ピアス | 風紋

風紋

鋼の錬金術師ファンの雑文ブログ



  リンとランファンに愛が偏っています

「ねえ、そういえばシンにはピアスする習慣ってないの?」
いつもどおりのお団子に結いなおしたがるランファンの背後で、櫛を手に
ツインテールに束ねた髪の跳ねかたをあれこれ工夫していたウィンリィが
思いついたように言った。


「シンでも女子は耳飾りをつけるヨ。アメストリスもある宝石でいったら
金剛石や瑠璃。ダイヤモンドとラピスラズリのことサ。」
「ラピスは宝石じゃねえだろ。半貴石って分類になるんじゃねえの?」
リンの言葉にベッドに横になったままのエドワードが声をあげる。


「へえ、エドってば宝石にも詳しかったんだ。意外。」
「錬金術で鉱物の性質を理解するのに調べたことがあっただけだ。」
「あーあ、やっぱあんたのことだからそんなとこだと思ったわ。」
「えーと、もしもシ?耳飾りの話はもういいのかナ?」
いつもの言い合いになりそうなところをリンの声が割って入る。


「あ、聞きたい聞きたい。シンのアクセサリーの話。」
「宝石よりも金や翡翠や玉(ぎょく)なんかが多いんダ。町に住むふつう
の女性ならたいがい銀だネ。ひとくちに銀といってもいろいろだけド。
ミャオ族の娘なんか、祭りの時にはとんでもなく豪華な細工の耳飾りや
頭飾りをつけたりするシ。」


こういう話を聞くとやっぱりリンは本当に皇子なんだと思えてくる。
女性が豪奢に装う姿を見慣れているんだろうな。
翡翠っていうのは確か東方でよく産出される鉱物だったと思うけど、
ギョクってのもきっと同じようなものなんだろう。
あとでリンに聞いて確かめよう、とアルフォンスは思った。


「へえ、そうなの。ランファンは何もつけてないから私てっきり。」
ああ、ここにリボンでもあったら即このツインテールの髪につけるのにぃ
とウィンリィは大げさに嘆いている。
「私は護衛ダ。目立つものを身につけて敵の目に留まる訳にはいかなイ。」
落ち着かない顔で居心地悪そうにもぞもぞ体を動かしていたランファンは
そのうさぎの耳のように結われた髪型のせいか、学校にあがったばかりで
馴染めずにいる小さい子みたいだった。
それでも、こういう言葉を言うときにはいつもの冷静至極な口調に戻るの
が彼女らしくておかしい。


「・・・そっか。でもつや消しクロムの小さいのなんかだったら大丈夫
なんじゃないの?女の子だもん、お洒落も大事よ。」
ほらこんな感じ、似合うじゃない。
ウィンリィは自分のピアスをひとつ外してランファンの耳元にあてている。


「邪魔になるだろウ。」
「そんなことないわよ。ニットのプルオーバーを着る時は気つかうけど、
それ以外は別に邪魔にならないってば。」
「なんだか髪の毛がひっかかりそうだシ。」


そう言ったランファンは、急に何かを呑み込んだように黙り込むとあらぬ
方を向いてうつむいた。
「やだランファン、急に動かないでよ。」
ピアスをあてていた手にばさりとツインテールの片方の髪束が勢いよく
あたってウィンリィは抗議の声をあげる。


「す、すまなイ。でももうそれはいいかラ。」
下を向いたランファンの顔はなんだか赤くなっているようで、その理由は
どこにあったんだろうと小さな不審がわきあがった。


え、もしかして。
そういうことなの?、とアルフォンスは気づいた。
―――髪の毛がひっかかるっていうのは自分のじゃなくて。
ランファンが逸らした視線のもといた正面には肩を越して不揃いに長く
伸びた髪を無造作にうなじでくくったリンの姿。
この髪が絡むのをランファンは気にしているのかな。
それっていうのはやっぱり・・・


つい、まじまじと見つめてしまったアルフォンスの視線に気づいたのか、
「わかっタ?」
意味ありげにひとことだけ、そう言うリンの顔はなんだか得意げだった。


「何のことを言ってるのさ。」
わけもなく少しむかついてとぼけてみせるとそれ以上リンは何も言って
こなかったけど、ランファンの顔を赤らめさせたのは可愛らしく装わせ
ようとはしゃぐウィンリィでも、まして自分やエドワードでもないことは
よくわかっていた。


ランファンのかすかに赤い頬とリンとの小さな問答は、次はポニーテール
にしようと張り切るウィンリィの声と、リンがエドワードにかける軽口と
で流されてしまったけれど。


―――もし本当に心から好きな女の子ができたらきっとピアスを贈ろう。
そして、それを彼女につけてもらうことだけじゃなく自分がはずすことも
考えていいよね。


そんな考えが胸に小さな石の輝きのように灯るのを抱いて、アルフォンス
は決意にぐっと拳を握り締めたのだった。








あとがき


『還洸海』のNeonさまが書かれた「うさぎ年の男」という幼馴染ーズと
リンランの話を読んでたいへんツボったときに、つい調子にのって戯れに
同じシチュエーションで書いてしまっていたものです。
今とりかかってるssに苦戦しているので、何かお客様にお出しできるもの
がなかったかとお蔵をさらって見つけてきました。


Neonさんは私などよりずっと伝えること描写をすることに意識的で美しい
文章を書かれるので、それにのっかるなどおこがましいのですが、これは
彼女のいつもの作風と少し違うのでなんとかなるかな、と。
・・・やっぱり申し訳ない気持ちになってしまいます。ごめんなさい!
でもエドよりこういうことに鋭くて考えちゃうアルを書きたかったんだ・・・