解き放つ | 風紋

風紋

鋼の錬金術師ファンの雑文ブログ



  リンとランファンに愛が偏っています


そのまなざしにも、言葉にも、とらわれず振舞いたくて飛び込んだ。
お互いの顔が肩越しに交差するくらいぴったりと寄り添ってしまえば、
主の表情を見ずに済むから。
肩に顎をのせて腕を廻して抱きしめてしまえば、何も言わずともこの身の
震えがあふれる思いを伝えてしまうはずだから。
厚い胸板はどんなに荒っぽく抱きついても揺らがず受け止めてくれるから、
昂ぶる気持ちと勢いのまま、ゼロの距離へと飛び込んだ。


「どうした?」
常にはない私の振舞いに戸惑い気味の主の声が頭の後ろに響く。
眼の前でその言葉をかけられたなら、いつものように何も言えなかった筈。
こうしてゼロの距離からならば思い切れる。
つのる思いの万分の一も言葉に出来ないもどかしさを吐き出せる。


「・・・今夜は」
頭を廻らせすぐ横の主の耳元へと無声音で囁いた。
「ずっとおそばにおいて下さい。」
言いながら髪紐に手をかけ、ほどいてゆく。
私のものよりいくらか硬く不揃いに伸びた黒髪は解き放たれてひろがり、
それ自体が生命そのもののように無造作に揺れる。
肩の上に散らばる髪のひと束にそのまま口づけると、唇の下で薄い上着の
布地ごしにひくりと肩がこわばった。
肌をとおして伝わるものを感じようとする、一瞬の永遠。


「こんなことされたら、抑えられなくなるだろ。」
秘密めかした低い声で、言うなり主は私の髪紐を解いた。
結いあげた髪が落ちかかり、主の手にからみつく。
自分ではつかまえきれない本能のように。


―――せめてこんな、誰にも知られぬ夜の中でだけなら、素直になろう。
思いを伝えきれない不甲斐ない自分ができるのは、恋い慕う心のまま
体をすり寄せて高まりあう情熱に身を任せることぐらいだから。


「いいのか?」


「そうしてほしいんです。」
抑えきれないものを解き放ちたかったんです。
だから。


身体に廻された腕に力が込められ、二人重なるように倒れこんだ。
はだけた上衣から樫の木のようなたくましい身体があらわになる。
上体の重みを支える腕の力の漲りを、撫で上げる指先で感じる。
つかまる肩の厚みに、到底かなわない力への慄きとそれに圧倒され
屈服させられるひそかなよろこびを期待し、掌が汗ばむ。
ゆっくりと覆いかぶさってくる主の体の圧迫感に、逃げ場を失い立ち竦む
小獣のような心許なさと捕らえられた身の高揚に息を呑む。


あの髪紐と一緒に解き放ったのはどちらの心だろう。
もう眼を開けていられない。
指先が震える。


「受け止めさせてください。」


閉じたまぶたにもさらさらとふれる主の髪の感触。
眼の前にはきっと欲望に瞳を輝かせた主の顔。
その瞳に映る私はどんな乱れた表情をしているのだろう。
それでもいい、それを見るのは主だけなら。
ものごとのあとさきも理も忘れて二匹の獣のように、
あさましい欲望に溺れてしまいたい。
このままこの身をこのひとに食い尽くされてしまいたい。







あとがき


ランファン視点で何か甘いのを、と考えていたはずが微エロになってしまう
あたりが私の脳みその救いのなさです。(絶望!)
年内中に小説の更新をしたいと考え、お蔵に入れっぱなしのなかから何とか
集中して完成に持ち込めたのがこの、「雪待月」雅さまがラフ画風に描かれた
リンの髪紐をほどくランファンの絵に触発されたssだったという・・・
雅さま、無断のうえこんな使い方してスイマセン。
普段色んな感情を押し込めているぶん、時折むちゃくちゃ情熱的だといいな
という個人的希望のもとでの攻めランファンです。異論が多そうですが。