冷たい熱帯魚(ネタバレ) | 三角絞めでつかまえて2

冷たい熱帯魚(ネタバレ)

冷たい熱帯魚※シネマハスラーへのリンクなどを追加しました(3/26)

三角絞めでつかまえて-冷たい熱帯魚

英題:COLDFISH
2010/日本 上映時間146分
監督・脚本:園子温
脚本:高橋ヨシキ
出演:吹越満、黒沢あすか、神楽坂恵、でんでん、梶原ひかり、渡辺哲、諏訪太朗
(あらすじ)
熱帯魚店を営んでいる社本(吹越満)と妻の関係はすでに冷え切っており、家庭は不協和音を奏でていた。ある日、彼は人当たりが良く面倒見のいい同業者の村田と知り合い、やがて親しく付き合うようになる。だが、実は村田こそが周りの人間の命を奪う連続殺人犯だと社本が気付いたときはすでに遅く、取り返しのつかない状況に陥っていた。(以上、シネマトゥデイより)

予告編はこんな感じ↓




100点


※今回の記事は、R-18の映画を扱っているので、18歳未満の方は読まない方が良いと思います。
※今回の記事は、残酷な描写が書かれているので、そういうのが苦手な人は読まない方が良いかもしれません。


理想の“実録風ダーク・ファンタジー映画”でした。

テアトル新宿で観てきました。なんて言うんですかね、先日、非常に感動させられた「その街のこども 劇場版」が人間の善を描いた作品なら、「冷たい熱帯魚」はその真逆であり、光と影、陰と陽、男と女、北斗と南斗、男塾とリリアン女学園のような関係というか…。でも、結局、描いていることは一緒で、僕は「これが“人”ってことなんだ!」とあらためて感動させられたワケです。

僕は「この素晴らしき世界」というキャッチコピーが実に秀逸というか、本当にこの作品にピッタリだと思っていて。とにかく吐き気がするほど凄惨であり、まったく救いがない内容なんですが、それこそが今、僕たちが必死に生きている世界の現実でもあって。村田幸雄が劇中で言うように、「丸くてツルツルした星なんてこの世にねぇ!」ワケじゃないですか。


でんでんさんと渡辺哲さんの濃厚なツーショット。
三角絞めでつかまえて-でんでん


普段はその事実から目を背けて生きてますけど、世界は残酷なことや非道なことで溢れていて、ノホホンと暮らしてたのに、ちょっとしたキッカケで一気に魔空空間に引きずり込まれて恐ろしい目に遭うことなんて、腐るほどあるワケです(しかも、こっちは宇宙刑事でもないのに!)。そして、「村田幸雄」ほどじゃないにせよ、言葉や雰囲気で上手に相手を縛っていくオッサンって普通に身近にいるんですよね。脚本には、園子温監督が詐欺でああいう人に騙された経験や、高橋ヨシキさんが出会ったイヤなオッサン&自らの父親との関係などが反映されているそうですが、僕自身、仕事でああいうオッサンに騙されそうになったことは何度かあるし、そもそも小さな建築関係の会社を経営している僕の叔父があんな感じというか。殺人云々はないにせよ、ああいう罠って日常に溢れているので、本当にね、この映画を観てみんな気をつけてほしい」と心から思いました。

ちなみに、話は「『埼玉愛犬家連続殺人事件』にインスパイアされた」ということで、実録モノっぽい感じかと思っていたので、途中、社本がブチ切れて村田に逆襲したのにはマジでビックリしましたね。しかも、村田を殺してから、大切な自分の家族を守るのかと思いきや、逆に壊しにいくという…。最後、愛子(黒沢あすか)と奥さん(神楽坂恵)を殺して、娘の前で「人生はな、痛いんだよ!」と言って自殺する展開もまた驚いたけど、その死んだ社本を娘が「やっと死にやがったな、クソジジイ!」と蹴りまくるというオチに至っては口がアングリ状態というか。予想を裏切りつつも期待は裏切らない展開の連続に、心が揺さぶられまくりでした。

何がスゴイかって、ゲンナリな犯罪ストーリーを誇張した描写やエロとグロで彩った作品自体は他にもあるんでしょうけど、この映画はエンターテインメントとして恐ろしく面白いんですよ! 例えば、人体が解体されるシーンや、「奥さんを娘の前でレイプする社本→なじる娘→娘を殴って昏倒させる社本」という酷すぎるシーンで満員の会場が爆笑に包まれるワケです。非日常的な空間で普段通りに振る舞う人間がこんなにも恐ろしく、こんなにも笑えるのかと(オヤジギャグがあんなにウケるなんて!)。究極のブラック・ユーモアというか、奇跡のような作品だと思いました。

もうね、とにかく出演者の演技は「全員素晴らしかった!」と絶賛するしかないんですが、特にでんでんさんが演じた「村田幸雄」は映画史に残る悪役であり、僕にとっては今まで観てきた作品の中でもトップレベルに恐ろしいキャラクターだと思いました(なぜなら“村田は実在する”から)。社本役の吹越満さんも実在感があって良かったし、愛子を演じた黒沢あすかさんも狂ってて最高だったし(「遠慮しないで~」のところでは吹き出しました)、神楽坂恵さんも実に魅力的でした(そして、黒沢あすかさんと神楽坂恵さんの露出を厭わない姿勢は賞賛に値する!)。梶原ひかりさんも最後に父親の遺体を蹴りまくる時の表情、スゲー良かったです。

その他、僕的には、演出とか、編集とか、音楽とか(フレール・ジャック風の不穏な曲が好き)、すべてが完璧に見えました。特に「吉田(諏訪太朗)が死んでいく中、村田が演説をするシーン」とか「悪徳弁護士・筒井(渡辺哲)の家に乗り込むシーン」は鳥肌が立ったというか、もう「スゲェ!」としか言いようがなくて…。村田がやたらとボディタッチしたり、骨を焼く時に醤油をかけたりと、細かいところもちゃんと押さえてるのも感心しました。「愛のむきだし」の時も尊敬したけど、園子温監督、恐るべし!

そんなワケで、まだ1月なのに今年のベスト1映画…というより、生涯ベスト級の作品を観てしまったような、そんな気分です。仕事が忙しい中、「キック・アス」「イップ・マン」もまた観に行くつもりだったのに、さらに観たい映画が増えてしまいました…。映画として面白いのはもちろんのこと、「ああいうオッサンに引っ掛かっちゃダメ!」「現実社会は恐ろしい落とし穴がたくさんあるんだよ!」的な教育的側面もある誠実な作品なので、18歳以上の人にはぜひ観て欲しいと思います。ただ、昨年のベスト1が「ダーリンは外国人」という僕の奥さんが観たら確実に発狂するような露悪さに溢れているので、観る時は気をつけて!

宇多丸師匠の非常にタメになる批評がアップされたので、聴いてみて! 僕的にはすっかり「フレール・ジャック」を使っていると思っていたら、実は有名なクラシック音楽だったことが分かって、自分の教養の無さにガッカリしましたよ…。




園子温監督作。4時間があっという間でした。僕的にはこっちの方が精神的にキツかったり。
三角絞めでつかまえて-愛のむきだし
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