ヨンアにそっくりのチェ・ヨンを見て、みんな開いた口がふさがらない様子だった。
そりゃそうよね。
「テジャングンが、もうお一人……」
「おれは夢をみてるのか」
「うるさい。敵を討ち取るのが先だ。さっさと帰りたいだろう」
その一言が効いたのか。疑問を置いておいて、作戦に集中する流れになった。
結果。
ヨンアの代わりにテジャングンとして軍を率いたチェ・ヨンは、大勝した。
お見事。さすがチェ・ヨンだ。
無事に帰ってきたところを見て安心したわ。
神様はこの世にいるのよ。やっぱり。
最後の最後で、見捨てたりしないのよ。そう信じたい。
それにしても、ヘンだ。
ヨンアが負傷したことが、「死んだ」って噂になってる。
だれがこんな人騒がせな噂を流したのよ。わたしがどれだけ辛かったか。
犯人を殴ってやりたい。
矢で射られたのを見て、死んだって早とちりしたの?
ヨンアはケガをしても、戦い続けた。戦いが終わったあと、運ばれたところを見たのは仲間だけ。兵のなかにスパイがいたんだろう。
噂が広まるのが、速すぎる。
あらかじめ用意していたシナリオみたいじゃないの。
……ヨンアを邪魔だと思う人間が、仲間の顔をして矢を射たってこともありうる。
ヨンアの寝顔を見ながら、考えていた。
あなたのことを、どうやったら守れるの?
あなたは武士(ムサ)だから、自分の身くらい自分でって言うでしょうね。
でも、わたしは何かしたいのよ。
役に立ちたい。
あなたにもう一度会ったら、言いたかったこと。
ごめんなさい。
わたしはあなたに守られるだけで、何も返せなかった。
目を開けて欲しいのに、でも、見合うのがこわい。
 
 
 
 
都に戻った。
ヨンアは屋敷にいて、少しずつ回復してきてるみたい。
みたいっていうのも、他人事のようだけど……。
ちゃんと向き合えてないのは確かだ。したくたって無理なの。
屋敷には、ヨンアの正妻がいるのだ。
彼女の身内が医員も手配して、手厚く世話をしてくれているから、心配はないけど。
わたしは近づけない。
この弱気な発言、ユ・ウンスとは思えないでしょう。
自分でも嫌気がさす。
あの人のそばにいたいのに、わたしはいけない。
キ・チョルに強いられた結婚で、めとった奥さんは十三歳。違う、もうすぐ十四歳になる。
ヨンアを父親のように慕ってる。とってもいい子よ。
周りにいるおじさんおばさんがくせ者で、側室ごときがってことあるごとにうっるさいのなんの。もう慣れたけど。
あの子は、もうじきお母さんになるらしい。
初耳だ。
信じられなかったけど、本当らしい。
誰の子よ。って、夫の子でしょう、ヨンアの子。
わたしが知らなかっただけで、夫婦として過ごしてたんだって知るのは、キツい。
がっかりして、腹が立って、でもヨンアにはヨンアで思うところもあるんだろうし、夫婦仲良くて何が悪いって、人ごとみたいに思えたりもする。
何よ何よ、バカ。
……これもすべて身から出たサビだっていうの。
知らないままでいたかった。
わたしはスリバンの飯屋の二階にやっかいになっている。
窓から外を見てると、なんとなくぼうっとできる。
色々考えるのは、苦しい。
人の流れを見下ろして、ため息を飲み込んで、酒はないから歌をうたう。
子守歌だ。
早く帰らなきゃ。
ジスが心配してる。泣いてるかも。
戻らなきゃ。
ヨンアがいる世界に、わたしの居場所はないような気がする。
たまらなくさびしいけど……。
あの人と会うまえに、帰った方がいいのかもしれない。
会ったら未練が捨てられなくなる。