BECK(ネタバレ) | 三角絞めでつかまえて2

BECK(ネタバレ)

BECK※シネマハスラーへのリンクなどを追加しました(10/8)

三角絞めでつかまえて-BECK

2010/日本 上映時間144分
監督:堤幸彦
脚本:大石哲也
原作:ハロルド作石
出演:水嶋ヒロ、佐藤健、桐谷健太、中村蒼、向井理、忽那汐里、カンニング竹山、倉内沙莉、水上剣星、古川雄大、桜田通、川野直輝、竹中直人、桂南光、有吉弘行、品川祐、蝶野正洋、もたいまさこ、サンキ・リー、松下由樹
(あらすじ)
平凡な男子高生コユキ(佐藤健)は、ニューヨーク帰りの天才ギタリスト・竜介(水嶋ヒロ)に偶然出会う。竜介は、ラッパーの千葉(桐谷健太)とベースの平(向井理)を誘い、そこにコユキとドラムのサク(中村蒼)を加えてバンド「BECK」を結成する。初めは戸惑うコユキだったが、バンド活動を重ねるうち、天性のギターの才能を開花させていく。(以上、エイガ・ドット・コムより)

予告編はこんな感じ↓




33点


※今回の記事は「BECK」が好きな人が読むと不快になる恐れがあります。

オレはつまんない奴。ずーっとこの映画は観ないのかなと思ってた…あの男がサイの目で当てるまでは。って、別に気が利いてるワケでもなく、全然うまくない文章を書いてしまいましたな…。そもそも原作を読んでなかったので、全然観るつもりはなかったんですけど、今週の「シネマハスラー」の課題作品になってしまったということで、新宿ピカデリーで観てきました。それなりに頑張ってたんじゃないでしょうか。

とりあえず役者さんたちは結構良かったですよ。佐藤健さんは電王の時もそうでしたけど、“いじめられてる内気な少年”的な役がピッタリですよね。カッコ良いシーンではカッコ良く、ボンヤリしてるシーンではちゃんとボンクラに見えるというのは、スゴいと思います。僕は原作を未読なのでイメージが合ってるのかどうかは分かりませんが、概ね良い感じに演じてましたよ。水嶋ヒロさんも“もともと帰国子女”ということで、役柄的にはピッタリだったと思いました。演技的にはちょっとカブトっぽかったけど、ビジュアル的には映画にちゃんとハマッてる感じだったし。桐谷健太さんもMCバトルシーンは微妙に感じましたけど、「EVOLUTION」を歌うシーンは嫌いじゃなかったです。


この曲、僕は結構好きでした。



レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン「Guerrilla Radio」に似てるなんて、気にしない気にしない。




カンニング竹山さんはよく分からないけど面白い存在感があったと思います。松下由樹さんは、どうしても「朝はパン…パン、パパン」感というか、異物感がして仕方がなかったけど、まぁ、良いんじゃないですかね。この手の邦画のカメオ出演は、基本的にあまり好きじゃないというか、品川祐さんの「お代が足りない描写」とかハッキリ言ってウザいというか、「その時間削れよ」とか思いましたけど、蝶野正洋選手が出たのでオールOK(同じ理由で「監督・ばんざい!」の評価も甘め)。

脚本については…ストーリー自体は基本的には“実にありがち”ですけど、分かりやすくて良かったんじゃないですか。他人から盗んだ犬とギターに勝手に愛着を持って、しかも盗まれた人がそのギターを探してるのを分かってるのに大勢の前で披露しまくるというのは狂人の行動にしか見えなかったけど、それが原作通りなら仕方ない気はします(漫画では説得力がある感じなんだろうなと)。ただ、車上荒らしを「ヤンチャ」とか言ってたのは激しく不快感を覚えましたね(言葉のチョイスがどうかと思う)。

あと、原作全34巻もあるということで、この映画が何巻分を消化しているのかは分かりませんが、キャラクターを掘り下げる時間がないのに展開はそのままっぽいので、よく分からない描写も結構あって。サクがコユキのために体を張るのが唐突だし、イジメられているコユキが学校の屋上でギターを弾くのはさすがに迂闊すぎだし、兵藤軍団も千葉にちょっとボコられたくらいでフェードアウトしちゃうし、竜介が女性と遊んだりする描写が一切出てきてないのに、突然、妹に「女性を取っ替え引っ替えして…」みたいに責められたりするし…。そういえば、竜介がレオン・サイクスにボコられた後、殺されなかったことについて「オレは殺される価値もないのか…」「こんなオレに音楽で世界を変えられるのか?」みたいな台詞(うろ覚え)を言い出した時も「それとこれとは話が違くね?」としか思えなかったなぁ。

