」
予定外のセントラル滞在も、悪いことばかりではなかったようだ。ウィン
リィの様子を見てランファンは少し安心した。
「ごめん、私これじっくり読みたいから自分の部屋に戻るね。ランファン
はゆっくり飲んでいてよ。」
「気にしないでくレ。いい本が手に入ってよかったナ。」
ありがと。私のぶんは貰っていくねー、と言い残してウィンリィはお茶の
カップと本と共に引き上げていった。
にぎやかな彼女がいなくなると途端に部屋はがらんとした雰囲気になる。
何かすきま風まで吹いてるような感じがするけど、と思ったランファンは
次の瞬間本当に窓から風が吹き込むのと同時に主の気配に気づいた。


ばーんと大きく窓が開き、はためくカーテンの向こうにリンの顔が現れる。
「ただいマー。なんかいい匂いがするネ。」
よっこらしょ、と窓枠から身を乗り込ませてリンは部屋に入った。
「わ、若、お帰りなさいまセ。陽動作戦の首尾はどうなりましたカ?」
「それがサー、エドとアルってば錬金術の実演を公園で始めたら、遠足で
来た子どもたちに囲まれちゃって手品師扱イ。目立てばスカーに狙われて
ホムンクルスが出てくるなんていっても、この状況でホントに来ちゃった
らヤバいでショ。」
「それでどうなったんでス?」
「仕方なく手品の大道芸のふり続けてたヨ。俺は阿呆らしくなったもんで
こうして帰ってきタ。」
「・・・そんな者たちと共同戦線というのは大丈夫なんでしょうカ?」
「ま、今後は仕切り直しするだろうから様子を見るサ。それより俺もお茶
飲みたいナ。これ貰うヨ。」
リンはソーサーの上のカップを取り上げて言う。


「ダメですヨ、私の飲みさしですかラ。淹れなおすのでお待ちくださイ。」
「ええー?別にかまわないのニ。」
「もう冷めてしまってますシ。淹れたてのあつあつにミルクを入れていた
だいたら本当に美味しかったでス。ティーポットのほうに温かいのがあり
ますからそちらヲ・・・」
「今知りたい。どんな味か。」
まるで駄々っ子のような口調。時折リンはこういうくだらないことでわが
ままを言ってランファンを困らせることがある。幼い頃から形を変えて、
今でもこんな戯れを仕掛けてくるとは稚気が抜けないというか、遊ばれて
いるというか、どちらなのだろうとランファンは思った。
「若、カップを返してくださらないとお茶が淹れられません。」
リンはカップを抱え込み、ランファンに渡そうとはしない。別のものに淹
れようにも、もうひとつのカップはウィンリィが彼女の部屋へと持って行
ってしまっていた。
「困る?」
「困ります。」
「じゃあ返すよ。でも、」
リンの目に企みの輝きが見えて、これは何か言い出す顔だなと身構える。
「これ飲ませて。口うつしで。」


「何をおっしゃるんですか。」
冷静に突っぱねようとしたのに声は半分裏返ってしまった。きっと顔も赤
くなっているに違いない。
「イヤなの?」
「嫌とかじゃなくそんなことは・・・」
「イヤじゃないなら、お願い。」
ソファに座ったリンからねだるように上目使いに見つめられてランファン
は自分が進退きわまったのを知った。こういう顔をされると私が断りきれ
ないのを、この人はわかっている。
「俺にも味わわせて。」
「・・・はい。」
カップを渡されて思わず肯いてしまっていた。
「口に含んで。」
飲み残しのミルクティーはほとんど冷めきっていて、ついさっきウィンリィ
と飲んだときのお茶とは違うもののような気がする。違っているのはこの
状況のほうなのだろうけど、とランファンは思った。
「ん。」
リンはランファンの首筋と肩に手をまわし、そのまま彼女の頭を抱え込む
ように引き寄せて唇を覆う。ランファンのためらいは抱かれた肩から背に
まわった手がとん、と軽く叩かれたのを合図に消えた。
ああ、私はこんなことさえこの方のお仕込みどおりにしてしまう。臣下と
してあるまじきことかもしれないけど、主の喜ぶようにふるまいたい欲望
は私を変えてしまう・・・

リンの唇が待ち構えるように開いたところへランファンは慎重に口内の甘
い液体を送り込んでいく。ほんのひと口分のはずなのにそれが終わるまで
は永遠のように長くて、息苦しさに目がかすんだ。ごくりと喉の鳴る音が
してリンがそれを飲み下したのがわかった。


