最強女豹伝説(二つ名の由来) | 風紋

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鋼の錬金術師ファンの雑文ブログ



  リンとランファンに愛が偏っています

なあ、ランファン。
こうしてお前さんが工具の手入れなんぞしてるの見ると思い出すんだがよ。


―――はイ、何ですカ?


昔なじみに女だてらに機械鎧づくりでメシ食ってる奴がいてよ、もうせんに
田舎にひっこんじまったが、これがムチャクチャな女でな。
なんでかお前さんがそうしてるの見ると、そいつと一緒に修行してた若ぇ頃
思い出すんだ。


―――似てるんですカ?私、その人ト。


ちっこい体してるのは一緒だが、見た目はだいぶ違うな。
気性というか、とんでもないことしちまいそうなとこが似てるんだよ。
金髪でけっこういい体してたが、気ィ強そうな目して、常に工具持ってるか
でなきゃキセル持ってるかっていうとんでもない男勝りな女だった。
すげえ酒飲みでよ。潰された男は数知れずだよ。
しかも男を潰すのは飲みっくらだけで済まねえときたもんだ。

まったく、ムチャクチャな女さね。


―――そんなひとと似てるって私、そんなにムチャクチャですカ?


ああ、いくら敵をあざむいて生き残るためとはいえ、自分で腕を切り落とす
なんてことやるのは充分ムチャクチャだ。
普通はそこまで出来ねえし、やらねえ。やるもんじゃねえよ。
だけどよ、あの女はやるんだよ。別に腕を切り落としたわけじゃねえが、
同じくらい命しらずなことしやがった。


―――どんなことしたんですカ、教えてくださイ。


年寄りの昔話だぞ。もうかれこれ40年ほど前の話だ。
ラッシュバレーは軍需景気で沸いた町だから、国内の各地から食いはぐれて
流れ着いたろくでもない奴もけっこう多くてな。
麻薬で抜けた歯のかわりに金歯詰めて、腕や首にも金の鎖じゃらじゃらつけ
てるような奴が、ヤバい品をさばくブローカーの商売始めようとして
俺らの修行してた工房をとりこもうとしたことがあったんだ。
親方はもちろんつっぱねたが、機械鎧は義肢でもあるがその装着者は兵士や
元兵士が多い以上、どうしても武器として操作できるものをという方向に
行ってしまう。
そうすると闇商売の者につけこまれる隙ができちまうんだよな。
じゃらじゃら鎖つけたチンピラが工房に居座ることが増えて、一般の客が
寄り付きにくくなってきた。
それこそが奴の狙いだったんだがな。客や職人が居つきにくくなれば工房を
のっとれると思ったんだろう。
ラッシュバレーの機械鎧職人はそんなヤワじゃねえんだがな。
もちろんあの女もそんなチンピラに怯えるようなタマじゃなかった。


ある日親方と何人かの職人が留守してるときにまた奴が来てよ。
あいつは作業台に向かったままシカトしてたんだが、そのチンピラはしつこく
からみ続けてな、
「この工房もこんな田舎者の女入れてるようじゃおしまいだな。」
とか言い出した。そして
「こんな安い機械鎧しかつけられねえ客の相手なんかしてよお。」
じゃらじゃらつけてた指輪で外装の鋼板に傷つけやがったんだ。
そん時だよ。


ノーモーションってわかるか?
何かしようとする時、その素振りを見せないことを言うんだが、まさにそれ
だった。格闘術の教則どおりの見事なノーモーションでチンピラのみぞおち
に鋭い肘打ち入れたと思ったら、ドライバー指のあいだに挟んだままの左手
で、がりっ!と、こうだよ。
奴の顔、斜めに三本赤い筋が入って血ィ吹きだして凄ぇのなんのって。
ぎゃあああっと悲鳴上げるチンピラにあの女、なんて言ったと思う?


―――「なめるなこの腐れ外道!」とカ。


・・・おい、一体誰からそんなアメストリス語教わったんだ?
娘っこの使う言葉じゃないぞ。


―――す、すいませン。


まあいいや。あいつのセリフはそんなじゃなかった。
「手前ェの傷なんざ舐めてりゃ治る!鋼板の傷どうしてくれるんだ?!」
仁王立ちで一番でかいモンキーレンチ奴のこめかみの横で構えて凄んだよ。
「機械鎧はお客の手足だ。お客の体に傷をつけたらタダじゃ済まねえ。
それをわきまえない奴はこの町から出てけ!」


―――もの凄くまっとうな話ですネ。


ああ、拍手したくなるような見事な啖呵だったよ。
隠しようもないデカい傷受けて、しかもその相手が女ってんで格好が
つかなかったんだわな。
そのチンピラしばらくしたら町からいなくなってた。
奴が血まみれで工房から出てった直後から噂話でもちきりだったからな。


「あのチンピラもえらい猫にひっかかれたもんだ。」
「あの女ぁ猫なんてかわいいモンか?虎だろ虎。」
「でもよ、あいついくら飲ませてもトラになったことねえし。」
「わははは、違いねえ。虎までデカくないし、豹か?」
「女豹だ。リゼンブールの女豹!」
「女豹!!!」
ってな感じで、もうその場にいる全員爆笑だよ。


それからあの女の二つ名は『リゼンブールの女豹』になった。
酒場にあいつが現れると「よう、女豹!」とあちこちから声がかかって
酒のボトルを頼めば「女豹が野良犬かっ喰らってるぞ。」とからかわれ
るって具合だ。


―――エ? 野良犬ッテ?


ああ、「STRAY DOG」って安酒のことだ。眼帯した犬のラベルの酒瓶
見たことあるだろ。
あいつも最初は女豹よばわりをいやがってたが、そのうち苦笑まじりに
自分でも使い出してたよ。
そのうち『リゼンブールの女豹』っていえばラッシュバレーじゃ知らん
者はいない機械鎧職人になった。めでたしめでたし。


―――ちょっと待って下さイ。それも充分すごいですけド、全然ムチャ
クチャじゃないでス。正しいことをつらぬいただけでス。
ドミニクさんの口ぶりだト、もっととんでもないことしたのかと思った
んですけド、違うんですカ?


・・・お前さん、それを言わすか、俺に。
話したくねえからめでたしめでたしでシメたのによ。
わかってんだろ、こんだけ詳しく話せるからには俺もそのとんでもないこと
に絡んでくるのが。その腕失くしたときのこと話せってのと同じだぞ。
・・・まあ、そのうちな。もうすぐメシの時間だろ、片付けろ。


―――その言い方、気になりますヨ。絶対こんど教えてくださいネ。











あとがき


どこに需要があるのか、と言われるでしょうがずっと前から書きたかった
ピナコの武勇伝。語り手ドミニクさん・聞き手ランファン。
ノックスさん視点で書いたときも思ったけど(×ランファンアンソロジー)
オヤジの語りは書いてて楽しいなあ。
完全に捏造ですが、ちょっとでも「ありそう」と思っていただければ
書き手としては嬉しゅうございます。


そして女豹伝説は続きがあります。その名も(顎の古傷篇)。
ドミニクさんの「古傷が裂ける!」のシーン、読み返してたらホントに
手で顎の傷かばってるんですよ。
本編ではドミニクさんマジで怯えてましたが、も少し色んな感情の交流が
あったと捏造するつもりです。いつ完成するかはわかりませんが(苦笑)。