約束 | 風紋

風紋

鋼の錬金術師ファンの雑文ブログ



  リンとランファンに愛が偏っています

体を支えようと肩に手をまわすと止血に使った俺の上着が重く濡れている
感触が伝わって、傷の深刻さにいまさら目の前が暗くなった。
下水溝脇の地下道は臭気と湿気がひどく、物音だけはよく響く。
伝わる浅く弱々しい呼吸は、しっかりと抱いた自分の腕の中にあるという
のに、彼女の意識が手の届かぬ遠いところへと連れ去られていく足音のよ
うな気がして縋るしかなかった。


「ランファン、死ぬな。」
命令だろうが懇願だろうが、なんだっていい。俺がかける言葉で彼女の意
識を繋ぎとめられるのならばいくらでも呼び続けてやる。切断した腕の痛
みと失血で目も開けていられないほど消耗しきったランファンの体は下水
に浸かったせいもあるのかひやりと青ざめていて、せめて自分の体のぶん
だけでも外気から守れたらと腕のなかに抱きこんだ。


「もうすぐ安全な場所で治療ができる。それまで頑張るんだ。」
隠れ家に向かう前に医者の手配をしなければ、と地上に戻った女性狙撃手
は、彼女を励ましてあげてと俺に言い残した。治療に使えるものもなけれ
ば錬丹術も使えない俺にはそれしか出来ることはない。


「約束、守ったよ。ホムンクルスを捕まえた。不老不死の手がかりだ。」
暗い下水道のなかでいつまでともわからぬまま待ち続けていた彼女に報い
る知らせが耳に入ったからか、ランファンは血の気の消えた顔にかすかに
微笑みらしきものを浮かべて頷く。


「おまえは『王がいなければ民は行き場を失います。』と言ったよな。
ただの皇子の俺に。」
そして俺を生き残らせるために、自らの腕を斬り落とした。滴る血痕で敵
の追跡を惑わせ、逃げ切れるようにと。
「俺は王になる。真の王に。」
こんな凄まじい覚悟を見せつけられて、腹をくくらずにいられるか。


「だから、見届けろ。おまえは生きてずっとこれからも俺のそばにいて、
俺が真の王となるのを見届けて、おまえの腕を斬りやがったキング・ブラ
ッドレイを見返してやるんだ。俺と一緒に。」
腕のなかに彼女がかすかに身じろぎしたのが伝わった。まだ闘志は消えて
いないのだ。こんな状態でもランファンは戦士として敵へ立ち向かう意志
を持っている。自分の務めを全うしようとしている。
「王になるよ。シンの皇帝になってみせる。本当の民のための王になって
おまえたちが笑って暮らせるように務めるから。」


―――だから、生きてくれ。
思いを注ぎ込むように唇を重ねた。
頼りない呼吸を繰り返している彼女に俺の呼吸をわけてやりたかった。
食べて呼吸して、話して噛みついて撃針を引いて、そんな生きていること
そのものの記憶を呼び覚ますように口をあわせる。
「ランファン。」
かわいて冷たい唇が動いて生命力を伝えてきた。
「わ、か・・・」
呼びかけに応える声は小さいが、彼女の意識はしっかりとしてきている。


少し先の上方でマンホールの蓋をずらす音が聞こえた。
女性狙撃手の合図だろう。
まだ力の入らない彼女の体を支え起こして、俺たちは地上へと向かった。
この先は、薄汚れて弱って隠れながら行かねばならぬ道だとしても。
何があってもこの繋がりをきっと途切れさせはしない。
俺たちは今日、いのちを分け合ったのだから。





あとがき:


「三色団子」 のmaoさまから、ご自身の作品の続き的ストーリーをリクエ
ストいただいたので書いてみました。
血みどろシーンは精神的にキツいので避けていたのですが、自分のネタで
ないからか案外すんなり書けてびっくりです。
maoさま、こんなもんでよろしかったでしょうか?


そして、今回冬のイベント作品は書かないかわりに、ブログ上でリクエスト
を募集して小説書こうかと思っています。
とりあえず冬休み期間中(1/9まで)に拍手かコメント欄でいただければ、
できうる限り書かせていただききたいと・・・
リンかランファンが絡んでいれば、他のキャラもOKで。
読みたいシチュエーションが詳しいほど頑張れますので、お好みの妄想を
こっそり語ってくださいませ。