あたたかな背中 | 風紋

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鋼の錬金術師ファンの雑文ブログ



  リンとランファンに愛が偏っています

「ランファン疲れたよ、おんぶして。」
リンはふざけた口調で、片膝をついてクナイの手入れをしているランファンに
背後から抱きついた。
「リン様!何をなさるんですか。」
一瞬体を硬くしたランファンだが、リンが浮かべる笑みにつられたように
ぎこちないながらも微笑みを返し、
「もう、ご冗談を。」と呆れたようになんとかいなす。
主の立場を憚ってふりはらえないのをいいことに、リンはランファンの
体を抱きしめたままのんびりと言葉を紡ぐ。


「昔、よくこうしてランファンにくっついていたよなあ。」
「・・・リン様、おさびしいのですか?」
ランファンが遠慮がちな声で尋ねる。
「どうしてそう思うの?」
「あの頃のリン様が『疲れたよ、おんぶして』とおっしゃるのは
いつもさみしい気持ちになられた時だったからです。」
「そうだったかな。」
「はい。宮中の行事で母后様のお姿をご覧になられたあとなど必ずこう
おっしゃって。すいません、だからおさびしいのかと。」
「そうか。気づいてなかったな、そんなの。」


まだ自分の背丈がランファンより低かった頃。
まだランファンがクナイを持つことがなかった頃。
あの頃、ランファンの口からそのようなことは全くきかれなかった。
大人しい彼女は俺がわがままを言っても無茶をしても、嫌な顔もせず
いつもそばについていてくれて、それが当然だと思っていた。
皇子としての生活は、おためごかししか言わぬ大人に囲まれることと同義で
だからこそ、俺は彼女にだけは際限なく甘えていたのだ。
ほんの少し年長なだけの、護衛や臣下というには若すぎる少女に対して
「ランファン疲れたよ、おんぶして。」そんな言い方しかできずに。
自分ではどうにもならない事柄に苛立って気が塞ぐ、そんな時にも
ただ黙って体を添わせてたままいてくれた彼女の優しさに胸が熱くなった。
俺はあんな幼い頃から彼女に守られてきていたのだ。


「今は全然さびしくなんかないよ。ランファンがこうしていてくれるから」
彼女の肩を包み込むように腕をまわしたまま、頬をよせて囁く。
「それに、気づいている?」
「何をですか?」
少し顔を赤くし、体を硬くしたままランファンが尋ねる。
「こうして後ろから近づいても、ランファン俺の気には警戒していないんだよ。」
「それは当然です。リン様はお守りすべき主君なんですから。」
・・・やれやれ、俺の忠義な臣下はそれが愛ゆえなどは考えもしないらしい。
それだけ俺に心を許してくれてるんだと思いたいんだけどな・・・。


でも、暗闇に潜む襲撃者の数さえわかるほど気を読めるランファンが
リンには背後をとられても平然としている。
そして何よりずっと変わらず自分のことを何より大切に思っていてくれている。
あの幼い頃から歳月が経って、自分も彼女も随分と面倒なことに巻き込まれ
ながら大人になったけど、彼女の細くたおやかな身体をこうしてそっと
覆いかぶさるように腕のなかに抱きこんでいられることは、きっと。


「・・・しあわせ、っていうんだろうな。」
「何がですか?」
「いや、あの頃の自分に教えてやりたいと思って。
おんぶしてもらうより、抱きしめてあげられるようになったらもっと
さびしくなくなるよ、って。」
彼女の背中のあたたかさをいとおしむように、リンはもう一度ぎゅっと
ランファンの体を抱きしめた。





桜咲乱さまよりいただいたリクエストss第三弾。
「ほのぼのラブラブ。後ろから抱きつくのが大好きなリン様」という
お題でした。