平成ジレンマ(ネタバレ) | 三角絞めでつかまえて2

平成ジレンマ(ネタバレ)

平成ジレンマ

三角絞めでつかまえて-平成ジレンマ

2010/日本 上映時間98分
監督:齊籐潤一
ナレーション:中村獅童
プロデューサー:阿武野勝彦
出演:戸塚宏
(あらすじ)
1980年代初め、非行や不登校の子どもたちを厳しい訓練で再教育していた戸塚ヨットスクールで、訓練生の死亡や行方不明事件が起きる。傷害致死罪などで裁かれた戸塚宏校長は収監され、2006年に刑期を終えて校長として現場に復帰。今では訓練生の大半が引きこもりやニートなどで、高年齢化した同スクールの現在を追う。(以上、シネマトゥデイより)

予告編はこんな感じ↓




92点


※今回の記事は、暴力的な文章が書かれていたり、暴力的な動画が貼られていたりするので、そういうのが苦手な人は要注意です。
この映画に関しては、本当にネタバレを読まないで観た方が衝撃が強いと思うので、観る予定の人は読まない方が良いです。


なんか気になっちゃいましてね。初めてポレポレ東中野に行ってきましたよ。


入り口はこんな感じ。劇場自体は予想より広くてビックリしました。
三角絞めでつかまえて-ポレポレ東中野


感想を書くと、知恵熱が出ました。このブログをよく読んでいる方はご存じだと思うんですが、残念なことに僕はそんなに頭が良いワケではないので、難しい問題を考えるとリアルに熱が出てしまうんですよ。今、この記事は夜中の3時に書いているんですが、マジで具合が悪いです… (´д`lll)  だから、なるべく長くならないように文章を書いときます。

僕と同年代の人なら、ある程度はご存じだと思うんですが…戸塚ヨットスクールって知ってます? 知らない人はwikipediaを読むとか、上之郷利昭さんがヨットスクールの合宿所に泊り込んで取材した「スパルタの海―甦る子供たち」を読むとか(このサイトで読めるっぽいですが)、「無限回廊」さんの「戸塚ヨットスクール事件」を読んだりしてほしいんですが、僕的にはずっと狂人狂人の理屈で青少年を更生させようとする暴力施設」だと思ってたんですね。

で、今回の映画ですよ。昔の体罰上等のハードな暴力映像を交えながら、戸塚宏さんや戸塚ヨットスクールの“今の風景”を映していくワケですが、やっぱり昔のやり方は「どう見てもアウト! d(゚∀゚ )」ですわな。「ヒーローショー」とか「息もできない」とか、佐山聡さんのシューティング合宿映像とかを思い出しましたよ。人によっては、ここだけでも“実録暴力映画”として楽しめるかもしれません。


まぁ、これは選手の潜在能力を引き出すためにやってたそうですが、英題が「bully」というのがなんとも…。




百歩譲って「ヨットの訓練で水死した」とかならまだ分からないでもないけど、普通に傷害致死で2人殺してるワケだからさ。生徒が死んだことを悔やんでいても、未だに「方法論は間違ってない!」ってのは、どう考えてもおかしいと思うんですよね。まぁ、自分と意見が違う人間を一方的に狂人呼ばわりするのは乱暴だとは思うので止めますが、ちょっと怖い考えの持ち主というか。こういう人を東京都知事が支持しているという事実は、さらに恐ろしいなぁと思ったりもして。

ただ、今の戸塚宏さんは“主張では体罰&イジメ推奨”なんですけど、基本的には戸塚ヨットスクールで体罰をおこなっていないそうなんですね。「あんな奴の言うことを真に受けるのか!」と思う人もいるかもしれませんが、この映画を観る限りはそうだったし、そう思わせる説得力があって。で、映画を観ていると感情移入しちゃったりもして。

だって、よく考えてみてください。さっき僕が書いた狂人狂人の理屈で青少年を構成させようとする暴力施設」というのは実に乱暴な表現ですけど、これって“世間一般のイメージに近い”と思うんですよね。そんなネガティブな場所に、しかも入学金が300万もかかるのに、今も10人ほどの青少年がいるという事実。結局、現在の日本には、そこに親が子どもを入れざるを得ない状況がまだあるってことじゃないですか。

施設に入ってくるのは、不良やニート、いじめられっ子って感じなんですけど(彼らを一緒くたにして教育するってのもどうかと思う)、中盤に自殺未遂を繰り返して精神科に通っていた17歳の女の子が入学してくるんですね。そういう子どもはさすがに今までは受け入れてなかったみたいなんですけど、お母さんの切実な訴えに負けて、面倒を見ることになりまして。


右の太った女性が亡くなった一恵さん。ハイタッチしてる相手は14歳の春香さん。
三角絞めでつかまえて-ハイタッチする人


スゲー失礼なことを書くと、見た目や言動からして「あ~あ」という感じの方というか、「これはすぐ逃げちゃうんでしょうな ┐(´ー`)┌ヤレヤレ」なんて思ってたら、3日後に飛び降り自殺ですよ。まさかそんな展開になるとは思わなかったので、本当にショックでした…。僕はボンヤリした記憶しかなかったんですが、この自殺は当時もこんな感じで報道されてました↓