「美味しい。」
そう言って笑ったリンの目は艶めいていて、今さらながら自分のしたこと
が恥ずかしく口元を覆って顔をそむける。
「あ、あとはちゃんと淹れなおしたのを召し上がってくださいね。」
まだ名残惜しげに顔を見つめる主からそそくさと離れ、ランファンはカッ
プを持って洗面所に向かった。紅などついてないけど自分が使ったそのま
まのカップでお茶を出せるものではないし、どうにも恥ずかしくて正気に
戻る時間が欲しかった。丁寧にカップを洗い、ついでに自分の顔も洗って
しまう。冷たい水で顔を洗うとようやく落ち着いた。


姿見を前に居住まいを正して部屋に戻ると、リンは何事もなかったかのよ
うにのんびりとソファに背をあずけている。
ランファンは差し湯のための白湯をジャグから注ぎ、カップを温めた。
綿入れ頭巾のようなティーコジーをとってポットを触ってみると、30分近
く経っているというのにまだ充分熱かった。これなら大丈夫だろう。白湯
をボウルに捨て、カップをワゴンにあった白い小さなクロスで拭くとお茶
を注ぎ、差し出す。
「どうぞ。淹れたてでないのが申し訳ないですが。」
「ありがとう。」
リンは鷹揚な仕草でカップを口に運ぶ。
「もし濃すぎて渋くなってたらこのジャグのお湯を足すといいそうです。
お味は大丈夫ですか?」
「んー。大丈夫、と思うけどよくわかんないや。」
「渋かったでしょうか?」
「じゃあランファンも味見して。」


手を掴まれソファに座らされて、ランファンは主の目に強い光を見た。
リンは彼女の膝の上に馬乗りになるようにのしかかり、彼女が逃げ腰にな
ってのけぞった頭がソファの背もたれに阻まれたところをすかさず唇を奪
った。
口じゅうを満たす熱く流れ込むものの感覚に頭が沸騰する。唇を割って注
ぎこまれる液体はカップから直接飲んだときよりずっと香りが濃く甘くて
むせてしまいそうだった。
「どう?」
「あまい、です。」
「よかった。」
にっこり笑ったリンは嬉しそうな顔のまま、ふたたび唇を寄せてくる。


「わ、若、お茶が冷めてしまいます。」
「こっちの方が冷めちゃうのがもったいないよ。」
「なにをおっしゃってるんですか。」
「ランファンが熱いうちに食べたい。」
また塞がれた唇は今度は服の襟元をかきわけ首筋に落ちてゆく。
「だめです、こんなところで。」
「なに?ベッドのほうがいいの。大胆だね。」
「そうじゃなくてあの兄弟が帰ってきたら・・・」


「あー残念。噂をすれば、ってやつか。」
リンがランファンの上に覆いかぶさった体を起こすのと、
「おいリン!てめえ勝手に先に帰ってんじゃねえよ!」
とエドが部屋のドアを開けたのは同時だった。
「無礼者!若のいらっしゃる部屋にノックもなしに入るナ!」
次の瞬間にはエドは、そんなランファンの怒号と共にアンテナをクナイに
串刺しにされていたのだが。


頭上をとんできたクナイにひるんだエドだったが
「んなっ!テメエらが勝手に俺の部屋でくつろいでるんだろーが!!」
「あー、くつろいでるのは俺だケ。ランファンは護衛モード全開だヨ。」
怒鳴り返してもどこ吹く風でのんきに答えるリンにエドはさらに頭に血を
のぼらせて噛みつく。
「ンなのわかってるよ!こんな目にあわせてくれるくらいだもんな。」
だいたいテメエは臣下のしつけがなってねえよ、等リンに文句をつけるの
に忙しいエドは、そそくさと面をつけたランファンの耳が真っ赤に染まっ
ていたことには全く気付いていなかった。









あとがき


 『たくあん飯』の苦無フライさんから新刊感想とともにメールでいただ
いてたリクエストにお応えしてのいちゃこらリンランです。
「ランファンがウィンリィにすすめられて飲んだ紅茶の味を知りたいリン
が『口移しで飲ませてv』とねだって、そのままディープキスへ。」
というリクのシチュエーションをなるだけ忠実に書きました。
漠然としたものよりもこんな風に具体的に内容を言っていただけたほうが
私は書きやすいですね。拘束があるほど燃えるM気質小説書き;


数年前に冷え性が悪化してはじめて紅茶党に宗旨替えしたかもとはティー
ルームでお茶した経験が少なすぎゆえ、紅茶の淹れ方の描写がいまいちな
のはお許しください。これでも本読んで知識補完したんだ・・・
気分を出すために夏のイベント時にしぐ様からいただいたルピシアのお茶
を淹れて飲みながら書きました。
おいしかった!しぐさんありがとうございます。


それにしてもまったくリン様ってば何やってるんだw
そしていちゃこらを書こうと思うとこの短いセントラル滞在中という時系
列ばかりになってしまうリンランの罠。
エドが帰ってきて強制終了オチにしましたが、帰ってこないバージョンが
読みたいという18歳以上の方がいらしたらお申し出ください。(笑)