第51話 | 臨時作家

第51話

「こんな時間までなにをしていたんだ」
「友達の家で勉強したいたら遅くなっちゃって。どこか行くの?」
「……智司がいなくなった」
「いなくなった……?」
「由比ヶ浜で智司の着ていた上着が見つかった」
 建は、弥隅の言葉の意味を図りかねていた。
「どう言うこと……?」
「そのことで、さっき警察から連絡があった。これから智司の家にいってくる」
 弥隅が式台へと向かう。建が「仁志は……?」と、弥隅の背中に声をかけた。
「仁志は家だ。いろいろと警察に訊かれているはずだ。……戸締りを頼むぞ」
 弥隅が急くようにして雪駄(せった)を引っかける。
 引き戸の閉まる音が異様な鋭さで静寂をやぶった。
 桂介が道場から出てきても、建は引き戸を凝視し呆然と立ちつくしていた。震えているようだ。建がわななくように「あの手紙のせいだ……」と、呟いた。
 桂介は「しっかりしろ」と言って、建の肩を抱くようにして軽く背中をたたいた。建はだが、身体を硬くしたまま身じろぎもしない。上着のポケットにあった名刺入れから一枚抜きだし建の手に握らせる。建が緩慢な動作で桂介を見上げてきた。
「俺の名刺だ」
「………」
「明日から一週間ほどロスにいくが電話は通じる。なにかあったら連絡をくれればいい。会うことはできないが相談になら乗れる」
「ほんとうに……?」
「ああ。時間を気にすることはないぞ。俺はいつだってかまわない」
 建は肯くと、力なく微笑んだ。



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