「突発的で防げず」と戸塚校長 ヨットスクールで女性死亡


事件の記事だけ読むと「管理責任だ!」って拳を振り上げたくもなるんですが、映画を観てると本当にどうしようもなく感じるというか。いや、戸塚ヨットスクールに責任がないとか、そういうことじゃなくてさ、もう“世の中のシステムがどうしようもなくなってる”から、彼女は死んでしまったというか。だって、絶望的な状況だったあの母子に手を差し伸べたのは戸塚ヨットスクールしかなかったんだもの。

上から目線でミスをあげつらうのは良いけどさ、じゃあこういう現状があるって知ってるの? この現状を解消すべく、アンタたちは何かしてきたの? 「戸塚ヨットスクールは体罰が酷いから潰せ」と騒ぎ立てたのは良いけど、それを否定したアンタたちは“社会に適応しない子どもたち”を助ける“何か”を代わりに作ってきたの? 一方的に“悪者”を叩いてストレス発散したかっただけだったんじゃないの? 映画を観ていると、なんか、そう言われているようで、スゲー胸が痛くなりました。

「親がDQNなんだから仕方ないw」「すべての弱者を救えるワケがない」とか、ある一面では正しい意見なのかもしれないけど、自分や周囲の人がその状況になったら半笑いではいられないじゃないですか。思想的に戸塚ヨットスクールは大嫌いだけど、人生を賭けて真面目に取り組んでいる姿勢だけは評価できるし、戸塚宏さんを否定するのなら、その代わりになる“何か”を提示しなくちゃいけないんじゃないかと思ったりしましたよ…。

この映画の何がスゴいって、少し不謹慎ですけど、エンターテインメントとしても面白いんですよね。「途中で入学してきたいじめられっ子が、最初は弱々しかったのに、最後はちょっとたくましくなって卒業する」という感動的なシーンもあれば、逃げてしまったニートや不良の少年もいるし。冒頭、卒業して今は名古屋で会社を経営する40歳の社長が出てくれば、終盤には本当に大変そうな40歳の引きこもりが出てきたりして。ラストカットは、そんな彼と海を見つめる戸塚宏さんの絶望的な雰囲気の背中…。あの画にはちょっと鳥肌が立ちましたよ。

しかも、エンドロールでは、なんと戸塚宏さん自身が肯定していた戸塚ヨットスクール内でのイジメのシーンが流れるんですが、それがまた実にエグい。過剰に凄惨な暴力とか、そういうのではないんだけど、ガチで不快なんですよ。最後の最後にああいうシーンを持ってくる構成には、もうね、絶句しました。

作り手サイドはしっかりと“両方の視点”を提示していたというか、そんなに偏った作りではなかったと思います。このドキュメンタリーを作った人たちは本当に尊敬しますよ。もともとテレビで放送されたものを再編集して上映したワケですが、テレビ番組もちゃんとチェックしないとダメですな。そして、これに許可を出した戸塚宏さんも、好きじゃないけど、その腹の括り方は「本当にスゲェなぁ…」と感心しましたね。

ただ、最後に書いておくと、どういう理屈をくっつけようと、やっぱり体罰には賛同できませんわな。“信頼感のある暴力”って、単なる“やる側の押し付け”じゃないですか。僕が見てきた体罰をする教師って、理不尽なだけというか、単に怒りっぽい人ばかりでしたよ。「スクール・ウォーズ」で滝沢先生が殴るシーンは大好物だけど、あれだってよく考えると、僕が実際にあの場にいたら「先生、別に殴らなくても…」って思っちゃうような(あの直前の熱い説得で、十分反省してると思う)。「基本的に必要なのは対話であって、体罰を振るわずとも毅然とした態度で甘やかさなければ良いんじゃないの?」なんて考えは、やっぱり甘いんですかね? 甘いんでしょうね…。


スゲー燃えるんですけどね。最後の方の人が殴られる時に名前を呼んでもらえないのが可哀想。




まぁ、よく分からない“知った風なこと”をダラダラと書いちゃいましたけど、素晴らしいドキュメンタリー作品でした。不謹慎だけど、自殺した一恵さんのシーンなんて“ドキュメンタリーならではの重さ”としか言いようがなくて、本当に衝撃的で…。教育問題だけじゃなく、メディアについても考えさせられるので、「多くの人が観てくれればなぁ」と思います。ちなみに、パンフレットには、是枝裕和さん、安岡卓治さん、森達也さん、吉岡忍さん、萩野亮さんと非常に豪華なメンバーが寄稿しており、ちょっと鼻につく文章もあってイラッとするけど、かなりタメになったので、お財布に余裕がある人は買うと良いですぞ。




戸塚宏さん絡みの最新単行本。
三角絞めでつかまえて-体罰は必要だ
それでも、体罰は必要だ! (WAC BUNKO)