硝煙と紫煙 | 風紋

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鋼の錬金術師ファンの雑文ブログ



  リンとランファンに愛が偏っています

「っと、ごめん。」
そう言ったその人の仕草があまりに自然だったので、私はなんのことだか
わからなかった。
「なんですカ?」
それ取ってくれる?とかそんなちょっとした用事を言われるものと
思って次の言葉を待っていたが、それがない。


視線の先をたどって初めて気づいた。
部屋を入ってきた時には口にくわえられていた煙草が、まだ長いまま
灰皿に押し付けられている。
「あ」
私がいるからこの人は煙草を途中で吸いやめたのか。


「私のことなんか気にしなくていいですかラ。」
慌ててそう言ったが、
「俺のほうが気にすんの!女の子に嫌われたくないもんね。」
屈託のない笑顔でそう返してくる。
それはあまりにも自然で受け入れざるをえないけど、
心許すほどまだこの人を知らないはずなのに、
なぜだろう。


思えば初めからそうだった。
あの廃墟のような古いアパート。
66と呼ばれる鎧とファルマンという男と潜伏していたあの部屋に
腐臭をまとったバケモノが襲い掛かってきた時。
ドアを拳銃で壊して覆面で顔を隠して侵入してきた男がこの人だった。
推何の間もなかった。
「味方カ?」のひと言に無言で頷くのを見た時、大丈夫だと思った。
こいつはわかっている。話が早い。覆面も無言も訳あってだと。
「ここはまかせタ。」
床を蹴って窓の外へ飛び出したあの時。
なぜあんなに自然にこの人のことがわかったのだろう。


あの時は硝煙の匂いがたちこめていた。
今は煙草の紫煙の匂いが。
私はどちらも嫌いじゃないから気にしないで。
言おうとしたけど、やめた。
照れずに言える自信がないし、言わなくてもわかっているような
気がしたから。





あとがき
素敵リンランサイト「ティント」の芦屋さまが絵板で描かれていた
ハボランに刺激されて書きました。
芦屋さますいません、アイデアいただいちゃいました。