最後の“入場者数を競ったフェス勝負”もちょっと…。僕はフェスに行ったことがないからよく知らないんですけど、素人目から見ても無理な話だと思うんですが。ああいうのって、最初のプロモーションが重要であって、「その場の演奏が素晴らしいから観客が増えるというものじゃない」ですよね? 僕は本当に千葉と同意見というか、「幻覚を観たからイケる」って理屈、マジであり得ないじゃないですか(最終的には千葉もその幻影を見るワケですが)。

まぁ、主人公が「甲子園が見える!」とか言いだす野球漫画は大好きですし、「目標を高く設定して実現する」的な意味合いならまだ分かるんですけど、「電波映像をキャッチしてない奴はダメ」みたいな理屈はさすがにおかしいというか。たまたま悪天候になって、いろいろな偶然が重なって奇跡が起きて、勝負に勝ってハッピーエンドになったワケですけど…。たぶん、原作は説得力があるように描いてあって普通に楽しめるのかもしれませんが、この映画だけ観ると、すみません、バカバカしくて全然乗れなかったです。


この人もおかしかったけど、部員に強制はしなかったもんなぁ(「逆境ナイン」より)。
甲子園が見える!


って、ダラダラ書いてますが、この映画の最も注目したいポイントは何と言っても演出ですよね。コユキの歌声は「聴く人の心を無条件で掴む“奇跡の歌声”」という設定なんですが、なんと映画の観客には歌声が聴こえないんですよ。これは非常に賛否両論あると思いますが、僕は「発想的にはアリ」だと思いました。

要はコユキ=きれいなジャイアンということじゃないですか。僕は小さいころ、アニメのドラえもんジャイアンの歌を聴いて、「なんだ、耐えられるじゃん」とちょっと失望したんですよね。製作者側もいろいろ加工して破壊力がある風に工夫してましたけど、やっぱり「劇中の人たちほどの苦痛は味わえない」というか(まぁ、実際に味わえたら大問題になるワケですが)。だから、逆ジャイアンであるコユキの歌を実写化した場合、どうしたって同じ堤幸彦監督作の「20世紀少年」「ボブ・レノン」の時のように「思ってたのと違う~」なんて思われる恐れがあるワケですから、あえて聴かせずに観客の想像力に任せるという発想自体は「なるほど~」と感心したのです。


まぁ、きれいなジャイアンが歌ったことはないんですがー。
三角絞めでつかまえて-キレイなジャイアン


ただ、それを何回もやられるとさすがにウザい。一緒に流されるスピリチュアル映像みたいなのもいちいち気持ち悪かったし、スローとかにするから「これは…音響兵器?」「聴き終わった後、観客の耳から血が吹き出るのでは…」的な不穏な印象を受けたりもしたし。最後のシーンなんて画面下に歌詞が出ちゃって、カラオケかと。「ちょっと、誰入れたの? 歌わないなら消すよ!?」的な気分になってイライラしましたね。よくよく考えると、ちゃんと表現出来ないんだったら、実写化する意味があまりない気もするし…。意欲的な試みだとは思いますけど、漫画なのに歌を読者に聴かせた「サルまん」の域には達してないなぁと。


漫画で歌を聞かせる技術は「がきデカ」に隠されていたーー。興味がある方はぜひ「サルまん」を読んでみて!
ほてる体をしずめましょ


「大体、今の時代、歌声であそこまで人を惹きつける力があるんだったら、いくらカリスマプロデューサーの蘭(中村獅童)に妨害されようと、ネットとかで話題になって人気を集めるんじゃないの?」とか「最後の『Don't Look Back In Anger』とか、さすがに安易では」とか、ついついツッコミまくっちゃいますが、最初の方に書いたように、役者さんたちが魅力的だったので、それなりには楽しかったです。むしろ、ジャンル映画のつもりでツッコミを入れながら観ればそこそこ愉快な作品なんじゃないですかね。気になる人は観に行っても良いと思いますよ~。

宇多丸師匠の素敵な批評町山智浩さんの素晴らしい評論がアップされたので、興味がある人は要チェックですぞ。




原作漫画です。いつかまとめて読もうかしらん。



サントラを貼っておきますね。



公式ガイドブック。ビジュアル的には悪くないと思うんですよ。



映画のメイキング映像。それなりに面白そうですな。



アニメ版のコユキはちゃんと歌ってるそうな。